映画『ジョゼと虎と魚たち』(新宿東口映画祭2023 上映)

やっぱり映画は映画館で観るものだ。

「新宿東口映画祭 2023」のプログラムとして上映された映画『ジョゼと虎と魚たち』(犬童一心監督、2003年。以下、本作)で、主人公恒夫つねお(妻夫木聡)のモノローグの後、流れてきたオープニングテーマ(音楽・くるり)を聴いて、鳥肌が立った。
こんなにいい音だったなんて。
繰り返し家で見ている間に、その音に慣らされていた私は、改めて映画館で映画を観る醍醐味を感じた。

本作は多くのファンを持つ名作であり、今更何かを説明する必要はないのだが、やはり繰り返し家で見ているといっても、映画館ほど集中してはいない(というか、ほとんどの場合、家飲みしながら見ている)し、途中を飛ばしたりすることも多く、久しぶりに全編通して観て(しかも大スクリーンで)、改めて考えることも多かった。

結局、恒夫とジョゼ(池脇千鶴)は別れることになる(後述するが、これは「ネタバレ」ではない)のだが、何度観ても本作はハッピーエンドなのである。
それは、ラストシーンのジョゼだけからの印象ではなく、恒夫が写真を見ながら懐かしそうに思い出を語る冒頭のシーンから示唆されていることだ。
さらに言えば、劇中においてジョゼが、フランソワーズ・サガンの『一年ののち』を朗読することによっても、結末が示唆されている。

「いつか貴女はあの男を愛さなくなるだろう」、とベルナールは静かに言った。
そして僕もいつかまた、貴女を愛さなくなるだろう。
我々はまたもや孤独になる。
それでも同じことなのだ。
そこに、また流れ去った一年の月日があるだけなのだ。
「ええ、わかってるわ」、とジョゼが言った。

朝吹登水子訳(劇中台詞書き起こし)

冒頭で恒夫が振り返るドライブは、彼がジョゼの家に移ってきてから『1年後』(とテロップが出る)のことであり、その幸せなそうな二人のエピソードの数々の中に、微細ながらも明らかな別れが提示されている(繊細な演出に応えた俳優たちの力量!)。

だから、二人が別れるというのは「ネタバレ」ではないし、そもそも本作に「ネタバレ」など存在しない。
何故なら、映画は終わっても人生は終わっていないからだ。

それも冒頭から示唆される。
恒夫は写真のエピソードを誰かに話しているのだが、その相手が誰だか明かされないどころか、ジョゼの名前さえぼやかしている。
ジョゼの家を出た時、彼は確かに香苗(上野樹里)と待ち合わせをしていた。しかし、その意味は劇中で明かされず、彼が香苗に寝返ったと断定することはできないし、そもそも、別れた原因が恒夫にあるとも断定できない。
ジョゼが朗読するサガンの『一年ののち』で、ベルナールは『いつか貴女はあの男を愛さなくなるだろう』と言い、続けて『僕もいつかまた、貴女を愛さなくなるだろう』と言っているだけだ(『あの男』について、ジョゼが朗読するという脚本上で言及されていないことに留意)。
そして、ラスト近くで料理を作るジョゼは物凄く大人びている。

本作において、恒夫がいつ誰に写真を見せているのか、ラストシーンのジョゼは恒夫と別れてどれくらい経っているのか、何も明かされていない。

唯一明示されているのは、「一緒ではないけれど、いや、一緒ではないからこそ、それでも二人の人生は続いている」ことであり、だからこそ本作はハッピーエンドであると言える。

(2023年6月4日。@新宿武蔵野館 「新宿東口映画祭 2023」)


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