駆け出し百人一首(8)雪降れば木毎に花ぞ咲きにけるいづれを梅とわきて折らまし(紀友則)
雪降(ゆきふ)れば木毎(きごと)に花(はな)ぞ咲(さ)きにけるいづれを梅(むめ)とわきて折(を)らまし
古今和歌集 冬 337番
訳:雪が降ると木々の一本一本に花が咲いた感じになるんだなぁ。その雪の花のなかで、どれを梅だと区別して枝を折ろうかしら。
It has snowed, so every ume tree is wearing snow as if it were blooming. I wonder which branch I will break off.
現実には、雪と梅の花の区別がつかないことは考えにくいですよね。少々大げさな見立て(比喩)です。こういう歌は、写生を重んじる明治の歌壇で否定され、正岡子規は「古今集はくだらぬ集に有之候」と書きました。
でも、非現実的だからこそ、言語芸術の世界でだけ存在しうる観念的な美の世界を作り出す可能性もあるように思います。
雪の白さと梅の白さを重ねたのに加え、「木毎」と「梅」の漢字遊びもあるのではないかと見られています。
和歌の修辞法
雪降れば木毎に花ぞ咲きにける:見立て。白い雪が積もった様子を、白い梅の花が咲いたのだと喩えた。
文法事項
降れば:已然形+ば。確定条件で「〜と」と訳す。
花ぞ咲きにける:係助詞「ぞ」により、文末の詠嘆の助動詞「けり」が連体形になっている。強意。
いづれを〜折らまし:助動詞「まし」が一人称で疑問のときは「ためらいを含む意志」。「〜ようかしら」と訳す。
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