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語学のコツは怠け者!?〜怠け者こそ語学に向いている〜【英語編】

はじめに

 ぼくには自慢できることがひとつだけある。それは怠け者であることだ。例えば、本棚の整理に何カ月も手をつけられないでいるのは、ぼくにはよくある話である。

 でも、人には誰しも怠け者な一面があるのではないかとも思っている。ぼくのように、スマホのデータ整理をしなければと思いながらも、結局そのまま使用している、という人は案外と多いのではないだろうか。

 そこで今回は『怠け者こそ語学に向いている』というテーマで、英語学習に関するぼくの経験に基づいた話をしてみたい。

『怠け者式』英語学習、誕生

 小さな頃から、ぼくはいろいろな勉強をめんどくさいと感じてきた。漢字の書き順や掛け算の九九の暗記など、例を挙げれば限りがない。

 もちろん、これらには利点がある。書き順どおりだとスムーズに文字を書けるし、九九を利用することで計算を素早くできる。だからぼくも、小学生なりに納得して取り組んだものだった。

 そして、いよいよ中学校で登場する謎の学問。それが英語である。

「 I'm は I am の、It's は It is の短縮形です。覚えなさい」
「 I'll は I will の、I've は I have の短縮形です。覚えなさい」 
「口語で going to を gonna と表現することもあります。教科書には載っていないけど、覚えなさい 」

 これらは、ぼくが中学生時代に習った内容だ。確かに教科書でもそう紹介されているから実際にそうなんだろうけど…と、ぼくは飲み込もうとした。

 でも悲しいことに、ここで怠け者の本領が発揮されてしまう。怠け者は納得できる理由がないと動かないのだ。だから、なぜ短縮形という書き方が存在するかについて、ぼくはその理由を必要としたのである。

 頭を捻った挙げ句にぼくはこう考えることにした。「 I am と書くより I'm とした方が、書くにも発音するにも短くて楽だからこのような表現が生まれたのだ」と。つまり、昔の人だって自分のように怠け者だったに違いないから、何でも楽な方がいいと判断したのだ、と決めつけたのである。

『怠け者式』英語学習が誕生した瞬間である。

 それ以来、ぼくの英語学習は『怠け者式』で行われた。『英単語の強勢(アクセント)の位置』や『形式主語を用いた表現』といった高校英語でお馴染みの知識を、「昔の人も怠け者だったから」という理由づけで飲み込みながら、ぼくは高校卒業の時を迎えた。

 その結果、高校英語に苦労することもなく、また、希望する大学への進学も叶ったのだが、予想外のことに驚くことになったのは、大学のある講義での出来事だった。

あなたからそんな言葉が出るなんて

 それは『言語の音』に関する講義だった。担当教授は厳しいことで有名な学科長である。様々な言語に関する話が進む中、小中学校で学んだ日本語の『音便(おんびん)』について話が及んだ。

 『音便』とは、例えば、昔は『飛びて』と発音していたのが『飛んで』と言うようになったとか、『待ちて』が『待って』になったといった具合に、言葉の音が変化する現象を指す国語用語である。

 学科長は『音便』に関する説明の最後に、次のような話をしてくれた。

「『音便』の『便』は『便利』の『便』です。つまり、そのように発音する方が話す人にとって都合がよいということです。要は、発音しやすいように音を変化させたというだけのことです。私たち人間は怠け者ですから、そうなるのは当たり前です」

 なるほど、田舎のお年寄りが「よく来たね」というのを「よう来たね」と言うのは、"く"よりも、"う"の方が発声が楽だからなのだ。つまり、うちのじいちゃんとばあちゃんは怠けていたのだ、とぼくはすぐに思い当たった。

 同時に、この文脈で学科長から『怠け者』という言葉が出てきたことにぼくは大きな衝撃を受けた。しかし、それまでのぼくの『怠け者式』な英語の理解に一本の太い柱が通ったように感じられもした瞬間だった。

英語は"怠け者"を受け入れてくれる

 数学や物理などの科目は、工夫して計算を楽にすることを許してくれる。でも、それ以外の科目は、簡単に怠け者を受け入れてはくれない。

 その意味において、英語ほど怠け者に優しい学問はないとぼくは思う。なぜなら、英語に関しては、「楽だから」とか「めんどくさくないから」という考えに基づくだけで、ほとんど全ての問題が解決してしまうからだ。

 言葉は怠け者である人間が生み出した道具だから、怠け者精神に満ち溢れていて当然なのだ。それに、日常的に使う言葉はシンプルでわかりやすい方がよい。そのように考えた場合、英語ほど怠け者に適した学問が他にあるだろうか、とぼくは思う。

 かつてヨーロッパで使用されていたラテン語は、理解するのが難しかったために廃れてしまった。結局、めんどくさいことが嫌いな人は多いのだ。

 少なくともぼくの英語の授業では難しい話は一切出てこない。なぜなら、アメリカ人の幼稚園児だって、イギリス人の弁護士だって、きっとほとんど怠け者なのだ(知らんけど。)だから、文化は違えど、人間としての本質は同じなのだ、という立場に立てば、言葉を理解するのに難しいことは必要ないのである。

 最後に具体例のひとつとして、前述の『英単語のアクセントの位置』に関して、『怠け者式』英語学習の考え方を紹介する。

 アクセント問題は、単語を単体で考えるから"問題"になっているだけで、その単語を使った簡単な英文を作成して頭の中で音読してみれば、一目瞭然に正解がわかってしまう。なぜなら、正解以外の場所にアクセントが置かれていると、単純に発音しづらいのである。

 ただし、発音のし易さを判断するためには、英語の音とリズムを大切にした学習が必要になる。これこそが、ぼくの最初の授業が、文字と音の対応の学習から始まる一番の理由である。

 これからは、発音以外の事項についても『怠け者式』で紹介していくので、ぼくと一緒に存分に怠けて欲しい。

良い怠け者とは

 ぼくは、怠け者には良い怠け者と悪い怠け者がいると考えている。前者は"何かをする理由"を探す怠け者。後者は"何かをしない理由"を探す怠け者である。

 良い怠け者は間違いなく学力が伸びる。彼らは、何かをする理由さえ明確になれば、少しでも楽に目的を達成しようと努力するようになるからである。面白いことに、結局のところ、良い怠け者が行き着く先は勤勉なのだ。

 良い怠け者になることができれば、高校英語に限らず、勉強はぐんと楽になる。これからも折を見て、怠け者式の学習法を紹介していきたいと思う。

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