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有限ノスタルジア

6歳の頃、昔ってそんなにいいものなのかな、という映画のセリフを聞いて、意味すら分からなかった。

なんで昔に懐かしむことができるんだろう、と思っていた。まだ6年間しか生きていないんだから、しょうがないんだけれど、分からないことがなんだか悔しかったのを憶えている。昭和の名曲が流れてきても、大人たちは懐かしむようなリアクションを取っているのに、自分自身は何も思えなくて、大人と子供に境界線が引かれているように思えた。単に、古くて時代遅れだよね、とは片付けることができないものが、過去にたくさん生まれているんだと、その良さを知ることができる人間に早くなりたいと思った。生まれては滅びて、時代は変化してゆくことを、古典の授業で学んだけれど、それでも消えてゆかないものはあって、確かに、そこに人間を感じることができた。それでも、その時代を懐かしむことなんてできなくて、その時代を生き抜いた者しか、その時代を懐かしむことができないんだね。いくら、YouTubeで山口百恵の歌を聞いても、懐かしいなんてこれぽっちも思わないんだから。江戸時代を懐かしいと思える人は、この世の中にもういないんだね。いつの日か、昭和や平成だって、懐かしいと思う人が、この世から消えてゆくんだろう。懐かしいという感情にだって、余命があって、だからこそ、それが完全に消滅してしまう前に、懐かしいを思う存分、消費してゆこうとしているんだろうか。懐かしさが消えてしまった時代こそ、本当の過去であって、歴史であって、人間の手が届かないものなんだろう。手の届く領域は、だんだん狭くなってゆくからこそ、人間は生きてゆける。世代交代が生まれて、時代が移り変わってゆき、死んで、そして、生まれてゆく。

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