後編〜枠組みを越えた、世界へ。ICHINICHI 代表 吉柴 宏美さん
祖母が営んでいた美容院の建物を利用し、ホテルICHINICHIを2015年に創業した女性社長。
そんな吉柴さんに、お話を聞きました。前編はこちら↓
「女性である」ことの障壁。
──ICHINICHIの開業準備中に1人目のお子さんを妊娠。そこでお父さまに開業を反対されたと。
女性が会社を立ち上げて、何か事業をやっていくにあたって、やっぱり「女性である」ということが、見えない障壁だったりして…。今回、インタビューのお話をいただいた時に、ジェンダーの問題というか、そういう話がしたいと思ったんです。小さな会社だけど一応代表としてやっているじゃないですか。それでいろんな会合に呼んでいただくのですが、まあ女性が全然、いないんですよ。
──意外ですね。最近は女性の社長、増えているイメージがあります。
親族の事業を継いでいる方以外は、女性の起業社長はあまりいないです。ですが、「女性ならでは」という内容の起業だと、女性も結構いらっしゃいます。美容関係や出産・子育て事業などです。それ以外の女性起業社長は、ほんとに少ないなと感じます。ホテル・ホステルの経営者が集まる会合に行っても、女性はマネージャークラスまでが多いですね。
男女で思い描く夢の大きさが違う。
起業系のイベントなんかに出向くこともあり、起業家の卵と、会うことがあるんですけど…。女性もたくさんいるんです。ですが、内容や思い描いているサービスが小さめなんですよ。男性は例えば、世界の電力の供給の仕方を変えていこう。といった仕組み自体を変える話。すごく話が大きいんです。
女性が、意見をガンガン言うと、やっぱり嫌われる。出る杭打たれる。という感じが、あるじゃないですか。気が利いて控えめで綺麗で…。という女性の方が、わかりやすくモテる。そういう価値観に自分を合わせていくうちに、だんだん、思い描くものも小さくなっていくのかな。って、すごく感じるんですよね。
男性も女性も実はジェンダー・バイアスに縛られている。
──それって、何が原因だと思いますか?
社会のみんなの意識かなって。無意識に多分、女性も男性もこうであるべき。と思っている。少しずつは変わっては来てると思います。でもやっぱりまだまだ、そういう認識が残ってる。女性にも仕事をして欲しいけど、内容も稼ぎも男性よりは控えめにやってね。という…。これは、産後、時短社員で働くのはほぼ女性というところにも現れてますよね。
そんな決めつけを気にしないフリをして仕事をしている母親もいます。ですが、仕事をすれば、するほど母親としての評価は反比例してくる。「ちゃんと家で旦那さんにご飯作ってあげてるの?」と他人に言われたり…。知り合いの働く母親はみんなモヤモヤしています。
逆に男性も、子育てしたい人いるじゃないですか。
僕はどっちかっていうと、そっちのほうが得意だよ。っていう人。じゃあ女性がガンガン働いて、男性は家にいて、子育てします。ってなったときに、逆のことが起こるじゃないですか。
昼間に、例えば男性がちょっと子どもをおんぶして、スーパーに行ったら「この人働いてないのかしら」と、噂されたり…。親戚に「ダメ男なんじゃないか」みたいなことを言われたりとか。
男性は稼ぎがあって、自分の意見をガンガン言えてなんぼみたいな。そうじゃない男性は、ダメだと言われたりするのも、ジェンダー・バイアス(性別による決めつけ)ですよね。
子どもは、枠組みで考えずに、世界を捉えている。
──これから吉柴さんが、やっていきたい活動はありますか?
日本の公教育だと、ほとんどやっていないアート教育、性教育、哲学などを子ども向けにオンラインでやっていきたいと思っています。
先日、うちの5歳の子供に「家族って何?」と聞いたんですが、すごく核心的な答えが返ってきたんです。
──なんて答えたんですか?
「一緒に住んでるってことだよ」と。「え?じゃあじいじとばあばは一緒に住んでないから、家族じゃないの?」と聞くと、「家族だよ。たまに遊びに行って、一緒に住むでしょ」と…。確かに1年に1,2回ですけど、泊まりに行っているんですよ。
「じゃあ、隣のおうちはワンちゃん飼ってるでしょ?それはどう思う?」と聞くと、「家族だよ。だって、一緒に住んでるでしょ」と。そこに動物だからとか、男と女で結婚してなくちゃいけない。といった概念が一切入っていなくて…。お互いがお互いを認め合って、一緒に生活したいと思って暮らす単位が家族だ。ということを、彼女は無意識に捉えていているんだなぁ。と。
──「一緒に住む」ということが家族…。深いですね。
ちっちゃい子たちはみんな、枠組みで考えずに世界をなんとなくイメージで捉えている。本当に確信をついているな。って思っていて…。
ジェンダーの問題しかり、子どもの頃の意識の植え付けって、よくも悪くも、その後の人生に影響を及ぼすと思っていて。そういう大事な時期に関わることによって、さまざまな固定概念、障壁を越えて生きていける人に育って欲しいなと思っています。
男性、女性、独身、既婚、主婦、会社員…。など
私たちは、人のことを「枠組み」で無意識に捉えてしまうことがあります。
ですが、一人一人とお話するとそんな枠では分類出来ないほど、人は多様で複雑です。
無意識に作ってしまうその枠を取っ払うために。まずは自分が閉じ込められている女性らしく、男性らしく。といった枠のカタチに気づくことが第一歩。
人を何かの枠に閉じ込めないためにも…。
さまざまな枠を越えて、新たな世界を築いていく吉柴さんを、これからも応援していきたいです!お話ありがとうございました。
文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿(MSPG Studio)
文字起こし協力:なかもとめい(株式会社RASHISA)
参考文献
治部 れんげ(2020)『「男女格差後進国」の衝撃—無意識のジェンダー・バイアスを克服する 』小学館.
吉柴さんのホテルICHINICHIのHPはこちら