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18-2.平木典子_事例検討会 for 若手心理職

(特集 今こそオンラインで技を磨こう!)
下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.18

1.平木典子先生と一緒に技を磨く!

今回は,オンラインだからこそ実現できた夢の企画を発表します。

日本の心理支援の活動を切り開き,その発展を導き,心理援助職の教育研修を意欲的に進めてきておられる平木典子先生をコメンテーターにお迎えしてのオンライン事例検討会(全3回)を開催いたします。しかも,今回は,若手心理職を対象としたオンライン事例検討会としました。

現在の心理職の現場は,公認心理師制度のスタートと関連して分野別や職場別の分断が進んでいます。特に若手心理職は,基本となる共通の専門技能をしっかりと学び,習得しないままに細分化した職場での活動に従事しています。心理職としてのライフデザインが見えないまま日々の仕事に追われています。

その結果,「自分の基本技能に自信がもてないまま日々の仕事に追われている」という不安の声をしばしば耳にします。そのような若手心理職のために心理職の基本技能の向上に向けて平木先生とともに学ぶオンライン事例検討会を企画しました。

2.若手心理職のための事例検討会 with 平木典子先生

公認心理師制度においては心理職の専門性が蔑ろにされており,その影響を最も深刻に受けているのが若手心理職です。若手心理職は,「心理職としての専門性とは何か」を理解し,「専門性の基本となる技能」を習得する前に,5分野に縦割りされた領域の知識や制度を学ぶことが求められます。このような問題状況については臨床心理マガジン17-4号で特集しました。
https://note.com/inext/n/n6f40d652adb2

そこで,第2回臨床心理iNEXTオンライン事例検討会は,若手心理職の基本技能の習得を支援するために平木典子先生をコメンテーターにお迎えし,下記の要領で実施します。

【実施の形式と構成】
・Zoomによるオンラインカンファレンス
・参加者:計18名[メンバー6名+オブザーバー12名]
・コメンテーター:平木典子+下山晴彦(司会兼任)
・各回で2事例を検討する。

【実施の日時】
・2021年6月6日,6月27日,7月11日(いずれも日曜日)
・13時~17時

【参加形式】
・2種類の参加形式がある。
[参加形式①(メンバー)]事例発表をし,事例検討の討議に参加する。
[参加形式②(オブザーバー)]事例発表せずに議論を観察し,最後の討議で意見を述べる。

【スケジュール】
・13:00−14:20 メンバー事例検討会1
・14:20−14:50 +オブザーバー参加の討議
・14:50−15:00 休憩
・15:00−16:20 メンバー事例検討会2
・16:20−16:50 +オブザーバー参加の討議
・16:50−17:00 全体の見直し

【発表と議論の形式】
・事例発表者は,最初の30分でケース発表(A4用紙に3枚ほどにケース内容を記載して発表)
・その後,臨床心理iNEXT方式の手続きに従ってメンバーの討議とコメント
(臨床心理iNEXT方式の事例検討会については臨床心理マガジン18-1号を参照)
https://note.com/inext/n/na1edbec35ceb
・メンバーによる事例検討が終わった後にオブザーバーを含めて討議。
・討議では,発表者の技能向上をサポートすることを目的としてメンバーとオブザーバーが協力することを最も重視する。

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3.募集要項

今回のオンライン事例検討会は,若手心理職を対象として,どのような分野や職場でも心理職であれば必要となる基本技能の向上をテーマとする事例検討会とします。本企画において,「若手」という表現は,年齢を意味するのではなく,臨床実践の経験年数を意味していますのでご留意ください。

【参加条件】
◆参加形式①及び②に共通の条件
・資格取得後に臨床現場で2年以上10年未満の心理支援の経験を有する者
・原則として3回いずれも参加できる者
・事例検討会における守秘義務の同意書に署名できる者
・討論部分(個人情報削除)の質的研究を承認できる者

◆参加形式①の場合
・公認心理師と臨床心理士の両資格保有者
・個人情報保護を確保できる発表事例があること

◆参加②の場合
公認心理師又は臨床心理士の資格保有者

【参加費】
◆臨床心理iNEXT有料会員
 参加形式①と②いずれも全3回分で12,000円+税
◆臨床心理iNEXT有料会員以外
 参加形式①と②いずれも全3回分で18,000円+税

【申込み方法】
下記の事項を600字以内で簡潔に記載した資料をPDFとして添付し,メールのタイトルを「平木先生の事例検討会」と付けて,下記の臨床心理iNEXT事務局宛に送付。
〈送り先〉⇒(iNEXT事務局) shimoyamalab@p.u-tokyo.ac.jp
◆添付書類に記載事項
1)「参加形式①又は②のいずれかの希望」
2)資格登録番号
・参加形式①の場合は公認心理師及び臨床心理士の登録番号
・参加形式②の場合は公認心理師又は臨床心理士の登録番号
3)「臨床歴」
・どのような職場でどのような仕事をどのくらいの期間経験したか。
4)「参加理由」

【参加は先着順で決定】
・先着順で参加を決定しますのでお早めにお申し込みください。
・条件を満たしていることを確認した上で参加の可否を決定します。
・参加の可否はメールで御連絡をします。
・参加者が定員を満たした時点で「キャンセル待ち」とします。
・参加費は,参加決定後にお支払いいただきます。

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4.心理職のライフデザインを平木先生から学ぶ

公認心理師は,「保健医療」,「福祉」,「教育」,「司法・犯罪」,「産業・労働」の5分野の汎用資格であると明確に定義されています。そのため,心理職は,どのような分野で自身の専門職としてキャリアを発展させていくのかを意識する機会が増え,専門職としてのキャリア意識を持つことが求められるようになっています。

特に若手心理職の技能の向上は,その後の心理職のキャリアデザインを見据えた上での学習が必要となります。臨床心理iNEXTでは,専門職としてのキャリアも含めて,心理職のライフデザインの支援を重要テーマとしています。
https://note.com/inext/m/mb3b27faa0fbd

そこで,『ライフデザイン・カウンセリングの入門から実践へ』(遠見書房,2020)の編者である平木典子先生に,今回の事例検討会のコメンテーターをお願いしました。
http://tomishobo.com/catalog/ca107.html

平木先生は,心理職の教育訓練,特にスーパービジョンについてのご経験が豊富であり,関連する専門書を多く出版されています。最近の著作としては,『増補改訂 心理臨床スーパービジョン―学派を超えた統合モデル』(金剛出版)があります。
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b514899.html

さらに,平木先生は,後述するようにカウンセリング,アサーション・トレーニング,家族療法,ナラティヴ・セラピーなど,心理職にとっては基本となる技能のエキスパートであり,多くの心理職の育成に関わってきています。

若手心理職は,このような平木先生から学ぶことは多いと考え,オンライン事例検討会のコメンテーターにお願いしました。オンラインですので,どこからでもご参加いただけます。援助専門職としてご自身のライフデザインの発展を考えている若手心理職の皆様の積極的な参加を期待しております。

5.平木先生にとっての心理職の教育

平木先生が心理職教育について語った文章を臨床心理マガジン12−3号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/ncfefa41417c0

日本では,心理療法の基礎がまだ学派の方法論だけで教えられている。心理療法の基礎教育をする大学院で,まず心理療法を俯瞰的に学んでいない。

アメリカの場合,スーパービジョンの訓練を受けるときに,訓練生は「あなたのオリエンテーションは何ですか?」と聞かれる。学派のオリエンテーションに拘るわけではないが,その人の立場ははっきりさせて,ただし,大学院後期におけるスーパーバイザー訓練では,自分のオリエンテーションに限定しない汎用性のあるスーパービジョンの理論と方法を学ぶ。

北米のスーパービジョン研究で有名なバーナードとグッドイヤー(Bernard & Goodyear, 2016,第6版)では,「自分がやろうとしている心理療法はこれだが,教育と訓練は心理療法とは異なることをする必要がある」「訓練は叱咤激励して行うものではない。指導する側も指導される側もクライエントのために,協働して考えていくことだ」「ただし,専門職の門番であるスーパーバイザーは,総合的実力の評価をする」と述べている。

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6.平木先生にとってのカウンセリング

平木先生がカウンセリングについて語った文章を臨床心理マガジン12−1号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/n3c615a59d368

自分の人生をどのように生きるかを考えるために,将来どういう職業に就くかなどを考えるプログラムがアメリカの学校にはあって,そこにかかわっている人をカウンセラーと呼ぶと書いてあった。「ほうー,それを受けていたら,私,こんなに自分の職業に迷わなかった……面白そう」と思った。その正課外進路指導とカウンセラーの役割について書かれている部分を必死に読んだ。

ウィリアムソンは,「カウンセリングとは,誰もが天職を生きるという大きな傘下で,それぞれの人たちの潜在能力の発達を促進するという観点から,心理的な援助をすること」と考えていた。カウンセリングにおいて心理的外傷体験を癒すということも,その人が天職を生きるための支援であり,潜在能力の開発,キャリア探索は全てつながっていると語っていた。

大人の経験と勘で職業を決めていた当時,私は,心から「ああ,ここへ来て良かった」と思ったのを覚えている。したがって,私にとってカウンセリングという支援は,言わば癒しと潜在能力の開発と天職の発見の3つを統合したものであった。

7.平木先生にとってのアサーション・トレーニング

平木先生がアサーション・トレーニングについて語った文章を臨床心理マガジン12−1号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/n3c615a59d368

アサーションに関心を持ったのは,圧倒的に女性が多かった。女性のためにアサーションをやるのは,日本ではとても意味があると思った。アグレッシブにならずにアサーティブに,女性がきちんと自分の言いたいことを言えるようになっていくためには,日本的なアサーションが必要だと思った。

日本では,アサーションをアグレッションと勘違いしないことが特に重要となる。アグレッシブに思われないためには,家族療法やナラティヴ・セラピーのリフレクションになるし,交流分析の用語を使うならば“アイ・メッセージをきちんと言う”ということになる。

「これは私が思うことなのですが」というニュアンスで,「これは私の考えであって,正しい意見というわけではない」ということを前提にして,しかし,明確に自分の意見を伝えることが大切なのではないかと思う。

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8.平木先生にとっての家族療法

平木先生が家族療法について語った文章を臨床心理マガジン12−2号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/nf31942b50e64

家族療法を学ぶ前は,家族は,学生の自立にとってかなり足を引っ張る存在だと思っていた。学生の自立に,家族は無意識の邪魔をしていると思っていた。家族療法は,家族とはそんな単純な集団ではないことを教えてくれた。家族療法では,システムという観点から物事を考える。

私達一人ひとりは,心理的な自立とかその人らしい成長といった課題を抱えている。一方で,人は心理的な自立だけではなく,関係を創ることなしには生きていけない。家族療法の基礎であるシステム理論は,簡単に言うならば,私たちは異なった人々との相互作用の中で,どのような関係性をつくって生きるかということを考えるための理論である。

システムとは,相互作用の中で,多様な要素が影響し合いながらつくられる統一された複合体を意味する。「システムの一員となったら,仲間としてシステムを作っているのだから,仲間として相手との関係をどう変えるかということもしっかり考えなさい」というのが,家族療法のメッセージだと受け取り,大きな関心をもち,家族療法の考え方を学生相談の中で活かすことを考えた。

9.平木先生にとってのナラティヴ・セラピー

平木先生がナラティヴ・セラピーについて語った文章を臨床心理マガジン12−2号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/nf31942b50e64

家族療法の中には,協働の考え方がたくさんある。私は,家族療法を実践していたので,語りを共生成するナラティヴ・セラピーにはスッと入っていけた。1990年代にナラティヴ・セラピーの本を読み,ナラティヴがいろいろなところに浸透していくことがわかってきた。ただ,私は,ナラティヴ・セラピーに移行するのではなく,社会構成主義的な考え方に関心をもった。

ナラティヴ・セラピーの提唱者であるエプストンとホワイトは,先住民の生きた物語を再構成する必要があると考えて,彼らの語りを聴くことから始めた。その考え方は,今では,カウンセリングを受ける人たちに適用されている。カウンセリングを受ける多くの人々は,少数派で,あなたは社会の一員ではないと言われているような状態に置かれているからである。

ナラティヴ・セラピーは,一人ひとりが,自分が小さいときにどういう思いをしながら,誰を見習いながらどんな生き方をしてきたかを思い出すことから始まる。過去がおかしかったのでそれを変えようとするのではなくて,過去をきちんと現在の生活に生かそうという,掘り起こしをやる。

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10.平木先生にとってのスーパービジョン

平木先生がスーパービジョンについて語った文章を臨床心理マガジン12−3号の記事から抜粋しました。
https://note.com/inext/n/ncfefa41417c0

スーパーバイザーの姿勢は,「私はこんなふうに思うんだけど,あなたはそれをどのように受け取るかな?参考になったら,ぜひ活用してみて」というもの。

心理療法のスーパービジョンの研究者ワトキンズのハンドブック(Watkins,1997)には,「スーパービジョンをする人は,ある方法や考え方を身につけている専門家である。しかし,スーパービジョンのやりとり自体は,関係性が中核となるという点ではカウンセリングと違わない。関係性を重視したスーパービジョン訓練だから,難しい」と書いてある。

スーパーバイザーは,教育者,コンサルタント,カウンセラーの3者が一つになったような機能を果たす。スーパーバイジーにはっきりと指摘する必要があるときは教え,しかし,それは上から目線の命令ではない。

スーパーバイジーとスーパーバイザーが「スーパービジョン同盟」を結んだ訓練であることが重要。ただし,「この門から先の専門領域に入っていいかどうかを決めるのは,教育訓練課程におけるスーパーバイザー」という門番の機能をもつ。スーパーバイザーはそれを心得て指導・訓練をしている。

11.オンライン事例検討会について

今回ご紹介をした「平木典子_事例検討会for若手心理職」において採用するオンライン事例検討会の臨床心理iNEXT方式については,下記オンラインセミナーで詳しく解説します。関心のある方は,ぜひご参加ください。

なお,オンライン事例検討会については,臨床心理マガジン18-1号で特集していますので,こちらもご参照ください。
https://note.com/inext/n/na1edbec35ceb

対話集会型オンラインセミナー
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なるほど活用術!オンライン事例検討会
─ケース・フォーミュレーションを学ぶために─

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[日時]2021年5月30日 9時~12時
[主催]臨床心理iNEXT+遠見書房

第1部 オンライン事例検討会の活用術
1.海外におけるオンライン事例検討の現状と課題
2.オンライン事例検討会の上手な進め方
3. コメント:事例検討会とケースフォーミュレーション

第2部 オンライン事例検討会の発展に向けて
4.オンライン事例検討会を経験してみて
5.鼎談:オンライン事例検討会の発展に向けて

[参加費]
・臨床心理iNEXT会員(フロンティア会員含む):無料
・臨床心理iNEXT会員以外:1,000円

[申込み]
・iNEXT会員⇒https://select-type.com/ev/?ev=i_fXOg12y-o
・iNEXT会員以外⇒https://select-type.com/ev/?ev=_JPVyd1MeAc

■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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(電子マガジン「臨床心理iNEXT」18号目次に戻る)

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臨床心理マガジン iNEXT 第18号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.18


◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房






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