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【毒親連載小説 #7】母とわたし⑤

また、
ひとたび夫婦喧嘩が始まり
怒声・罵声だけでは
怒りの収まらない母は、
家にあるお皿を次々と割り、
怒りをあらわにする。

お皿の割れるその不快な音に
私はずっと耳を塞ぎ続ける…。

翌朝、
粉々になったお皿の破片が
床一面に飛び散っているのを見ると、
朝から最悪な気分だった。

そんな日は決まって
母は私たちのお弁当は用意しない。

その代わりに小銭を投げつけられる。

その小銭で朝ごはんを買うのは
さらに私を憂うつな気分にさせた。

私は昔も今も泣き虫だ。

私の家庭は365日中、
ほとんどが両親の喧嘩だった。

夫婦喧嘩があるたびに、
頭では泣きたくないのに、
ポロポロと勝手に涙がこぼれてしまう。

幼少期、
私は自分の体の水分が全て涙になり
干上がってしまうのではないか?
というぐらいに本当によく泣いていた。

ひどく泣いた翌朝は、
まるで顔を思い切り殴られた
ボクサーのように目が腫れる。

そんな鏡に映る自分の顔を見て、
また泣きたくなる。

こんなひどい顔で登校するのも、
登校途中のお惣菜屋さんで
おにぎりを買うのも、
何もかも嫌になって
どこかに逃げ出してしまいたかった。

かといって私には
逃げる場所などどこにもなかった。

私は泣き腫らした目で
学校に行くのが本当に憂うつだった。

ある時はあまりにも目が腫れていて、
それに気づいた同級生から
「どうしたの?」
と聞かれることもあった。

(バレたらまずい…!)

そうとっさに思った私は
「あー多分、寝不足かな…?」
…と目を逸らしながら
苦し紛れの嘘をつく。

こんな憂うつな日は、
私は学校の授業のあいだ中、
早く時間が経ち、
一刻も早く目が腫れていない
元の状態に戻ってほしいと願った。

そして、
下校して家に到着する頃には、
目の腫れも収まり、
両親の喧嘩のことも家族全員が
きれいさっぱり忘れ、
静かな日常になればいい…。

そう強く願いながら
おそるおそる家のドアを
開けるのだった。

今、こうして書きながら、
あの頃の自分自身を眺めると
幼い頃のわたしはなんて
健気だったのかと、
泣き虫な私は
また、じわりと涙が滲んでくる。

不思議なことなのだが、
ポツリポツリと過去の記憶を
思い出しては書き出してみると、
まるで芋づる式のように
過去の忌々しいシーンが
次々とよみがえり、
まるで過去に
時間が逆戻りしているかのように
引きずり戻されるようだった…。

(つづく)

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