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古典文学に探る季語の源流(全12回の連載)

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俳句結社「松の花」の結社誌に連載しているコラム『古典文学に探る季語の源流』をnoteにも転載しております。2020年は奇数月の号、2021年は偶数月の号に掲載した記事を合わせ、毎… もっと読む
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#和歌

冬籠(ふゆごもり) ~古典文学に見る季語の源流 第十二回~

冬籠(ふゆごもり) ~古典文学に見る季語の源流 第十二回~

寒さ厳しくなってくる十二月ということで、「冬籠」を取り上げる。

芭蕉の句に〈冬籠また寄り添はん此の柱〉とある通り、俳句ではもっぱら、人が家に籠ることをいう。『華実年浪草(かじつとしなみぐさ)』(鵜川麁文(そぶん)、一七八三年)にも、「俳諧には人の一間(ひとま)にこもり寒を厭ふをいふなり」とある。

飯田蛇笏の〈たまきはるいのちをうたにふゆごもり〉のように、北国の厳しい冬を思わせる句がある。傍題の

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秋の風 ~古典文学に見る季語の源流 第九回~

秋の風 ~古典文学に見る季語の源流 第九回~

季語「涼し」は、俳句初心者を混乱させる。涼しく過ごしやすくなった秋ではなく、夏に見出す涼しさを詠む季語であるからだ。

さらに難しいのが「夜の秋」。秋とあるが、こちらも夏の季語である。晩夏の夜に早くも秋の気配が漂うさまをいう。この秋の気配の正体は何かと言えば、風である。昼間はうだるような暑さであっても、夜には涼しい風が吹いたりする。

涼風が秋のサインであることは、百人一首〈住の江の〉で名高い藤原

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古典文学に見る季語の源流 第四回「朧月」「朧月夜」

古典文学に見る季語の源流 第四回「朧月」「朧月夜」

春爛漫の四月号(注:本コラムは結社誌四月号に掲載)である。今回は「朧月(おぼろづき)」を見てみよう。

現存最古の歌集、『万葉集』にはこの語は登場しない。春の月を詠んだ和歌も、

春霞たなびく今日の夕月夜
清く照るらむ高松の野に

(巻十、読人しらず)

と照り輝く月を詠んでいる。唯一、

うちなびく春を近みか
ぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ

(巻二十、甘南備伊香(かんなびのいかご))

とい

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