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私書箱の手紙

私には忘れられない人がいます。8888。この数字の羅列を見ると思い出してしまう人です。8ひとつでもふわっと思い出してしまいます。片時も忘れたことがないわけではないけれど、思い出すときのあの強い衝撃は、私があの人を忘れるわけがないのだと実感させるのです。 8888。見かけた瞬間に「覚えているはずだろ?」って茶化すような笑い声とともに話しかけてきそうです。目の前にはくしゃくしゃの笑みとなんとも言えない香りがフラッシュバックするあの感じ。そんなこと、今はないはずなのに。 とても幼

    • 買いたくなかった靴

      新しい靴なんて買いたくない。 あんなところのために、あんなことのために、新しい靴を買いたくない。私にとってはあんなところで、誰かにとってはあんなところじゃないって分かってる。でも、買った靴を見て思うことはあんなところ、あんなこと。 あんななんて言うほどだから安物の靴を買わせていただいた。買わせていただいたなんて書くけど、自腹。あんなのために、身銭を出すのか。くそくそくそ!!!くそなのは私かって、夜空を見上げるようなかっこつけはしない。わかっているもの。 そんな安物の靴でもこ

      • 私書箱の手紙

        今お手紙を読んでいる方は夜でしょうか。お昼でしょうか。それとも、朝でしょうか。私はこの手紙を夜に書いているので、挨拶をするとしたらこんばんはですね。 こんばんは。 こんにちは。 おはようございます。 すみません、全部書いちゃいました(笑) 私は最近、YouTubeの食べ歩き動画を見ることにはまってます。こんなにも世界中に食べ歩きが楽しめるところがあるんだと驚くばかりです。でも、一番は日本ですかね。自分が住んでいる国には知っているところも、知らないところも食べ歩きのお店がこん

        • 拝啓、生きる方へ

          13年が経った。赤子が中学生になる時間と同じ時間。そんなにも経っていたのか。 あの頃、13年経てばまるで何事もなかったように新たな日々の歴史が刻まれていると思っていた。復興とはそういうものだと思っていた。しかし、今もなお時が止まったままのような景色を画面越しに見ることがある。前に進んでいるのだろうか。私自身も前に進んでいるのだろうか。 忘れてしまったこともある。忘れられないこともある。忘れないと決めたこともある。 いつから電話が繋がらなくなったのか。帰れなくなった時の恩。

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          三月九日

          悲しいニュースだったのだろうか。ある女性が街頭インタビューでこんなことを言っていたと、母から聞いた。 「大好きな人が結婚を発表したんです!」 あるアイドルが結婚した。女性はそのアイドルのファンだったという。「愛してるぜ!」と多くのファンに呼びかけていたアイドルが、たったひとりの人に一生の愛を伝えた悲しみなのだろうか。祝福心もあるだろうが、結婚は身近な人が遠くへ行ってしまう寂しさもある気がする。 同じ日の夜に私は、遠くへ行ってしまったあの人へ思いを馳せることになる。彼女の言

          三月九日

          綺麗な月夜

          この1週間、私は苦しかった。精神的にも、体力的にも苦しかったことはあるのだが(むしろそれはこの1週間の話?)、ここではそのことを話さないでおこう。しかし、話させてくれ。 ――彼のことを。 彼は歴史に存在しない人物になっている。いわゆるオリジナルキャラクターだ。きっと先週多くの人の心を苦しめた小麻呂もそうなのだが、無事に目の前に現れてくれた。オリジナルキャラクターは死にがちを回避してくれた小麻呂だが、彼はどうなるのだろう。 おっと、彼のことを考えると苦しくなるがゆえに紹介が遅

          綺麗な月夜

          私書箱の手紙

          はじめまして、私は鈴です。この手紙は住所も名前も受け取る方には知らされないとのことなので名前なんて書かなくてもいいのですが……これからお話することに名前がとても大切なキーワードになるのでお伝えしました。 「鈴」と書いて「すず」と読みます。そのままです。このことに何も嫌なことはないはずなんです。わりと気に入ってます。女優で同じ名前の方がいて比べられることはあっても(ご本人になんと失礼な…!私じゃ比べ物にならないよ!)、あんなに可愛い方と同じ名前なことに誇りに思うほどです。 可

          私書箱の手紙

          私書箱の手紙

          この手紙を受け取った方へ 初めまして。私は東京に住む40代の男です。マイホームを見に行った帰りに、喫茶店でこの手紙を書いています。夢だったマイホームがまもなく手に入ります。更地だったところから建設まで見ていると、我が子を育てたような気持ちにもなって感慨深いです。 そのマイホームは私の子どもたちのためでもあります。上の子はもう小学生ですが、下の子はまだ小学校に上る前です。家族が増えてよりわんぱくになった子どもたちを見ていたら、やっぱり駆け回れるほどの公園があるような場所に住

          私書箱の手紙

          変わりゆく景色

          よく通る道に本屋がある。今では珍しくなっている個人経営の、しかも昔から地域に根付いているらしい本屋である。ある日その本屋に立ち寄ったら、こんな言葉が飛んできた。 「本当に残念だよ」 客のおじいさんが若い店員にそう話しかけている。ごめんなさいと思いながら耳の意識をふたりの会話に向かわせた。 「本当に本屋がなくなっちゃうと、文化が廃るんだよ」 「こんなことを言っている私もネットで本を買ったりしちゃうから行けないんだけどさ、昔から通っていたからさ」 おじいさんが一方的に話し

          変わりゆく景色

          私書箱の手紙

          拝啓 もう師走も走り抜ける頃でしょうか。寒さが一層増す季節ですから、このお手紙を読む方のお身体のことが心配です。私は長く生きていますから体の不調を感じる日々もありますが、元気過ごしています。 12月になると、私は愛する人のことを考えてしまいます。結婚した月でも、誕生日でもないのですが。戦争のことを思い出すのです。12月8日、真珠湾攻撃の日です。私の夫はアメリカ人です。 世の中は終戦記念日と言われる8月15日が近くなると、先の戦争のことをテレビや新聞で話し出します。ですが、

          私書箱の手紙

          大人の選択

          新たなお酒に挑戦する場所はどこにあるのだろう。上司や家族に薦められた。友人とノリや勢いで注文する。そんなことを考えたのだけど、いざ自腹切って試すとなると勇気がいる。酒いえど飲み物で、口に合わなかったら食が合わなかったときと同じくらいショックを受けるのだから。 そんなことを考えて、私はいつも入場時に500円と変えたコインを握りしめてソフトドリンクを頼んでいた。ペットボトルだとドリンクホルダーのストラップももらえるし、実際得するのはソフトドリンクだと思っていた。それが私のライブハ

          大人の選択

          ミステリーツアーにご注意を

          これは、ミステリーツアーなる名の旅行パッケージが存在するなんて知る前のお話。そして、今よりも若かったからこそ、笑い話にもなっているけど事前準備の大切さを知った旅のお話。 とにかくみんなと旅行に行きたかった。 みんなといる時間が楽しくて、そこに非日常を味わえる旅行が嬉しかった。観光地に行くより、旅行だからと少しいい宿に泊まって温泉を楽しむ。今の私のスタンプラリーのようなひとり旅からは考えられない時間を堪能する旅だった。ゆえに、時間がある。 突然、友人から送られてきた写真があ

          ミステリーツアーにご注意を

          私書箱の手紙

          お好み焼きの青のりっていつかけるのがベストですか?私はソースを塗って、鰹節をかける前にかけます。青のりのあとに鰹節です。それだと青のりが隠れで見た目がよくないと言われますが、青のりが風で飛んじゃうんです。だから、大阪の人や広島の人は特に許してください。 そんなに青空でお好み焼きは食べないよと聞きます。風は家の中で起こるんです。エアコンの風です。ちょうど食事をする場所にエアコンの風が当たるんです。 場所を移動するにもエアコンがないと夏は暑すぎるし冬は寒すぎる。食事どころではあ

          私書箱の手紙

          よもやばなし

          檀ふみのエッセイに、感謝の意味を込めて「すみません」と言うのは日本語だけだと書いてあった。その話を友人に話したときに言われた言葉がある。 「エッセイ読むんだ、すごいね」 正直、どうしてこんな言葉が出たのだろうと思った。だから、私は「そうかな、読みやすいよ」と言ったのだけれど、そもそも本を読むこと、読まなくても本を鞄に入れていることに感嘆している様子だった。 本を持ち歩く私も、本を読まずにスマホで時間を潰すことが多い。そんな時代だ。それならば本など持たないほうが荷物も軽くな

          よもやばなし

          女神に痛みはないのだろうか

          幸運の女神には前髪しかない 今、スマホで検索した言葉だ。なぜこの言葉を検索したか。ちょいと泣けてくることがあったのだ。 新しいイベント会場で好きなバンドのライブに行っていた。アルバムを引っ提げたライブツアーだけれど、懐かしい曲やライブの定番今日も盛り込まれたセットリスト。もちろんアルバムの曲も多数演奏されたわけで、初めて聴くワクワクが解き放たれ、「私のこの曲の楽しみ方で大丈夫かな」という不安はライブを楽しんでいたらいつの間にか消えていったわけだ。 ひとりであっても、みんな

          女神に痛みはないのだろうか

          私書箱の手紙

          ここに、私の罪を告白します。でも、覚えていないんです。本当に私は罪を犯したのでしょうか。 気づいたら手にナイフを持っていました。目の前に倒れている人がいました。血も出ていました。私にも血がかかっていました。生ぬるさも手に残っていました。 周りを見渡しました。私を見る他の人の目を覚えています。怯える目をしていました。私の目はどうだったのか。何も感情がないようにも感じていたし、怒りもあった気がするし、焦燥を感じたり悲しさを漂わせたりしてた気もします。でも、覚えていないんです。

          私書箱の手紙