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【毒親連載小説 #10】母とわたし⑧

毎日、いつ起こるか分からない
修羅場のような夫婦喧嘩。

私はこの家庭が恐ろしく、
かといってこの状況を
どうすれば良いのかも
全く分からなかった。

そして、何よりもこの苦痛を
誰にも言えないことが
また私をさらに苦しめるのだった。

あの頃のわたしは、
自分ではこの両親のことを
どうすることもできず、
ただ黙って泣くことしかできず、
それでも、
この家に居続けなくてはならない…。

この現状を
どうすることもできない自分を
ただ恨めしく思うことしか
できなかった。

想像してもらいたい。

家庭というのは本来、
安全に守られるべき居場所のはずだ。

それなのに、いつ袋叩きに
遭うかも分からないこの危険な場所で、
20年近く住みつづけなくては
ならなかった苦痛がどんなものだったか?

いつ母の機嫌を損ねて
家を追い出されるのか…?

いつ、母から殴られるか
分からないという状況で
ビクビクしながら
生き続けた幼い子供が、
どんな心の傷を背負ってきたのか…?

私はこんな家庭で過ごしながら、
ただ毎日、絶望していた。

絶望したとて、
この地獄のような日々は
続いていくだけだった…。

そんな私ができたたった一つのこと。

それは、
自分の感情が出そうになるたびに
何度も何度も繰り返し
自分自身の心を殺し続けることだった。

幼少の頃のわたしは、
ただ息だけをしているような人間だった。

いや、果たしてわたしは
息をしていたのだろうか…?

親と暮らしてきた約20年、
私はいつ子供らしく生きていたことが
あったのだろう…?

心の中でそれを自分に問うと、
答えは出ない代わりに、
なんだか息苦しくなり、
だんだんつらくなってくる。

すると、理由なき涙が
またスーッと静かに頬を伝った。

(つづく)

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