私書箱の手紙

この手紙を受け取った方へ


初めまして。私は東京に住む40代の男です。マイホームを見に行った帰りに、喫茶店でこの手紙を書いています。夢だったマイホームがまもなく手に入ります。更地だったところから建設まで見ていると、我が子を育てたような気持ちにもなって感慨深いです。

そのマイホームは私の子どもたちのためでもあります。上の子はもう小学生ですが、下の子はまだ小学校に上る前です。家族が増えてよりわんぱくになった子どもたちを見ていたら、やっぱり駆け回れるほどの公園があるような場所に住みたかった。

仕事のこともあり、なおかついきなり東京から離れるほどの環境の変化は子どもたちがついていけるか不安でした。妻の負担にも繋がる気もしましたので。いろんなところを探していたら、都心から30分ほどのところに大きな公園を見つけました。ほどよく静かな住宅地です。コインランドリーの隣のクリーニング店は最近閉店してしまったけれど、スーパーもあるし大学もキャンパスを構える地です。ご近所になる方はぱっと見たところ老若男女といったところ。暮らしやすいだろうと妻と意見が合致、子どもたちは何より大きな公園のとりこになっています。


とても幸せです。モデルルートを辿るように私の人生は幸せなんだと思います。普遍的な幸せを過ごす普遍的な40代の男だと思っていました。


このマイホーム購入を友人に話した時、いろんな言葉が私に届きました。大変だな。凄いな。良かったな。頑張れよ。どれも言われるだろうと思っていた模範解答のような言葉です。しかし、ひとりの友人が聞いてきました。

「公園で何がしたいの?」

公園が動機だったことは言っていたものの、具体的に理由を聞いてきたのは彼だけでした。私は嬉しくて素直に理由を言いました。ブーメランをやりたいと。

すると彼は、

「……ブーメラン??!」

と驚きました。そんなに驚くことなんでしょうか?


わざわざ理由を聞いてくれた彼にも家族がいます。彼もマイホームについていろいろ考えて一軒家とマンションと迷った結果、利便性のこともあって都心のマンションに決めていました。公園は小さくとも近くにありますが、正直公園の広さは特に視野に入れていなかったようです。だからこそ公園を動画にした理由を聞いてくれたわけなんですが、答えた時の反応に私も困ってしまいました。

彼が言うには、広い公園ならキャッチボールもバドミントンもできる。リフティングも気兼ねなく練習できるだろうと。実際に球技は禁止されていません。柵もしっかりとあって車事故も少ないと思われます。私ももちろんボール遊びを子どもたちとしようと考えています。

しかし、何よりもあの広い公園を見たときにやりたいと思ったのがブーメランだったのです。ずっと憧れでした。そして、妻にも公園を見たときに

「ブーメラン、できるね」

と言いました。妻も頷いていました。だから、このブーメランをしたいと思う考えが驚くほどなのか不思議なんです。私が普通ではないということなんでしょうか?本当は妻は流れるように頷いただけだったのでしょうか?


友人の反応をきっかけにブーメランがおかしなものなのか考えるようになりました。メジャーなものと思っていましたが、マイナーな遊びだったのか。それでも、私はブーメランをやりたい。

妻の本音もわかりませんが、すでにネットをはじめブーメラン購入に向けて調べています。そして、買ったブーメランを玄関に飾ることで私のマイホームは完成する予定です。その日がとても楽しみです。


この手紙を読んでいただいたあなたも、1度ブーメランで遊んでみてください。遊ばなくてもYouTubeでもいいからブーメランの動画を見てください。絶対にやりたくなるはずです。

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