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2010年W杯at図書室

 校長なのか、ホアンカなのか、パブロなのか、とにかく大人がノリノリで図書館に白幕とプロジェクターを用意した。授業中にパブロがニヤニヤしながら窓ガラス越しに手招きしてくれて、「ショウタを呼びに行こう」
 松井のクロスで本田が足元に抑えて冷静にゴール。パブロと図書館の先生とショウタとみんなで笑顔で目を見合わせた。ケンに結果を伝えると、見れなかったことを怒っていた。授業よりサッカーが優先され、サッカーよりテストが優先されるのはみんな分かっていたはずなのに。

 そんな調子でグループリーグの初めから学校公認で、ちょこちょこそれぞれが授業を抜け出してサッカーを見た。生物学のミス.スザンナは苦い顔をしながら許可を出したし、クナールやレイコもサッカーに興味はなかったくせに授業がさぼれるって理由で喜んでいた。昼休みは選手のステッカーの交換会だった。5年生の愛おしい三馬鹿トリオ、マックス、ダンテ、ベンジャミンはオンダ!オンダ!(本田のこと)とバイクのジェスチャーでふざけながら、ボクはチュペテ♪チュペテ♪(スアソのこと)とおしゃぶりのジェスチャーでふざけながら。たしか、僕がビダルをあげて彼らのうちの誰かが中村俊輔をくれた。「えっ、いいの?」とお互いに再確認するwin-winのトレードだった。
 イングランド対アメリカ合衆国の試合は土曜日だったから親もいて。いい年した大人が国歌を歌ったりしていた。すごく楽しかったし面白くてキモかった。スペイン対チリの試合はどいつもこいつも集まって学校ぐるみで観た。

 結局、ベスト16のトーナメントは完ぺきだった。イングランドもチリも残ったし、僕らからすれば日本も。悲しんでいるのはヘンリーだけだった。ヤネックなんてそもそも最初からブラジルを応援し始めなきゃいけなかったわけだし。間違いなくこの時点でのスターはサンチェスだった。チリの試合を楽しめたのは僕らがチリに住んでることではなくて。ジェラードやランパードよりサンチェスだった。
 そしてチリが負け、イングランドが負け、パブロは「あんなにきれいなフリーキックを二本も決めるチーム」と言い出し日本を応援するといった。日本も負け。
 先週まであんなに熱かった、ベスト16のときの幸せな時間はもう終わってて、残る問題はブラジル派かドイツ派か。ベスト8でブラジルが負け、ベスト4でドイツが負けた。決勝戦はみんなで見た。その場にスペイン人もオランダ人もいなかった。鞍替えに飽きつつ、盛り上がったふりをした。


『TIPs』
TIPs前書き
ディアナとルアンダ
チャンキーとミス.ニコル
ショウタとアリスター
アンドリューとエイモン
マックス、ダンテ、ベンジャミン
ホアンカとカルロス
ミスター.オリバーとミス.キャシー
冬場の朝は霞がかかっていたりして
2010年W杯at図書室
ヴィセンテナリオ通り(1)
エルダンテ通り、あるいはハムレット通り
スーペルオチョかピーナッツか

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