鳥肌
圧倒的な何かに遭遇したとき、鳥肌が立つ。
僕にとっての圧倒的な何かとは、自分の想像を越える何かに出会ったとき、とも言えるだろう。
まさに、雷に打たれたような。
ビリっときて、ぶるっとくる。
ダイヤモンドよりもやわらかくて
あたたかな未来 手にしたいよ
限りある時間を 君と過ごしたい
宇多田ヒカルの《Flavor Of Life》を聴いて鳥肌が立った。
いやあ、ぶるった。
「ぶるったっす。」「お前もか。」
なんていうような共有がしたくって書きます。
「Life」or「Love」
カタイものの象徴であるダイヤモンド。
そこまで絶対的にカタイ未来でなくともいいから、あたたかな未来を手にしたいよ。
ストレートに聴いてみると、こういう解釈。
「ダイヤモンド」でカタイ印象をつけて、普通ならそれ以上にカタイものが欲しいみたいな表現になるんだけど、それでは余りにも非現実的な「ないものねだり(絵空事)」になっているので、空々しく聴こえる。
より現実的で、自分の内側から出てきた、ささやかな望み。
ダイヤモンドの「かたさ」ではなく「やわらかさ」に注目することで、こちらの想像を少し裏切る表現になり、そういう目の付け所、ズレた表現に人間臭さを感じて親近感が湧く。
神目線じゃないのが、いい。
ストレートに聴いてみると、そんな感じ。
悪くないんだけど「Love」領域の歌。
この捉え方だけだと、次の「限りある時間を」という表現にはなんとなく違和感を覚える。「限りある時間」とは?
ストレートに解釈すると「死」だね。
死が分かつまで君と過ごしたい。
これは「結婚」という約束に使われる常套句。
ダイヤモンドは、ただカタイだけではない。
そう。
ダイヤモンドは指環(ルビーだとパルムになっちゃうね)つまり「結婚」という概念を端的に表現している。
あなたと「結婚したい」と表現しているのかなあ。
結婚は確かに人生において大きな分岐点であることは否めない。
ただ、それだけが人生の臭さ《Flavor Of Life》として少し薄い。
全然、臭くない。
「Love」でいいんじゃないかと。
そんな風に考えていたら、僕はビリッときて、ぶるっとした。
鳥肌が立った。
あ。
これは「結婚したい」ではない。
韻、陰、印、因
文章の区切り方で意味ちゃうやん!
「ダイヤモンドよりもやわらかくて」なのか
「ダイヤモンドよりも」なのか
「よりも」が「ダイヤモンド」に掛かるか「やわらかくて」に掛かるか。
ダイヤモンドよりも。
やわらかくてあたたかな未来。
手にしたいよ 限りある時間を。
君と過ごしたい。
指環(結婚するとかしないとか)なんてどうでもいいから。
ただ、やわらかい肌を寄せてあたたかな未来(という曖昧なもの)。
手にしたい、せめて少しの時間だけでも。
君と過ごしたい。
文章の区切り方だけで矛盾した思考、心と身体の在り方を表現する。
刹那的であったとしても現在の慈しみの大切さ。
裏の裏、限りある現在という時間。
「君と過ごしたい」その一点においてのみ輝きを放つ。
屈折している思考だとしても、ダイヤモンドの輝きは自ら放つものではなく一筋の光を捉え、その歪みにこそ魅力があるのだ。
「あじゃぱー!」
圧倒的だ。
すごい韻の踏み方だ。
鳥肌が立った。
MCねこぜとして、ケミカルクッカーズで活動していた僕も、自分のリリックを書くときに、韻を踏む。
韻は、隠や印、因果であると捉えて、僕はリリックを作るんだけど。
真意を隠すために、わざと違う言葉に置き換えて、物語りをすり替えてダブルミーニングで表現することは、ずっとやってきたとして。
こんな風に、区切る部分を変えただけで同じテーマが内包する「矛盾」を表現できるなんて。
まさにいま、僕が興味をもっていて深めようとしている《二重思想》の表現を、ああ、すでに宇多田ヒカルは。
「おいおい、かなわねえな。」
こんな圧倒的な表現に気づいて、鳥肌が立ったし笑っちゃった。
この歳になって、まあ、だからこそかな、ようやく気付くことが沢山あって、新しい発見って面白い。
いろいろな映画や音楽の、その表現の意図なんかを読み解くと、面白い。
宇多田ヒカルが、当時(なん歳か知らないけど)このような表現をしていたなんて。もう一回!
「あじゃぱー!」
おまけ
ケミカルクッカーズの記念すべき処女作《シャイニング剤》(正確に言うと実は15秒のCMソングが初めてのリリックだが)MCねこぜのリリックを本邦初公開だぜ! ※MCねこぜ=僕です。
カッコつけて「買っただけ」のドストエフスキーは
本棚の隅っこで積み重なっている
美味すぎるチョコレートを生み出した罪と
犯した可笑しな俺たちの罰を
クレイジーな尾道の奇妙な冒険
ダイヤモンドをカラッと揚げる異常な情熱
大陸を越え世界を席巻
ソープよりも笑点
18金のチョコレート
改めて文字にすると面白い。
この頃、リリックといえばダブルミーニングしか脳内になかったからね。
ダイヤモンドの扱い方ひとつとっても宇多田ヒカルのそれとは全然違うってのが面白いね。
山田くん持ってこいありったけの座布団
メリーさんの羊だって首ったけの池田屋
ダンダラのライオン倒す新鮮なチョコレート
明治のイメージをチェンジするアメイジング
この頃の僕のリリックは、謎解きゲームみたいな感じ。
ああ、コレとアレを掛けているんだなあ、というのが面白さかなあ。
どんどんヒップホップへの解釈が変化していって、メッセージが強くなったり、遊び方の表現が違っていくんだけど、その話は、また今度。
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