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【毒親連載小説#68】成人後も続く毒親からの呪縛③

大学3年の頃、
私は家出をした。

家出したばかりの時は
幸せだったような気がした。

しかし、それは単に
長年に渡る苦痛から解放された
というだけであって
「ニセモノの幸せ」だった。

もっとも、
そのことに気づいたのは
私が家出をしてから数年後の
20代後半のことだった。

当初は、自分で
家賃や水道光熱費を払い、
自活できるようにもなり
親から物理的に離れたことで
解放され、私はもうこれで
自由になった!
自立できた!!

そう強く信じていた。

この時、私が住んでいたのは、
駅から徒歩15分以上はかかった
とても古びたアパート。

だけど、少なくとも
あの忌々しい夫婦喧嘩の
怒鳴り声に
怯えることはなかったし、
夜は毎日、静かにぐっすり
眠れることが保証された
この狭い居場所が
本当に幸せに感じた。

このアパートの静寂の空間。

私は布団にまるまりながら
ポロポロと安堵の涙を
こぼしていた。

そしてこう思った。

(あぁ…私はずっと
 あの家にいるのが本当に
 嫌だったし、つらかったんだ…
 本当に苦しかったんだ…
 本当に怖かったんだ…)

家出をして、
その場を離れたことで、
改めにそれを強く実感した。’

しかし、
この家出からほどなくして
私を待ち受けていたのは、
強烈な虚しさだった。

親元を離れ、仕事もして
自活できるようにもなった。

毎日、それなりに
忙しく充実していると
思っていたし、
一見、自尊心を
取り戻せたようにも
思っていた。

でも、こんなに
虚しい感覚に襲われるのは
一体、なぜなのだろう?

このつかみどころのない感覚は、
私は家出をし
日本で一人暮らしをしていた時も、
また、日本を離れ、
海外で暮らしていても、
まるで私の頭の周りに
モヤがかかったかのように
しつこくまとわり続けていた。

(つづく)

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