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【毒親連載小説#36】海外渡航前のこと 4

その人物とは、
私のアルバイト先のコールセンターで
コンサルティングを担当していたS社長。

後からSさんから聞いた話だが、
彼はアメリカでトレーダーをしていたり
イタリアのシチリア島でマグロを釣り
築地に卸すまでの全ての工程を
ビジネスにしていたという
今こうして書いてみても
ビックリ仰天の人物だった。

私が働いていたのは
国際電話対応のコールセンターで
英語、韓国語、中国語などの
様々な言語に対応していた。

彼も実際に英語はペラペラで、
たまに現場で電話対応もしていた。

このように私の人生で
後にも先にも
出会ったことのないような
とんでもなくユニークな人物が
目の前に突如として現れた。

当時、
私はSさんが社長とは知らず、
現場によくいる恰幅のよい
コワモテなおじさんだなぁ…
ぐらいにしか思っていなかった。

でも、実際に話してみると
見た目とは違いとても気さくで
現場で顔を合わせるたびに
よく話しかけてくれた。

話すことが増えれば
自然と仲良くなっていった。

ある日のことだった。

彼はいつものように私と雑談をしながら

「なんでこんなところでバイトしとんねん。」

といつもの軽い関西弁で
私にこう何気なく尋ねてきた。

その質問に対して私はキッパリと
自分のルーツを実際に確かめたくて
韓国留学に行く費用を貯めている
ということを話した。

(こいつ、面白そうなやつだな)

そんな好奇心の目をキラリと光らせ、
私の話にじっと耳を傾けてくれた。

後で聞けば、
彼の奥さんは韓国人で、
親近感を持ってくれていた
のかもしれない。

また、
奥さんもその現場で働いていて、
その後、彼の奥さんとも懇意に
させてもらっていた。

その会話を交わして
数日経った時のことだろうか。

何かの拍子に彼が突然私に

「こんなところで
 こんなバイトなんかしてないで、 
 自分のところで少し手伝わへんか?」

…とサラっ言ってきた。

(へ??何言ってるの?)

一瞬、私はこう思い
キョトンとしていた。

私はここで
働いているいちアルバイト。
そして彼はここの
コンサルを担当している人。

今だから言えるのだが、
普通であればタブーな話だったと思う。

しかしこの時、
私が留学に行くまで
もう数ヶ月を切っていた。

私も背に腹はかえられぬ状況もあり、
多少の迷いはあったものの、
彼の言葉を信じて
コールセンターの仕事を辞め
彼の元で働くことに賭けた。

これがわずか数ヶ月の
長くて短い、短くて長い
ビックリ仰天なアルバイトだった。

(つづく)

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