2020年コロナの旅11日目:ピティパンナちゃん
2019/12/27
朝起きると、昨日お別れを言ったジャマルがキッチンでごそごそしている。見ると、空き瓶や空き缶を集めている。何をしているのか問うてみた。
「おお、コウスケ。”パント”だよ、知らねえのか?空き瓶とかスーパーに持ってくと小銭がもらえるのよ。オーストリアにもあったろう。」
「分からない(※ドイツ語ではpfand「プファント」という。スウェーデン語ではpant「パント」らしい)。ついて行ってもいい?」
「もちろんよ!ついてきな!」
風邪をひいているのか、少し鼻声のジャマルと二人で表に出る。彼と街を歩くのはこれが初めてである。私は、ジャマルが街行く人ほとんど全員に声をかけるのに感心しながらついていく。実際、ガムラスタンではかなり顔が利くようだった。
そんなこんなで一人なら徒歩3分で着く最寄りのスーパーに20分ほどかけて到着すると、中に入って「パント」用の機械に空き缶や空き瓶を入れていった。大きめのごみ袋一杯にあった空き瓶を全て機械に入れるが、何か問題が起こったようでジャマルが店員を呼ぶ。
当然彼らはスウェーデン語で話すのだが、考えてみればジャマルの言語能力はすごい。習いもしないのに英語もスウェーデン語も流ちょうに話すし、フランス語でも見よう見まねでなんとか会話しているように見えた。
店員とのやり取りが終わって、ジャマルが振りむく。
「機械が壊れてるんだとさ。とりあえず20クローネもらったから、半分やるよ。」
「え、いいよ。俺何もしてないし。」
「いいからもらっとけって、な。どうせ大した金額じゃないんだから。」
私に半ば強引に10クローネを握らせて、ジャマルは宿の方へズンズン歩き出した。風邪気味なので寒い屋外にはいたくないという。私もチェックアウトと、お松との待ち合わせの時間が迫ていたのでジャマルの後を追う。
宿に戻ると、男前のメイヤーが料理をしていた。私はジャマルとメイヤーとともに記念に写真を撮り、ラミルトンを去った。
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待ち合わせ場所にいたお松はスウェーデンにおける感覚的な平均に照らすとやや小柄な女性だったが、かわいらしい人だった。
挨拶もそこそこに、まずは腹ごしらえをすることにした。しばらくうろついた後、繁華街にあったMAXに入店した。スウェーデンで若者が外食するときは、例のハンバーガーチェーン「MAX」は強い味方である。
「バーガーは私たちの情熱です。私たちはエキサイティングな組み合わせと最高の素材によって新しいフレーバーを見つけることを使命としています。この野心は、1968年から変わっていません。全てはスウェーデンで一番おいしいバーガーを提供するために。MAXへようこそ!」
お松はよくMAXに来るらしく、ベジタリアンのメニューがおいしいと教えてくれた。特にハルミという、キプロス発祥のチーズを揚げたものをビーフパティの代わりに挟んだハルミバーガーが旨いという。勧めに従ってそれを注文。お松もベジタリアンのナゲットを注文した。
すぐに料理ができてカウンターで受け取る。ハルミバーガーには厚切りのハルミのフライがなんと2枚も入っており、すさまじいボリュームであった。
ハルミはそのおよそ4分の1が脂質のチーズである。これを揚げているため、健康に気を遣ってベジタリアン的食事をとっている人は注意が必要である。味は、無類のモッツァレラチーズ好きの私にはなかなか良かったが、それでも揚げてあるせいか途中からくどく感じた。
注目すべきはベジタリアン用のナゲットの方で、これは鶏肉のナゲットに遜色のない出来であった。ベジタリアンのオプションの多さは、欧州における宗教の多様性と、環境意識をうかがわせる小窓である。
腹ごしらえを済ませて、ショッピングモールや教会を少しぶらつく。
雪の降らなかったストックホルムのクリスマス。公演に設けられた人工のアイススケートリンクの背後に廃棄されたと思しき氷の山があり、そこに子供たちがたかって遊んでいた。
ふたり帰途に就く。途中でスーパーに寄り、夕飯を調達することにした。彼女にスウェーデン料理を食べたいというと、「ピティパンナ」はどうかという。可愛らしい響きの名前だ。それを作ろう、というと彼女は冷凍食品のコーナーに行き、冷凍庫から巨大な袋を取り出してこれがピティパンナだと見せてくれた。
それは賽の目状に切られたじゃがいもと肉の炒め物であり、その名前のメロンパンナちゃん的な可憐さとは裏腹に非常に無骨な料理のようだった。しかしその組み合わせは案外スウェーデン的なのかもしれない。見た目は指輪物語のエルフのように美しい彼らだが、もとをただせばあの勇猛なヴァイキングの子孫たちなのである。
その他にもめぼしいものをいくつか買って、家に着いた。少しストックホルムの中心からは離れたところにあるその家は、広々としていて隅々まで美的感覚を伺わせる調度がしてあった。
「ここに一人で住んでるの?」
「うん、今は一人。親は街の方で働いてるから。」
「この家、借りてるの?高くない?」
「実は全然お金払ってないんだよね。ここ元は叔母さんの家で、叔母さんが旅に出る間家を綺麗にしておく条件で借りたの。」
私たちは早速夕飯を作ることにした。ピティパンナとは「pytt i panna」であり、「フライパンの中の小さな具材」のような意味がある。その名の通り、袋から冷凍されたピティパンナをフライパンに開け、加熱していく。
一般的に目玉焼きとレッドビートの漬物を添えるらしく、それらも準備して完成。
肉と芋ばかり食べる罪悪感を中和するために大量のビートを食べることになった。Julmustというクリスマス飲料が時季外れになって安売りされていたのでそれも飲んでみたが、コーラのような見た目とは裏腹に飲んだことのない味がした。
食器を洗い、クリスマス映画を2人で見るなどして就寝。
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次回予告
2019年12月17日に始まった私の世界旅行。1年越しに当時の出来事を、当時の日記をベースに公開していきます。
明日は洗練されたストックホルム郊外の町で写真三昧を味わいます。くまモンの侵略、エリザのお気に入りの丘、地底の王国。
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