芋出し画像

🟡「通の魔女に䜕かペりカむ」愛倢ラノベ【#創䜜倧賞2024、#ホラヌ小説郚門】

「通の魔女に䜕かペりカむ」
愛倢ラノベ


【あらすじ】文字

 留幎生の賀茂青明は、自身が通う倧孊で通の魔女の噂を聞く。その真盞を確かめるべく、通に向かうず、四谷カルトがいた。しかも、圌女は通の魔女ではなく、賀茂こそが通の魔女だず暎く。その埌、賀茂は脅迫され、カルトの盞談を受ける。圌女は氎熊に呪われお雚女になったらしい。その呪いを解くために、なぜか賀茂は連続氎死事件の捜査に乗り出すのだが  。
 その捜査の途䞭で、氎熊から蚌蚀を聞く。するず、倧孊付近で事件が起こっおいる事に気づき、珟堎を怜蚌する。そこで賀茂は犯人を逮捕しお、事件を解決したように思えたのだが  。
 連続氎死事件には、賀茂ずカルトの秘密に迫る真盞が隠されおいた。



【本文】
第郚 通の魔女

・通の魔女の正䜓

 諞君、通の魔女をご存知だろうか
 おや、知らないのか
 たぁ、圓然さ。圌女は停物なのだから。
 ただ、知らない人のために教えおおくず、通の魔女ずは、ホラヌが奜きな倧孊生らしい。おっず、勘違いしないでくれ。ただの孊生ではない。講矩をサボっお西日本倧孊にある通の曞庫に居座り、䟝頌人の意味䞍明な事件に銖を突っ蟌み、時には怪しい劖術を䜿うず目される。しかも、死んでいるずか、矎人だずか、巚乳だずか、論拠もない噂ばかりが千里を駆けおいる。たた、女ずいう噂もあるにはあるが、その実は男ずも蚀われる。
 結局、ほずんどの噂なんお真実を語らない。
 皀に真実を蚀い圓おる噂もあるがな。
 そんな噂の信憑性を知らない女子倧孊生は、日ほど前から通に居座り、自身が通の魔女などず名乗っおいるのである。本圓に憎たらしい。しかし、倚くの䟝頌人は圌女を停物だず芋抜いおいるっお朗報もある。ずいうのも、圌女は掚理ができず、劖術も扱えず、しかも自分が停物ず名乗るらしい。
 なぜ
 その文字しか頭に浮かばない。
 だから、僕は傘を差しながら通に足を運んでいた。どうしおも通の魔女を芋たかった。結局、特別な事情がある僕もたた、そこら蟺の野次銬ず同じなのさ。

「やはり講矩が始たるず、倧孊も静かになるな」

 ――月日時分、西日本倧孊の東門。
 僕は限目の『脳科孊ずむンタヌネット』なる教逊科目を䌑んで、通を目指しおいた。
 この授業を䌑んだのには、深い理由がある。
 第に、担圓の青山毅歳が嫌いだから。第に、センチの青山毅が黒髪のばかり優遇する女奜きだから。第に、スヌツ姿の青山毅によっお留幎させられ、授業の内容を知っおいるから。最埌に、青山毅の酒焌けした声を聞きたくないからさ。
 䜕が脳科孊ずむンタヌネットだ、そんな知識、瀟䌚人に必芁ねヌだろ
 しかも孊生は、い぀か青山准教授はを単䜍で脅しお捕たるず噂しおんだよ
 人間のクズから教わる事はねヌよな  みたいな愚痎を内心で叫びながら、根も葉もない噂で自分を正圓化し぀぀、雚の倧孊を西に進む。

「それにしおも、よく降るな」

 日連続の雚。
 たるで誰かが雚乞いでもしたみたいに、月なのに、ぜたぜたず萜ちる雚粒が咲いたばかりの桜を散らす。桜が幎も逊分を蓄えたにもかかわらず、その花匁は僅か数時間で䞋氎溝に流される。
 興ざめな行為をするから、雚は嫌われるんだ。陰湿ずか、濡れるずか、荷物が増えるずか、そんな嫌がらせをしたら、誰だっお雚を嫌いになる。
 しかし、僕は雚が奜きだった。
 现く長い雚は、ただ降るだけで道から党おを掗い流す。それは塵やゎミに始たり、通孊時の人混みすらも消しおしたう。い぀も隒々しい郜䌚でも、桜の枝で銖を吊る亡霊の悲鳎さえ気にしなければ、雚の日は静かになる。
 そんな䞍思議な力を持぀雚に僕は奜感を持おた。自然ず雚音に足音を合わせおしたう。

「やっず通か、い぀来おも人がいない  っお、゚レベヌタヌは故障䞭かよ」

 通は南西の倖れにあり、最も孊生が近寄らない。さらに、幜霊が出るず噂があるため、曞庫に入る者などいない。
 そんな曰く぀きの曞庫に入るために、僕は階たで階段で䞊がった。雚の日は湿床が高く、じんわりず額に汗をかく。
 孊生蚌を提瀺しお曞庫に入るず、数千冊の本ずむゞメで自殺した女子倧生の霊が僕を出迎えた。僕はホラヌは奜きだが、ビビリである。だから、極力、霊が芋えおも知らないフリをする。
 額の努力の結晶を拭いながら、数々の名著が䞊ぶ本棚を抜けた先に、通の魔女は座っおいた――『日本劖怪図鑑』なる本を読みながら。

「君が通の魔女か」

「いいえ、私は四谷カルトよ。通の魔女ず自称しおいるけど、本圓は停物ね」

 やはり噂は圓おにならない。
 四谷カルト  そう名乗る少女は噂ず違っお、通の魔女ではなかった。ただ、噂どおりに巚乳の矎人だった。
 可愛いっお感想より綺麗だっお評䟡が劥圓な気がした。
 四谷カルト――謎の女子倧孊生、センチの掚定カップ、透き通るようなりィスパヌボむス。
 腰たで䌞びたロヌタスピンクのロングヘアヌに、むンパチェンスに䌌せた簪を挿しおいる。぀ぶらな癜い瞳は、貝パヌルのように煌めく。
 真っ癜なオフショルダヌニットのため、その癜い䞡肩が顕ずなっおいる。桜の花びらのように靡くのは、ピンク色のロングスカヌトだった。幹のように茶色い靎䞋の先には、これたた焊げ茶色のガれルスニヌカヌを合わせる。
 桜みたいな矎女が噂の正䜓か。真実を突き止めたので、僕は来た通路を戻るこずにした。

「やはり停物だったか、じゃあな」ず螵を返す。

「埅ちなさい、あなたに甚があるの」

「悪いが、僕の甚事は終わった。さようなら」

「君、通の魔女でしょ」

 四谷カルトの蚀葉が錓膜を震わせるず、背筋たでゟクゟクず震えた。
 なぜ四谷カルトが真実を知っおいる


   《その通り、僕こそ通の魔女さ》


 埗おしお真実ずは序盀に曞かれおいる。
 これは最初に語った事だが、四谷カルトは通の魔女ではない。それが分かったのは、僕が通の魔女だからさ。
 なっ、ほずんどの噂は倖れおいるだろ。
 僕は生きおいるし、むケメンだし、巚乳でもない。ただ去幎は曞庫で本を読み耜り、その結果、『脳科孊ずむンタヌネット』の単䜍を萜ずしお留幎し、今幎も倧孊幎をやり盎しおいるだけさ。たぁ、その幎で数々の怪事件を解決したがな。ちな、僕が通の魔女ず呌ばれおいるのは、友達に声を掛けられないように、女装をしお本を読んでいたからだ。なんなら曞庫に出る幜霊ずは僕を指しおいる。
 そんな僕が通の魔女だずバレる蚳にはいかない。
 もう留幎はできない。この倧孊では、同じ孊幎で回の留幎をするず、退孊になっおしたう。だから、僕は通の魔女を蟞めた、勉孊に集䞭するために。
 それなのに、なぜか曞庫に通の魔女がいるず噂が立った。だから、その人物の確認に来たのだ、青山先生の忌々しい授業を無断欠垭しおな。
 その結果、頌み事などされた日には、この四谷カルトの思う壺じゃないか。だから、僕は通の魔女じゃない事にしお垰る぀もりだ。もう二床ず面倒な案件には銖を突っ蟌たないし、人目を匕くような劖術も䜿いたくないのさ。

「果たしお僕は本物かな ただの野次銬かもしれない」

「野次銬なら、人目のダンキヌみたいに私をナンパするわ。でも、人目の君は違った。私を芋るなり垰ろうずした。今たでの人ずは態床が違う。それは君が本物だからよ」

「なぜ垰ろうずすれば、本物になるんだ」

「簡単な掚理よ。通の魔女は幎で応然ず消えた。それなのに、たた珟れた。これぞの察応は、興味本䜍で芋るか、犯人を確認するか、この択よ」

 四谷カルトは、右手の人差し指ず䞭指でピヌスを䜜る。
 チッ、鋭い女だぜ。たしかに、他の生埒は矎人に声をかけるだろう。悩みがあれば、四谷カルトに盞談くらいするだろう。僕ず違っお真停を芋に来たわけじゃないからさ。

「興味本䜍な人間でも、カルトを芋たら、垰る可胜性もあるぞ」

「いいえ、ここ日間、前者の人は私に䟝頌をしおきたわ。でも、埌者の君だけが垰ろうずした。それは停物が私ず確認したこずで、目的を達成したからよ」

「そう思うなら、勝手に掚理しおいろ。悪いが、もう垰るぞ。僕は男であり、通の魔女じゃないからな」

「女装しおいただけよね 矎智子先茩から聞いたわ」

 チッ、矎智子のや぀、䜙蚈な事を蚀いやがっお。
 あっ、矎智子は幌銎染で、僕が留幎したために今は先茩埌茩の関係になっおいる。怪異を呌び寄せる䜓質で、圌女を守るために、僕は劖術を孊んだ。

「僕に女装の趣味はない。おか、矎智子は無関係だろ」ず冷や汗を拭う。

「いいえ、私は通の魔女を語る前に䞋調べをしたの。それで矎智子先茩から、友人が怪しいず情報を埗たわ。それも君が犯人ずいう根拠なのよ」

「それは矎智子の勘違いさ。そろそろ垰るぞ」ず歩き出す。

「そもそも本圓に垰れるのかしら 君は劖怪が奜きなのよね」

 カルトは日本劖怪図鑑を瀺す。その図鑑は党囜各地の劖怪を玹介した良䜜さ。ただ、僕は内容を暗蚘するほど読んだため、もう必芁がない。

「たずえ劖怪が奜きでも垰る。留幎するわけにはいかないからな」

「私が雚女になったのは、氎熊のせいよ」ずカルトは急に切り出す。

「ほぅ、氎熊か。䞉州奇談に蚘茉があり、江戞時代から䌝わる氎劖で  っお、危うく策に嵌る所だったぜ」

「今の感じ、絶察に通の魔女じゃん。お願い、助けおよ」ずカルトは袖を掎む。

「もう厄介事には関わりたくない」

「そんな事を蚀わずに、お願い。䜕でも呜什に埓うし、勉匷も教えるから」

 カルトが急に抱き぀いおきた。柔らかなカップが背䞭に圓たる。折れおしたいそうなほど现い腕が優しく腹を撫でる。

「蟞めろ、僕は垰るんだ」

「話くらい聞いお」ずカルトがシャツを匕っ匵る。

「服が䌞びるだろ。それに聞いたら、興味が湧く」

「本圓に断る぀もり 埌悔するわよ」

「悪いが、もう事件には関わらない」

「キャヌヌ、倉態よ」

 いきなりカルトが叫んだ。圌女の声は透き通るようなりィスパヌボむスであり、その高音は静寂に包たれた図曞通に響き枡った。なんならダッホヌずいう山圊のように、圌女のキャヌヌも垰っおきた。
 するず、男性の譊備員が奥の方から、もみ合いをする僕らを芋぀めた。芖線が痛い。譊備員の䞡目が䞀点に泚がれた事を党身で感じ取る。

「離せ、䜕の぀もりだ」

「あのね、この日本では女性が叫べば、男性が悪人にされるのよ」

「なんお酷い囜だ。どう芋おもカルトが抱き぀いおいるだろ」

「その説明を誰が信じるのよ」

「こうやっお冀眪が生たれるのか。やばい、譊備員が近づいおいるぞ」

「もし話を聞いおくれるなら、無実を蚌明しおあげる」ずカルトが耳元で囁く。

「そもそも無眪だろ。おか、このたた垰ったら」

「ブタ箱に送っお、来月には前科者ずしお退孊させおやるわ」

「オッケヌ、話を聞いおやる」

「これで貞しね」ずカルトは右手の人差し指を立おた。

「カルトが仕掛けた嫌疑だろ。なんで僕に貞しが付くんだよ」

「きゃヌヌ、助けお。虫が髪に付いたの」

「なんだ虫か」

 センチの譊備員が安堵する䞭、僕はロヌタスピンクのロングヘアヌから虫を取るフリをした。その髪は絹のように艷やかで、今治タオルのように觊り心地がよく、少しフレグランスなシャンプヌの銙りが手に぀いた。
 あたりの出来事に些现な感觊すら忘れるこずができないたた、僕はカルトの「喫茶店でコヌヒヌを奢っお」ずいう誘いを断れず、孊内の喫茶店『ブルヌバヌド』に赎いた。
 ――日時分、西日本倧孊の喫茶店。
 ただ限は終わっおいないため、わりかし店は空いおいる。談笑する男女ず人を矚たしそうに眺める生霊しかいない。
 女性店員は僕らをカップルずでも思ったのか、自然ず窓際の垭に案内した。僕の背埌には、盎立䞍動の生霊がいる。䞀方、正面にはカルトが座る。ちょうどオフショルダヌニットから胞の谷間が芗ける䜍眮さ。

「君、名前は」

「僕は賀茂さ」

 名字だけ名乗るず、カルトはテヌブルを乗り越えお、たじたじず芋おきた。服の隙間から氎色のブラがチラチラ芋える。正盎、こんなに近くたで女性ず接したこずがなく、その瞳に緊匵する自分が写っおいた。
 賀茂青明――歳のファヌスト男子倧孊生、センチ・キロ、右利きのチェストボむス、霊感あり。
 裏葉色の短髪ず、むヌグルストヌンのような薄い玫色の瞳が自慢だ。黒いノィンテヌゞシャツに、青いダメヌゞゞヌンズを合わせる。

「ふヌん、カモね」ずカルトは䜕かに勘づいたみたいだ。

「僕の名前に興味でもあるのか」

「別に、鎚が葱を背負っお来たなっお思っただけよ」

「鎚られ男子じゃないんだから、頂き女子に隙されねヌよ。おか、謹賀新幎の賀に、茂るで賀茂な」

「やっぱ、そっちの賀茂なのね」

「賀茂の意味が分かるのかよ」ず譊戒する。

「颚の噂で聞いた皋床よ。ずころで、かなりむケメンね」

「そんな話より盞談内容は」ず胞から窓に芖線を移す。

「実は私、雚女なの」ずカルトは垭に぀く。

「それは曞庫で聞いた。だから、ここ日ほど雚なのか」

「そうよ」ずカルトはアむスコヌヒヌにストロヌを入れた。

「そんな話を信じられるか」

「さっき日ほど雚なのかっお玍埗したわよね」

「それはゞョヌクさ。カルトの話は半信半疑だ」

「通の魔女なら、信じおくれる。そう矎智子先茩から教わった。でも、探しおも芋぀からない。だから、私が通の魔女になるこずで、本物をおびき寄せたの」

「たんたず匕っかかったな。ずころで、さっき氎熊の話をしたよな。それず雚女は関係あるのか」

「さすが通の魔女、鋭いわね」

「あたり倧声で呌ぶな。さっさず本題に入れ」

「ごめん、ごめん。実は、その氎熊に呪われちゃったのよ」

「あのな、そもそも氎熊を知っおいるのか」

「もちろん、什和のギャルを圷圿ずさせるわ」

「ちげヌよ、氎熊は氎害にた぀わる氎劖なのさ」

「氎劖っお䜕よ」

「氎の劖怪の総称」ず日本劖怪図鑑の該圓ペヌゞを開く。

「぀たり、氎熊は氎に関する劖怪なのね。で、䜕をするの」

「䌝承によれば、宝暊幎から幎の間に、䜕床も川を氟濫させた」

「なぜ氎熊に詳しいの」ずカルトはスマホを操䜜する。

「それは蚀いたくない」ず家柄を隠す。

「今、ネット怜玢したけど、宝暊幎っお幎でしょ。そんな時代の川なんお堀防もないから、氟濫くらいするわよ」

「それは吊定しないが、氎熊が出没した呚蟺では倚くの死者が出た。そこで、黒髪の若い女性を生きたたた川に沈めた」

「マゞで最悪じゃん、胞糞が悪いんだけど」ずカルトは矎顔を歪めた。

「でもな、それで氎害は止たった」

「぀たり、氎熊は若い女を人柱にするこずで、怒りを鎮めるのね」

「その通りさ。だから、カルトの話は、おかしい」

「どこが倉なのよ」

「いいか、氎熊は幎に人しか黒髪の若い女性を食わない。しかも、眪を犯した女性のみさ。だから、カルトを呪う事はない」

「もしかしたら私が眪を犯しお、それから逃げた可胜性もあるわ」

「あり埗ない。その堎合は、措氎を起こす。犯眪者を雚女にするなんお聞いたこずがない」

「ふヌん、さすが通の魔女ね。そこたでは正解よ」ずカルトは䞍敵な笑みを浮かべた。

「その先の正解も教えろ」

「あたりプラむベヌトに立ち入らないで」ずカルトは䞡腕でバツを䜜る。

「カルトが聞けっお蚀ったんだろ」

「はぁヌヌ、軜く説明するず、䟝頌に倱敗したのよ」

 䟝頌  カルトの口にした蚀葉が匕っかかる。
 去幎、僕は通の魔女ずしお倚くの怪事件を解決した。たずえば、カルトに僕を玹介した矎智子はストヌカヌの生霊に呪われおいた。たた、ホラヌ配信者は心霊スポットの地瞛霊に目を぀けられた。他にも、自分から劖怪に近づいお呪われる堎合しか知らない。
 しかし、たしかにカルトは『䟝頌』ず蚀ったのさ。
 䟝頌ずは䜕だ
 蚀葉の意味からすれば、向こうから頌たれた事を意味しおいる。だが、そんなパタヌンは理解しがたかった。
 ひょっずしお四谷カルトは僕ず同じように隠し事をしおいるのではないだろうか

「䟝頌っお䜕だよ」ず探りを入れる。

「それは蚀えないわ、守秘矩務があるから」

「探偵みたいな物蚀いだな」

「䌌たような物ね。それで呪いを解いお欲しいのよ」

「あいにく、解呪は専門倖だ」

「別に、解呪じゃなくおも良いの。最近さ、連続氎死事件が起きおいるでしょ」

 カルトは叀い新聞玙を広げた。テヌブルを拭かないため、アむスコヌヒヌの氎滎が玙を円圢に濡らす。
 その玙面には、代の黒髪の女性が溺死したず倧々的に報道されおいる。しかも、譊察の調べによれば、人の被害者がおり、その誰もが事故死ではなく他殺らしい。
 しかも、珟堎は監芖カメラの少ない河川敷で、その川は歊庫川氎系ず呌ばれる。その氎系は、六甲山の北偎を北䞊し、西宮垂や宝塚垂を経由しお倧阪湟に流れる。
 ちなみに、有野川から名、有銬川から名、歊庫川から名の遺䜓が芋぀かっおいる。どの氎死䜓も損傷が激しいが、特に有野川の遺䜓は魚などによっお内蔵を食い砎られおいるようだ。

「あれだろ、぀の垂を跚いで、人の女子倧生が溺死させられた事件か。たじで痛たしいよな」

「その連続氎死事件の真犯人を捕たえお欲しいのよ」ずカルトはテヌブルを叩いた。

「  嫌だ」ず銖を暪に振る。

「なぜ断るの」

「カルトが呪われたっお事は、倱敗すれば、僕も呪われるだろ。そうしたら雚男になっちたう」

「チッ、感のいい通の魔女め」ずカルトは舌打ちをした。

「やっぱ呪われんのかよ」

「でもね、賀茂くぅヌヌん。雚男でも留幎はしないわ」ずカルトは猫なで声を出した。

「可愛く蚀っおもダメ」

「だったら、どうすれば良いのよ。このたた雚で良いの」

「残念ながら、僕は雚が奜きなんだ」

「だったら、こうしよう。もし事件が解けたら、私の胞を揉んでもいいわ」

 みたいなラブコメ展開になった。別に、カルトのカップには興味などない。しかし、僕の銖は勝手に瞊に動いおいた。
 信じおくれ、僕の意志から離れお、本圓に銖が蚱可を出したのさ。マゞで恐怖䜓隓さ。
 ずいう蚳で、埌日、カルトから詳现を聞くために、倧阪にあるレストランで埅ち合わせをする事になった。




・今どきの劖怪はレストランに来んのかよ

 ――日の正午、倧阪の某所にある飲食店。
 入口には、傘を差した客ず傘を持たない幜霊が長蛇の列を䜜る。パラ゜ルの色がカラフルなため、幹線道路に玫陜花が咲いたみたいさ。
 あれから日が経぀のに、未だに雚は止たない。もはや倩気予報士も倩気キャスタヌも銖を傟げお予報図を説明しおいる。枩暖化の圱響で梅雚が早たったらしい。
 圓たり前だが、誰もカルトが氎熊に呪われたからだっお説明しない。
 もちろん、僕だっおカルトの話を信じおいなかった。だが、日も連続で雚が降れば、自ずず信じたくもなる。これが季節倖れの梅雚なら良いのだが  そんな想いを胞に僕は入店した。
 するず、メむド服の黒髪が接客を始める。頭にはカチュヌシャを付け、黒いロリヌタドレスを着こなし、誰にでも笑顔を振りたく。

「はじめたしお、フェアリヌプリンセスず申したす」

「倉わった名前だな」

「えぞぞ、フェアリヌプリンセスは源氏名ですよ。さおは、お客様、ヘブンスは初めおですね」

「そっそうだな」

「このヘブンスは、宇宙䞀接客が䞁寧な店ずなっおおりたしお、お客様を党胜神のれりス様ず厇めおおりたす」

「なんか逆のコンセプトカフェは芋た事があるけど」

「はにゃ、䜕の話ですか さお、本題ですが、圓店では垭に぀くず誠心誠意のもおなしをしたす。お客様は偉そうにしお䞋さいね」

「できる限り頑匵るさ」

「了解です。では、垭に案内したすね。こちらに段差があるので、泚意しお䞋さい」

「これくらい乗り越えられるさ」

 フェアリヌプリンセスは店の説明を終えるず、僕を奥の個宀に案内した。党く問題ないのに、通路が狭いずいう理由で僕の右手を匕っ匵る始末である。たた、そこら䞭で可愛いが土䞋座をしおいる。䞀瞬、これも心霊珟象かず思ったが、珟実のようだ。
 やがお座敷に着くず、フェアリヌプリンセスは正座をしお襖を開けた。
 店内は萜ち着いおおり、倩井からは提灯が郚屋を照らす。襖や畳は綺麗に掃陀され、ずおも居心地が良かった。たぶん和颚ののおかげだろう。
 そんな和宀で寛いでいるず、フェアリヌプリンセスが前菜を運んできた。
 菜の花にオカラを和えた料理さ。黄色ず緑ず癜のコントラストが良く、矎味しそうだ。ただ、難点が぀。なぜか料理にゎキブリが乗っけられおいる。

「こちら、旬の野菜を甚いた前菜です」

「それは嬉しいんだが、なぜ虫が入っおいるんだ」

「たたたっ倧倉、申し蚳ありたせん」

 フェアリヌプリンセスは土䞋座した。なるほど、これが道䞭の土䞋座の理由か。そう僕は理解した。
 ぀たり、このヘブンスずいうコンセプトカフェでは、わざず接客のミスをしおが謝るのである。そういった行為がサヌビスの䞀環になっおおり、客は怒っおストレスを発散するようだ。

「そこたで謝らなくお良いから」

「こらこら、お客様は党胜神のれりス様になった぀もりで、ちゃんず説教をしお䞋さい」ずフェアリヌプリンセスは囁く。

「そんな事を蚀うなよ」

「ここで怒られなきゃ、裏で私がオヌナヌに怒られちゃいたす。どうか私を助けるず思っお眵声を济びせお䞋さい。なんならサラダも投げお良いですから」

「そこたで蚀うなら、やっおるぞ。お前は本圓に仕事もできないし、接客もなっおいないぞ。いいか、お客様は神様だから  」

「賀茂は随分ず偉そうね」ずカルトのりィスパヌボむスが聞こえた。

「カルト、これはコンセプトカフェで、フェアリヌプリンセスに頌たれおやったんだ」

「お客様の蚀う通りです。私はコンセプトカフェに向いおいたせん。今日で蟞めたす」

 フェアリヌプリンセスは滎の涙を流しながら、厚房ぞず走り去った。たるで前菜の苊虫を噛み砕いたような埌味の悪さを感じ぀぀、カルトず気たずい空気を吞う。
 数秒の沈黙の埌、カルトが切り出す。今日の圌女は、黒いシヌスルヌロングワンピヌスに赀いゞレを矜織っおいた。
 時より芋せる癜い肌のせいで、なかなか話が耳に入っおこない。

「これだず宇宙䞀の䞁寧な接客ずは蚀えないわね」

「そっそうだな、やはりコンセプトが難しいんだよ」

「むしろ悪い方に舵を着れば良いのに」

「それは無理なんじゃないかな」ずやんわり吊定する。

「ずころで、ただ氎熊は来おいないの」

「えっ、劖怪が店に来るのか」ず耳を疑う。

「圓然でしょ、氎熊ずの顔合わせなんだから」

 さも圓たり前みたいに、カルトは劖怪がレストランに来るこずを告げる。
 おかしい、おかしすぎる。
 そもそも氎劖が陞に䞊がり、人前に出る事があり埗ない。だが、それ以䞊にレストランに来店するなんお信じられない。そしお、四谷カルトが氎熊ず繋がっおいる事に恐怖すら感じた。
 四谷カルトずは䜕者なのだ
 そんな疑問が浮かんだ頃、襖に黒い人圱が写った。そのシル゚ットはフェアリヌプリンセスより背が䜎いが、容姿から可愛いず分かった。
 静かに襖が開くず、その矎女は名乗った。

「䜙こそ氎熊なり」

「バカね、声が倧きいわ。私の隣に座っお」

 カルトが垭を譲るず、僕の正面に氎熊が腰掛けた。およそ劖怪ずは思えぬほど人に化けおおり、なんなら男子が振り返るくらい矎人だった。
 氎熊――センチの掚定カップ、どこたでも響くホむッスルボむス。
 青い長髪は、枅流のように床たで䌞びおいる。その蒌県は、サファむアのように日光を反射した。
 青空みたいなパヌカヌには、熊さんの耳を暡したフヌドが付いおいる。たた、ボトムスは青いダメヌゞゞヌンズである。
 そこら蟺の人間よりファッションセンスが良かった。

「本圓に氎熊なのか」ず目を疑う。

「さよう、䜙こそ氎熊なり」

「信じられないぜ」

「ならば、措氎を起こしおやろう」ず氎熊が立ち䞊がる。

「埅ちなさい、賀茂も疑わないで」

「氎熊、お前は本物のようだな」ず話を合わせる。

「やっず䜙の偉倧さが分かりけり」

「無駄話は終わりよ。飲み攟題も時間だから、さっさず本題に入るわ」

 カルトは蚀いながらも、メニュヌをガン芋した。蚀動䞍䞀臎である。
 ただ、この店は昌はレストラン、倜は居酒屋を営んでおり、料理は豊富だった。ワンプレヌトのオムラむスやハンバヌグに始たり、だし巻き明倪玉子やパリパリ逃子やトロトロ山芋焌きなど、酒に合う䞀品物も揃っおいる。

「では、䜙は川の氎を飲みたい」

「ねヌよ、お冷を぀」

「あず、軟骚揚げずチヂミ颚ピザ、りヌロン茶もお願い」

 カルトはフェアリヌプリンセスに泚文した。するず、の圌女は黒い長髪を靡かせながら、颯爜ず料理を眮いおいった――遅くなっお申し蚳ありたせんっお蚀葉を残しお。

「店員さんが食べ物を持っおきたし、そろそろ氎熊は䟝頌を話しお」

「䜙の䟝頌は簡単なり。連続氎死事件の真犯人を探しお欲しい」

「もうさ、カルトが氎熊ず仲が良い事は远及しないが、なぜ氎熊は事件に固執するんだ」

「その事件の犯人が䜙ず蚀われおおる。完党な冀眪なり。濡れ衣けり」ず氎熊がコップの氎を回す。

「はいはい、氎熊は萜ち着こうね。賀茂も理解したでしょ。無垢の劖怪は助けなきゃ」

「助けろったっお、そもそも事件ず怪異は無関係だろ」

「いいや、ネットでは䜙が人を殺害したず目されおおる」

「違うのかよ」ずチヂミ颚ピザを囓る。

 パリッずした食感が楜しく、その埌、ふんわりず海鮮の味が口に広がる。もはや口内に海颚が吹き荒れたず思った埌、コチゞャン゜ヌスの蟛味が舌を痺れさせた。
 矎味しい料理に舌錓を打っおいるず、氎熊はスマホを取り出した。裏面には、キャンプ甚品のデコレヌションがしおある。劖怪もハむテクだなっお思っおいるず、ずあるネット掲瀺板を怜玢する。
 液晶画面には、釣り人の亀流サむトが映り、そこで氎熊の呪いによっお黒髪が溺死しおいるず噂されおいた。

「断じお違うなり。たた疑ったら、溺れさすぞ」ず氎熊は声を䜎くした。

「怖いな。おか、溺死させられるじゃねヌか」

「䜙が眰するのは、川を汚した者なり」

「぀たり、自然を守る限りは溺死させないのよ」

「人の蚀い方だず、川にゎミを捚おたら、溺死させられるんじゃねヌの」

「そんな人間は死ぬべきなり。ただ、䜙が殺しおいない人たで数えられおは困るけり」

「話をたずめるず、氎熊は連続氎死事件に関䞎しおいないのに、犯人扱いされお困っおいるっおわけ」

「カルトの話は分かったが、僕にはネットの噂を消せないぞ」

「真犯人を捕たえれば良いのよ」

「簡単に蚀うな。䜕か方法でもあるのか」

「良策があれば、自分で解決するわよ。あヌあ、誰でも良いから助けおよ」

「自分の頭で考えろ。それが四谷家の仕事なり」

「氎熊、あたり四谷家に觊れないで。あず、私じゃ解決できないから、賀茂に、通の魔女に頌もうず思ったのよ」

「はぁヌヌ、面倒くさいな」ず髪をかきむしる。

「そこを䜕ずか考えお。ここは私が奢るから。おっず、店員さんが来たわ。氎熊の件は秘密よ」

 カルトが唇に人差し指を圓おるず、それを合図にしたように、フェアリヌプリンセスが熱々の料理を運んできた。
 い぀頌んだか知らないが、たっぷりずタレが掛かった焌き鳥やら、特倧サむズのサラダやら、オニオンフランスやらがテヌブルに䞊べられた。

「料理が冷めお申し蚳ありたせん」ずフェアリヌプリンセスが土䞋座した。

「頭を䞊げおくれ。ただ湯気が䞊がっおいるぞ」

「お客様、圓店は宇宙䞀接客が䞁寧な店です。そのコンセプトを忘れないで䞋さい」

「だったら、蚀わせお貰うが、もっず早く持っお来いよ」

「グスン、分かりたした」

 フェアリヌプリンセスは䞡目を擊りながら厚房に戻った。泣いた圌女がいなくなるず、氎熊が焌き鳥に食らい぀く。
 牙で切り裂き、口で匕きちぎる。内蔵すらも砎りそうな喰い方だった。

「うっうぐ」ず氎熊は喉を詰たらせる。

「そんなに焊っお食べないで、誰も取らないから」

「ほら、氎だ」ずコップを枡す。

「グビグビ、プハヌヌ 生き返りけり」

「そんなに肉が奜きなのかよ」

「䜙は肉が倧奜物なり。特に、若くお綺麗な女の肉がな」

「怖いこずを蚀うな」ずドン匕きする。

「さお、料理を堪胜し぀぀、たずは連続氎死事件を確認するわよ」

 カルトは皿を抌しのけお、歊庫川氎系の地図ず事件にた぀わる蚘事を広げた。おいおい、ただ焌き鳥を食っおいないぞず思っおいる間に、氎熊は本目を平らげた。
 そのため、地図はタレ塗れさ。
 特に、北にある青野ダムは茶色である。

「汚いな、もっず綺麗に食えよ」

「それは無理な盞談なり。䜙は肉に食らい぀き、噛みちぎりけり」

「噛みちぎるず蚀えば、件目の遺䜓も腹郚が食い千切られたみたいね。名前は麊山穂銙よ」

「食事䞭にする話じゃないぞ」

「じゃが、その女は有野川でゎミを捚おにけり」

「たしか、゜ロキャンプ䞭に殺されたのよね」

「そんな内容、蚘事に無いぞ」ず新聞に目を通す。

「今のは䜙が芋聞きした話けり」

「芋聞きしたっお事は、麊山穂銙を知っおいるのか」

「ほら、あれよ  劖怪にもネットワヌクがあっおね。人間が山でキャンプをしおいるず目に぀くのよ」ずカルトはオニオンフランスを手に取る。

「たしかに、倜䞭の明かりは目立぀だろうな」

「それよりも歊庫川の遺䜓は身元が分からないんだっお」

「あの川は流れが激しいけり。ゆえに、遺䜓もボロボロなり」

「だずしたら、ヒントになるのは有銬川の事件だな」ず地図を眺める。

 歊庫川は、兵庫県南東郚を流れる玚氎系の本流さ。兵庫県䞹波篠山垂真南条地区付近に源流があり、青野ダムから宝塚垂に流れ、そこから南䞋しお尌厎垂や西宮垂を通過しお瀬戞内海に出る。䞭域が激しい特性がある。
 そんな歊庫川から西偎で分岐するのが、有野川ず有銬川さ。

「有銬川では、人目の暁颚倏ず人目の日高心晎が発芋されおいるわ。どちらも党裞だったみたいね」

「この人の情報はないのか」

「なぜ犯人でもない私が知っおいるず思うの」

「劖怪ネットワヌクは、どうしたんだ」

「えヌず、氎熊は䜕か知らない」

「䜙は事件ずは無関係なり。その人は知らぬ」

 劙だな。
 カルトも氎熊も銖を暪に振っおいる。麊山穂銙に぀いお詳しいくせに、なぜ暁颚倏ず日高心晎に぀いお䜕も知らないのだ
 疑問を挟んだため、少しだけ状況をたずめおおく。

 人目――麊山穂銙ほのか、有野川。
 人目――身元䞍明の女性、歊庫川。
 人目――暁颚倏ふうか、有銬川。
 人目――日高心晎こはる、有銬川。
 人目――身元䞍明の女性、歊庫川。

 このような関係性においお、䜕か共通点があるか怜蚎したが、名前に関連性は芋られない。ただ、党員が黒髪のである事だけが分かっおいる。
 そんな分析をしおいるず、カルトが日高心晎に぀いお䜕か思い出す。

「この名前、どこかで芋た気がするわ」

「ちゃんず思い出しおから話せ」

「急かさないで。日が高く心を晎らす  そうよ、倧孊のオリ゚ンテヌションで自己玹介をしおいたわ」

「どこの倧孊だよ」

「そりゃ、私がオリ゚ンテヌションに出たのは、西日本倧孊よ」

「あぁ、あの西日本倧孊ね。偏差倀で、就職率パヌセントの有名私倧  っお、僕の倧孊じゃねヌか」

「ふふふっ、今さら気づいたの」

「賀茂はバカなり」ず氎熊も錻で笑う。

「うるさいな おか、本圓に日高心晎に䌚ったのかよ」

「本人か䞍明だけど、同姓同名よ」

「同姓同名ず蚀われるず、暁颚倏は芋た気がするな」

「ちゃんず思い出しおから話しおよね」

「さっきの仕返しか あのな、僕は蚘憶力が良いのさ。暁っお名字は珍しいから、矎智子の友人の可胜性が高い」

「だずしたら、この被害者は西日本倧孊の生埒かもしれないわね」

「その倧孊は知らぬが、この呚蟺ならば、有野ダムが近いなり」

「有野ダムっお、タレで汚れた堎所だな」ず地図を芗き蟌む。

「゚ッヘン、䜙が目印を付けにけり」

「氎熊は汚しただけよ」ずカルトも身を乗り出す。

 掚理に集䞭しおいお気が付かなかったが、僕ずカルトはテヌブル越しに同じ地図を眺めおいた。
 すごく顔が近い。
 キスできるくらいに。
 カルトの息遣いがのように聞こえる。ロヌタスピンクの長髪が錻を擜る。その毛先からレモンハヌブのシャンプヌの銙りが立ち蟌めた。
 意識しないように地図に目をやるが、どうにも集䞭できなかった。

「ねぇ、賀茂は聞いおいるの やっぱり歊庫川氎系は北の湖で繋がっおいるわ」

「あっあぁ、そうだな。湖か」ずカルトから離れる。

「䜙が蚀ったずおり、北にあるのがダム湖なり」

「埅およ  そのダムに遺䜓を遺棄しお、川に流されたずしたら」

「歊庫川氎系に遺䜓が流れ着くかも」ずカルトは垭に戻る。

「そこたで分かったなら、人でダムを芋おこい」ず氎熊は指瀺を飛ばす。

「お前が行けよ」

「䜙は四谷家に案件を任せた」

「だったら、カルトだけが行け」

「かよわい女子を六甲山に行かせるの 䞀緒に来およ」ずカルトはモゞモゞした。

「今、䜕時だず思っおいるんだ」

「午埌時ね。今から青野ダムに向かうず、倕方になっちゃうわ」

「文句を垂れるなら、このたた雚を降らせお措氎を起こすなり」

「分かったよ、さっさず向かおう」

 僕は措氎から䞖界を救うために、人で個宀を出た。ちなみに、今回はカルトの䟝頌ずいう事もあり、圌女が䌚蚈をしおくれた。だから、そそくさず僕はヘブンスを出る。
 するず、店の゚ントランスでフェアリヌプリンセスず鉢合わせた。どうやら勀務明けのようだ。
 フェアリヌプリンセス――たぶん女子倧孊生、センチの掚定カップ、アニメ声。
 黒いセミロングず玫のカラコンが特城的。
 ピンクのキャミ゜ヌルは胞元がズバッず開いおおり、それに茶色のハむり゚ストスカヌトを合わせおいる。

「フェアリヌプリンセスも垰るのか」

「ちっ、話しかけんなよ」ずフェアリヌプリンセスは舌打ちをした。

「党然キャラが違う」

「圓たり前だろ、コンセプトカフェなんだから」

 フェアリヌプリンセスは煙草に火を぀ける。銘柄はトロピカルスプラッシュで、どこか甘みのあるパむナップルの銙りがした。

「蚀われれば、そうか」

「そこを退け。今から圌ピず歊庫川でデヌトなんだ」

「歊庫川なんお芋る堎所もないぞ」

「サクラ流しがあるだろ」

「サクラ流し」

「知らないのか、この蟺りでは春に桜を流すらしい」

「僕は関西に䜏んで長いけど、そんな催し物を聞いた事はない」

「お前の知芋が浅いだけよ」

 フェアリヌプリンセスは、僕の右肩にカバンをぶ぀けるず、謝りもせずに角を曲がった。タバコの癜い煙だけを残しお。
 䞀方、僕が道路で転んでいるず、カルトず氎熊が退店しおきた。
「お埅たせ、䌚蚈は終わったわ」ずカルトが店から出おくる。

「むテテテテ」

「なぜか圌は痛そうなり」

「さっきフェアリヌプリンセスが圓たっおきたんだ。しかも、毒舌でタバコたで吞っおいた」

「嘘は良いから、はやく歊庫川に行くわよ」ずカルトが歩き出した。

 たず、僕らは倧阪梅田から阪急宝塚線の急行に乗った。
 最初、車窓は阪神梅田の地䞋だった。どこたでも続く暗闇の䞭に、コンクリヌトの柱が珟れおは消えおいった。やがお地䞊に出るず、コンクリヌトゞャングルの埌ろで曇倩が広がっおいた。
 そんな景色を分も芋れば、駅を超えお宝塚駅に着く。そこから犏知山線の篠山口行きに乗り、駅先の䞉田駅に乗り換える。
 あれだけ灰色だった空は、い぀の間にか、アむスオレンゞコヌヒヌみたいになっおいた。灰色の雲が倕陜のオレンゞに染たる䞭、車窓の景色も田園颚景ずなり、高局ビルは䞀軒家や森林に倉わる。

「ゆゆしき景色なり」ず氎熊は窓に匵り぀く。

「長閑で良い堎所ね」

「亀通の䟿が悪いけどな」

「䜙の故郷を悪く蚀うな。措氎を起こすぞ」

「ごめん。謝るから、雚足を早めるな」

「ふふふっ、本圓に賀茂は口が悪いんだから」

 人で話しおいる間に、僕らは䞉田駅に着く。そこから末東バス停で䞊青野行きのバスに分だけ乗った。
 呚蟺には、いちごファヌムや怎茞蟲園の他に、䜏吉倧瀟などがある。
 やがお蟺境の田舎町に倜が蚪れる。あたかも公挔を終えた劇堎が暗幕を降ろすように、朝から働いた街もたた倜の垳を䞋ろす。地平線に倪陜が沈む瞬間、グリヌンフラッシュが起こる。淡い緑の光を合図に、ゆっくりず空の端から藍色が䟵食する。



・青野ダムでの死闘

 僕らが末東バス停に着く頃には、䞖界から光が消えた。䞀方で、垞人には芋えないが、蛍のような癜いオヌブは無数に浮かぶ。

「随分ず暗くなったわね」ずカルトが傘を差す。

「やはり倜は良いな。䜙の時間なり」

「なんか劖怪が出そうだな」

「あら、通の魔女のくせに、幜霊の類は怖いの」

「悪いか 隠しおいたが、ビビリなんだ」

「だったら、怪異に近づかなければ良いのに」

「誰のせいでダムに来たず思っおんだ あず、単玔に去幎は金が無かったんだ」

 僕は喚きながら、人気のない雚のダムを歩く。
 青野ダムは兵庫県䞉田垂にある重力匏コンクリヌトダムさ。日量トンの甚氎を取氎し、玄トンの氎道甚氎を䟛絊しおいる。
 釣人の聖地ず呌ばれ、フィッシャヌマンがネットで情報を亀換しおいる。最近では、氎劖が自然を汚した人を殺すずか䜕ずかっお怪事件の噂たで曞き蟌たれおいた。
 バス停の近くには、東浊公園のほかに、末吉橋がある。その鉄橋は湖を分断しお、歩行者を青野ダムたで導いおくれる。
 ふず巊偎を芋れば、雄倧なダム湖は倜空を真䌌お、数々の恒星を湖面に閉じ蟌めおいる。たた右偎を芋るず、ものすごい速さで激流が峡谷を削っおいた。

「わっ」ずカルトが奇声を䞊げる。

「ぎゃぁぁぁぁあ」

「ふふふっ、賀茂は驚きすぎよ」

「カルトが驚かすからさ」

「その皋床で悲鳎を䞊げるずは、男が廃りけり」

「氎熊は黙っおいろ。怖いもんは怖いんだ」

「こんなダムに幜霊なんお出ないわよ」

「カルトは知らないのかよ、こういった湖は自殺者が倚いんだぞ」

「その通りけり。ここも数倚の死者が眠る堎所なり」

「だからっお幜霊は出ない  ねぇ、あの茂みが動いおいない」

 カルトが正面を指す。そのホワむトアスパラみたいに现くお綺麗な指先には、揺れ動くツツゞがあった。ただ、その葉の動きは、枝の撓りは、颚によるものではない。たるで車の䞭で暎れたように、茂みも前埌巊右に倧きく揺れおいた。
 バサッ
 倧きな音を立お、䜕かが飛び出す。

「キャヌヌ」ずカルトが僕の胞に飛び蟌む。

「ギィダァァァァア」ず声が出る。

 僕は傘を捚おお、そっずカルトの背䞭に䞡手を回す。震える䜓は抱き枕のように柔らかく、ロヌタスピンクのロングヘアは絹糞みたいに手觊りが良い。仄かなシャンプヌの銙りが錻を楜したせる。
 心臓の錓動が速い。
 臓物が口から飛び出しそうさ。
 その原因は、カルトず密着したせいか、幜霊が出たせいか分からない。ただ、ドクンドクンずいう心音はカルトにたで届きそうだった。
 そんな䞍安をよそに、氎熊は茂みから出た四足歩行の動物ず戯れおいた。

「よしよし、猫は可愛いけり」

「猫」ず二床芋する。

「もしや茂みから珟れたのは猫なの」

「人間ずは愚かなり、単なる猫にビビり散らかすずは」

「はははっ、カルトもビビりじゃねヌか」ず笑いが蟌み䞊げる。

「賀茂だっおチビッたでしょ」

「挏らしおねヌよ。おか、離れろよ」

「あヌあ、こんな頌りない男、こっちから願い䞋げよ」ずカルトが離れた。

「お前から抱き぀いたんだろうがぁぁぁぁあ あず、蚀っおおくが、僕の劖術は匷いからな」

「はいはい、芋栄は切らなくおいいから、二床ず私に觊らないで」

 なぜかカルトは棚に䞊げられ、僕が怒られた。
 しかも、カルトは先陣を切っお青野ダム呚蟺を捜玢しおいる。だから、僕の隣には氎熊が歩いおいる。人ず違っお傘を䜿わないため、びしょ濡れさ。
 だから、僕の傘に入れおやる。぀いでに四谷カルトに぀いお聞くためだ。

「ほら、傘に入れよ」

「別に䜙は濡れおも構わぬ。い぀も川を泳いでいるからな」

「そう蚀うなっお。おかさ、カルトずは長い付き合いなのか」

「䜙は幎あたり生きおいるが、盞談をしたのは床目なり」

「ぞヌ、随分ず長生きだな。なんで劖怪は人であるカルトに盞談する」

「人間は倉に思うであろう。しかし、劖怪も人に぀いお知らぬ事がありけり。ゆえに、四谷家の圓䞻に話を聞く。灜いをもたらす前にな」

「぀たり、カルトは四谷家の圓䞻なのか」

「四谷カルト、圌女は四谷家第代目の圓䞻なり」

「が䞊ぶず䞍吉だな。ずころで、その四谷家ずは䜕だ」

「䜙も詳しくはないが、平安の頃より八咫烏の䞀員ずしお働き、劖怪の盞談に乗る䞀族なり」

「氎熊、話しすぎよ」ずカルトが振り向く。

「すたんな、これ以䞊は䜙も話せぬ」

 カルトに釘を刺されたため、氎熊は口を閉ざした。流れを堰き止めるダムのように。
 そのため、四谷家の謎は闇に包たれた。
 ただ、たしか八咫烏ずいえば、倩皇家を守る陰陜垫であり、今も䞖界を守るために暗躍しおいるず颚の噂で聞いた事がある。
 郜垂䌝説に想いを銳せおいるず、囜道号線に出る。亀通量は少ない。たた、ほが倖灯も無く、右手偎に犏知山線の広野駅があるだけさ。その線路に沿っお、歊庫川が流れおいる。

「ざっず芋たけど、ダムや歊庫川で遺䜓を遺棄すれば、死䜓発芋珟堎たで流れそうね」

「その道䞭で遺䜓も損壊しそうだな」

「぀たり、䜙に眪を着せた犯人は近くにいたなり」

「ただ断定はできないさ。おっず、茂みが揺れおいるぞ」

「フン、どうせ猫でしょ」

 カルトは錻で笑ったが、今回は森党䜓が蠢いおいるように感じた。もちろん、颚の悪戯かもしれない。だが、ビビリの勘が劖怪だず告げる。
 誰もがビビリを笑うだろう。
 だが、僕が怯えおいるのは、近くに劖魔の気配を感じおいるからさ。぀たり、ビビリずは譊戒心の高さを衚しおいるのだ。
 その刹那、森から殺意を感じる。枝が槍のように䌞びおくる。

「危ない」ずカルトを抌し倒す。

「キャッ 䜕をするのよ 二床ず觊らないでっお蚀ったでしょ」

「緊急事態さ、すでに攻撃されおいる」ず茂みに隠れる。

「䜙も感じけり。これは人面暹なり」

「人面暹っお、朚に人の顔があるや぀」

「カルトの蚀う通りなり。森の䞭で人面暹が䜙たちを狙っおいる」

「なんで私たちを襲うのよ」

「逊分にするためさ。あず、あたり隒ぐな。堎所がバレる」ず幹に身を朜める。

「賀茂、䜕か策はないの」

「火行の術《獄炎空所》」

 僕はカルトに蚀われるたでもなく、すでに劖力を緎り䞊げおいた。䞡手の芪指ず人差し指の先端をくっ぀け、小さな茪を䜜る。そこに己の䞭にある生呜゚ネルギヌを埪環させる。するず、指先が熱くなり、やがお茪の䞭に蒌い焔が生たれた。

「賀茂の指が燃えおいるわ」

「これが賀茂家の劖術なり」

「人ずも䞋がれ。森ごず焌く。ふぅヌヌ」

 シャボン玉を䜜るように、僕は茪っかに息を吹き蟌んだ。するず、青癜い炎は空気に抌され、森ぞず広がる。それはたるで満朮が倧地を飲み蟌むように、暗い森が䞀面の青に飲たれる。
 するず、朚々の埌ろで顔がある暹がアチィィィィィず悲鳎を䞊げた。僕の炎は、劖怪しか焌かない。そのため、その本だけがブラックラむトを济びたように青く光った。

「あの暹だけ燃えおいるわ」

「あれこそ人面暹なり」

「火行の術《神文鉄火》」

 僕は烈火をビニヌル傘にたずわせる。打ち立おの刀みたいに赀々ず燃え䞊がる傘を握りしめ、六甲おろしのように森を駆け抜ける。
 もちろん、人面暹も最埌の悪あがきをする。青く燃える枝で僕を狙う。
 しかし、僕は枝を避け、斬り、飛び超え、人面暹の前に立぀。

『マテ、むノチダケハ』

「悪霊に慈悲は䞎えない。臚、兵、闘、者、皆、陣、列、圚、前」

 僕は字切りを唱えながら、暪䞀文字に人面暹を斬った。するず、その倧暹から顔は消え、地面に転ぶ頃には単なる倒朚に戻っおいた。
 やがお降り止たぬ雚が、僕の傘から焔を奪う。

「はい、傘よ」ずカルトが盞合い傘をしおくる。

「あっありがずう」

「よもや、これが賀茂家の実力なり」

「別に、倧した事はないさ」

「もっず誇りなさい。劖魔を祓ったのよ」

「これでも僕は出来損ないらしい」

「これだけ劖術が䜿えるのに」ずカルトは䞍思議そうな顔をした。

「本圓は、もっず䜿えるようだ」

「そもそも、なぜ劖術が䜿えるの」

「あたり話したくないが、僕は賀茂家ず安倍家の子孫さ」

「ふヌん、安賀䞡家の混血っおわけね」

「カルトは䜕気に詳しいよな、陰陜垫の内情に」

「たぁたぁ、同業者だもん。ずころで、安賀䞡家の混血には成功䟋もあるの」

「カルトが四谷家に぀いお説明するなら、僕も双子の兄に぀いお教えおやる」

「だったら、互いに蚀わない方が良いわね」

「人ずも䞖間話を終えよ。この人面暹から䜙が話を聞きにけり」

 氎熊は倒朚を持ち䞊げるず、その朚を噛った。するず、再び朚に顔が戻った。

『ぐぎゃ、我を噛むな』

「氎熊が朚を食べるず、人面暹が生き返ったわ」ずカルトは目が点になる。

「もずもず人面暹は森にいる埡霊が宿ったものさ。だから、魂が霊朚や神朚に戻れば、顔も戻る」

「さよう、単なる死んだふりなり。さお、䜙に森の状況を教えよ」

『なぜ我が協力せねばならぬ』

「抗うなら、もう䞀床、燃やすなり」ず氎熊が朚を差し出す。

「火行の術」ず詠唱を始める。

『埅お、その炎は身悶えるほどに熱い。䜕でも話すから、勘匁しおくれ』

「では、䜙が問おう。最近、この蟺りで怪しい人間はおるか」

『いる』ず人面暹は頷く。

「どんな人なり」

『毎倜、女を入れ替えおは森で遊ぶ男だ』

「いろんな女ず遊ぶ  それは犯人の可胜性があるな」

「賀茂の掚理どおり、を䜕人も連れおいるかもね」

「人面暹、その男に぀いお詳しく話せ」ず氎熊は指瀺する。

『身長はセンチ、歳は前埌、准教授でスヌツ姿。倧孊の単䜍が欲しければ、パパ掻しろ。そんな話を我は聞いた』

「准教授ずか、単䜍ずか、倧孊関係者なのかしら」

「そもそも容姿や女奜きっおずころ、誰かに䌌おいるんだよな」ず匕っかかる。

「人面暹、ご苊劎けり。これで䜙の冀眪も晎らせそうなり」

『いや、氎熊も人を  ギィダァァァァア』

 人面暹が倧切な話をしようずするず、話を遮るように、氎熊は神朚をボッキヌみたいに食べた。䞀䜓、人面暹は䜕を話そうずしたのか
 そんな疑問を消し飛ばすように、埌方で女性の悲鳎が静寂を壊した。そのアニメ声は、さっき聞いた気もする。

「きゃぁぁぁぁあ、誰か助けおぇぇぇぇえ」

「これは䜕事なり」

「あっちから聞こえたわ」ずカルトが東を指す。

「加茂山第公園か」

 僕は青野ダムに続く坂道を駆け䞊る。スマホのラむトだけを頌りに獣道を進む。雚粒が顔に圓たるのが邪魔だった。背䞈の高い雑草をかき分け、光によっお来た蛟を払い、朚材ず土で築かれた段差を登る。
 分埌、肩で息を始めた頃、぀いに開けた堎所に出る。
 加茂山第公園にはトむレず自販機しかなく、ただ駐車堎ず数台の自動車が止たっおいる。そのうちの台、赀いスポヌツカヌで男性が女性の銖を締めおいた。

「あんた隒ぐなや。めっちゃりザいねん」

「ぐっ  ぐるじぃ」ず女子倧孊生が苊しむ。

「䜕をしおいるんだ」

 僕はビニヌル傘を盟のように広げ、䞍審な男性に近づく。車のフロントラむトが逆光ずなり、犯人の顔は芋えない。たた、加茂山第公園は光源が少なく、犯人が僕よりセンチほど䜎く、スヌツ姿である事しか分からない。
 ただ、その男性の容姿は、人面暹の蚌蚀ず䞀臎しおいる。犯人かもしれない、そう思った時、若い男性が聞き芚えのある声で譊告した。その関西匁は、酒焌けしおいた。

「こっち来んなや。女を殺すで」

「埅お、早たるな」

「うっさいねん 近寄るな。お前みたいな留幎生に捕たりたくないねん」

 どうしお僕が留幎した事を知っおいるんだ 頭に『なぜ』を生み出しながら、果敢にも犯人に飛びかかる。
 僕は幜霊は怖い。物理が効かないから。
 でも、人は怖くない。物理が効くから。
 犯人の髪の毛を掎み、そのたた車倖に匕きずり出す。その際、助手垭の女性を芋る。歳前埌のセンチの女性で、キャミが砎れおカップが顕ずなっおいる。
 たるで歩く桜みたい  っお、コむツはフェアリヌプリンセス

「お前、ここで䜕をしおいる」

「さっきの客だわ、その犯人を捕たえお」

「鞄をぶ぀けおおいお、助けお貰おうずするな」

 あの時の肩の痛みを思い出しながら、その怒りを犯人の男に党おぶ぀ける。僕より背が䜎く、僕より幎老いおいる。劖怪を祓える僕が、自分より小さな倉態に負けるはずがない。
 それに子䟛の頃から劖怪退治の蚓緎も受けおいる。ある皋床の䜓術ならば、僕だっお心埗おいるさ。
 若者を舐めんじゃねヌぞ
 そんな思いを拳に乗せお、犯人の男を殎る。巊のゞョブからの右ストレヌト、犯人が態勢を厩した所に右の前蹎りからラリアット。
 月が雚雲に遮られ、加茂山第公園は真っ暗さ。だから、犯人の顔は芋えない。ただ、黒い人圱ず乱闘する。たるでアニメの真っ黒な犯人圹ず戊うようだな。そんな感想を抱きながらも、倒れた男に袈裟固めを決める。犯人が抗うため、時蚈の短針ず長針のように地面を回る。
 やがお犯人が僕の右肩をタップした頃、時を同じくしお、カルトず氎熊が到着した。

「賀茂、意倖ず匷いわね」

「はぁはぁ  䜓力には自信があるのさ」

「其奎が犯人か」ず氎熊が爪を研ぐ。

「埅おや、話せば分かるっちゅうねん」

「黙れ、倉態 どうせ連続氎死事件の犯人なんだろ」

「い぀も賀茂は論理的やないねん。えぇか、蚌拠がないやろ」

「なんで僕の名前を知っおいるんだ おか、蚌拠だっおある。目撃者の蚌蚀ず䜓型が䌌おいる」

「アホやな。そんな人間、倧量におるわ」

「たしかに、犯人の蚀うずおりね。でも、車に蚌拠があるんじゃないの」

「やめろ、勝手に觊るな」

 犯人が抵抗したが、僕は絞め技を匷める。その隙に、カルトは赀いスポヌツヌカヌのダッシュボヌドを開き、埌郚座垭を觊り、埌ろのトランクたで探した。
 するず、カルトは数枚のカヌドを芋぀けた。

「これは䜕のカヌドかしら」

「知らんがな、ゎミ拟いをしおいた時に拟ったんや」

「ちょっず街灯で照らすわね  ふヌん、暁颚倏ず日高心晎の免蚱蚌ね。他にも人分の身分蚌明曞があるわ。麊山穂銙の分だけないけど」

「おいおい、どうしお車に被害者の私物があるんだ」

「だから、拟ったんやお」

「どうせスマホにも動画があるんだろ」

「蚀いがかりや。譊察ごっこも倧抂にしろ」

「もう良いなり。䜙の名誉を傷぀けたのなら、䞇死に倀する。死ね」

 その光景を僕は死ぬたで忘れられないだろう。
 ずっず降っおいた雚が、氎熊の号什぀で収斂しおいく。最初は小粒の氎滎だったのに、数秒埌にはホヌスから出る氎量になる。その氎が滝行みたいに犯人を襲う。犯人が「グガガガガ」ず溺れる。
 顔は芋えないが、苊悶の衚情を浮かべおいる事は容易に想像できた。
 そんな拷問の最䞭、信じられないこずに加茂山第公園のみ雚が止んでいた。

「氎熊、止たれ。犯人を殺すな」

「なぜだ 䜙を貶めた眪は償わなければならぬ」

「たしかに、犯眪者は裁かれるべきさ。でも、それは法によっおのみ行われる必芁がある。フェアリヌプリンセスぞの暎行で逮捕しお、譊察に䜙眪を远求しおもらおう」

「ならぬ、劖魔が䟮られたならば、劖魔が裁くべきなり」

「ここは人間の䞖界さ。犯人も人なんだ。だから、人類に刀断を任せおくれ。それに裁刀を報道した方が真実は囜民に䌝わりやすい」

「氎熊、私からも頌むわ。人を信じお。必ずや譊察が真実を癜日の䞋に晒すから」ずカルトも説埗する。

「人は信じられぬ。だが、犯人を突き止めた人の声なら、聞いおやっおも良いなり」

「「ありがずう」」

「ただし、䞍圓な刀断があれば、その時は䜙が審刀を䞋す」

「぀たり、この犯人を溺死させるのね。党然、問題ないわ」

「たぶんカルトは間違っおいるぞ。おそらく措氎を起こすのさ」

「さよう、連続氎死事件の誀解が解けなかった際には、誀った䞖界を氎で流す」

「分かったわ、地球の呜運をかけお犯人を裁くわね」

「ずんでもない事になったが、これにお䞀件萜着だな。氎熊、カルトの呪いを解いおくれ」

「良かろう  雚よ、止め」

 それは䞍思議な光景だった。
 氎熊が合唱しながら倩を拝むず、あれだけ分厚かった雚雲が消えお、月光の柱が次々ず地䞊を照らした。あたりの明るさに、倜にもかかわらず虹たで星空に架かっおいる。
 そしお、その柔らかな癜光が僕らを照らす時、月光が真実を照らす。スポットラむトを济びたように、犯人の顔が浮かび䞊がった。その顔を芋お、僕ずカルトは息ぎったりに叫んでしたう。

「「お前は青山毅」」

「チッ、バレおしもうたか」

 青山毅は無気力になった。
 青山毅――歳の倧孊准教授、センチ、右利きの酒焌けした声。黒髪の短髪、県鏡をかけたガリ勉タむプ。い぀もず同じ黒いスヌツを着おいる。
 ずころで、冒頭の話は芚えおいるだろうか
 たぁ、僕が留幎した話など忘れおいるず思う。だから、おさらいするが、僕は『脳科孊ずむンタヌネット』なる課目を萜ずした。その担任こそ青山毅なのさ。

「テメェ、青野ダムで䜕をやっおいるんだよ」ず青山毅の胞ぐらを掎む。

「そこの可愛い子ずサクラ流しを芋に来たんや」

「ねヌよ、サクラ流しなんお。そうか、教員だから、僕の名前を知っおいたのか」ず閃く。

「せやで、たさか教え子に捕たるずはな」

「青山先生、私は倱望したわ。すでに譊察には通報したから、真実を話しお䞋さい」

 そんなカルトの蚀葉は、青山准教授には届かなかったようだ。圌は無蚀で月を眺めるだけさ。
 それから分ほどしお、名の制服譊官が到着した。よく分からないが、僕がフェアリヌプリンセスを暎行した犯人を珟行犯逮捕した事にするらしい。ただ、これは別件逮捕であり、被害者の免蚱蚌などを理由に連続氎死事件の捜査もするようだ。
 こうしお青山准教授はパトカヌに連行された。
 再び青野ダムに静寂が戻るず思われたが、フェアリヌプリンセスが僕に話しかけおきた。
 ここはヘブンスでもないのに、土䞋座をしながら。

「私の本名は姫乃矎姫ず申したす。この床は呜を救っおいただき、本圓にありがずうございたした。賀茂様は呜の恩人です」

「今さら謝られおも、店先で鞄を圓おられた事は蚱せない」

「やっぱダメか。ただ、マゞで感謝しおいる。これくらいの瀌はさせお」

 いきなり姫乃矎姫は顔を近づけるず、チュッず僕の右頬に唇を圓おた。わずか秒の出来事だが、その唇の柔らかさは肌に刻たれ、心地よいリップ音は耳に残る。たた、ノァニララストの銙氎は錻にこびり぀いお離れない。
 頑䞈な檻にいれたはずの心は、芋事に姫乃矎姫に奪われおしたう。
 そんな事を知っおか知らずか、姫乃矎姫は顔を離すず、こう小声で告げる。

「もっず耒矎が欲しければ、頌んでも良いよ。キスくらいなら、できるから」

「えっ、いや  あの、遠慮しおおくよ」

「あらあら、童垝みたいな反応ね」ず姫乃矎姫は僕の錻を撫でる。

「そこたでよ、賀茂は私のパヌトナヌだから、手を出さないで」ずカルトが俺の右腕に抱き぀く。

「あら、圌女がいたの。ごめんなさい」

「いいや、カルトは圌女ではない」

「賀茂の蚀うずおり、私ず圌はビゞネスパヌトナヌよ」

「いや、ビゞネスパヌトナヌでもないだろ」

「いいえ、これから賀茂は四谷家の問題を解決しお」

 䜕だよ、それ  僕にはメリットがないだろ。
 なんお思い、カルトの申し出を断った。しかし、圌女はし぀こくお、䜕床も僕に劖怪の䟝頌を持ち蟌んでくる。こうしお僕は留幎した事に懲りず、たた通の魔女になっおしたうのさ。
 なお、僕ずカルトは口を閉ざしたが、姫乃矎姫だけが熊みたいな少女を芋たず蚌蚀した。しかし、譊察が防犯カメラを芋おも、そんな女性はいなかったらしい。
 おか、空が晎れおから氎熊の姿を芋た蚘憶がない。それはたるで最初からいなかったように。
 さお、これが僕ずカルトの最初の事件、連続氎死事件の真盞  いや、埅およ。なぜ青山准教授は麊山穂銙の免蚱蚌を持っおいなかったのだろうか
 単に最初の事件だから、免蚱蚌を持ち垰らなかったのか
 もしくは蚌拠隠滅のために、麊山穂銙の免蚱蚌だけを捚おたのか
 だずしたら、他の人の物蚌を残すのは倉だ。
 もしや事件には隠された真実があるのではないか。そんな疑問を思い浮かべ、今たでの経緯も加味した時、僕は぀の仮説に蟿り着くのであった。そう、連続氎死事件ずは真盞を隠すためのカモフラヌゞュにすぎないのさ。
 すでに皆も気づいおいるず思うが  。



ここから先は重倧なネタバレを含みたす。ここたで読んだ人だけが芋られるように、目次にも衚瀺されおいたせん。この先を読たずに、もう䞀床、掚理する楜しみも残しおありたす















・連続氎死事件の真盞

 ――数日埌、西日本倧孊の倧教宀。
 青山准教授の逮捕によっお、孊内は隒然ずしおいた。あの倉態、マゞで捕たったんだっお。
 教宀には孊生が倚く、ガダガダしおいる。人の声は驚いおいるが、その内容たでは分からない。そのためか、カルトも倧きな声で、連続氎死事件の゚ピロヌグを語り始めた。
 たぁ、誰も気に留めないから、話を遮る必芁もないだろ。

「それで青山准教授はれミ生を殺したんだっお」

「たさか点数が足りない生埒に猥耻な行為を芁求しおいたずはな。おか、姫乃矎姫も同じ倧孊の回生なんだな」

「本圓に蚱せない、氎熊に食べさせれば良かったわ」

「怖い事を蚀うなよ。ずころで、確認したい事があるんだが」

「胞は揉たせないわよ、ただ完党に氎熊の呪いが解けたわけではないからね」

「そっちの話じゃねヌよ、こっちさ」

 僕は照れながらも、青山准教授が逮捕されたずいう芋出しの蚘事を取り出す。その玙面をカルトに芋せながら、真実の確認をしなければならない。
 なぜなら青山准教授の䟛述は事実ず異なっおいるのだから。

「この蚘事に䜕かあるの」

「僕に尋ねるな。最初から知っおいたな」

「だから、私が䜕を知っおいたず蚀うの」

「あの人は党お青山准教授が殺したわけじゃないんだろ。朚を隠すなら森の䞭、殺人事件を隠すなら殺人事件の䞭っおわけさ」ず確信に迫る。

「そんなはず無いわ。あれは党お青山准教授の犯行よ」ずカルトは目を合わせない。

「そう蚀えっお氎熊に脅されおいるな」

「そそそっそんな事はないわ。ただ、四谷家第代圓䞻ずしお職務をこなしおいるだけよ」

「その職務ずは、劖怪の冀眪を晎らすのではなく、劖怪の悪事を人間に被せおいるのではないか」

「䜕を根拠にデマカセを蚀うの」

「デマではない。いいか、青山准教授は麊山穂銙の殺害だけ吊定しおいる」ず該圓郚分の文章をなぞる。

「ふヌん、そうなんだ」

「カルトも青山准教授の犯行じゃないっお知っおいるよな」

「なななっ䜕も知らないわよ。おか、青山准教授が犯人じゃないなら、誰が麊山穂銙を殺したの」

「蚀っお良いのか」

「ダメ、措氎が起こるわ」ずカルトは芖線を向ける。

「だよな。おか、やっぱり犯人を知っおいたんだな」

「はいはい、分かったわよ。そうよ、四谷家は劖怪の事件を揉み消しおいるの」

「そんな事が蚱されるのか」

「もちろん、ダメよ。ただ、濡れ衣を着せるのは、垞に犯眪者にしおいるわ。それに劖怪の願いを叶えるこずで、日本を灜害から守っおいるのよ」

「だからっお眪を着せお良いわけないだろ」

「じゃあ、措氎で街が沈んでも良いの 氞久に倧地が凍結しおも良いの 火山が噎火しお日本が぀に割れおも良いの」

「そんな酷い倩灜が起きるのかよ。たるでセカむ系だな」

「䞀床しか蚀わないから、よく聞いお。劖怪による厄灜から人を守る、それが四谷家の䜿呜なのよ」

 カルトから四谷家の秘密を聞いた。
 どうやら四谷家は、代々、圓䞻が劖怪ず察話をしお怪奇事件を隠蔜しおいるらしい。だが、その䟝頌に倱敗するず、圓䞻は呪われ、日本に灜害の危機が生じるようだ。
 なかば半信半疑だが、カルトが蚀うには、過去の倧震灜や接波や台颚などは劖怪によるものみたいさ。
 やはり噂ずは圓おにならない。
 ほがほが間違っおいる、幟぀かの䟋倖を陀いおは。

「その話は虚蚀だず思うが」

「虚蚀ず思うな、信じおよ」

「無理。それより事件の真盞だけ確かめさせおくれ」

「いいけど、犯人には觊れないでね」

「分かっおいるさ、措氎が起こるんだろ。さお、犯人の青山准教授は䞍思議な蚌蚀をしおいる。殺したのは、人だけだず。事件の前にネットで怪事件を知り、同じ方法で殺害したず」

「぀たり、䜕が蚀いたいの」

「おそらく麊山穂銙は゜ロキャンプ䞭に山を汚し、䜕者かに呪い殺された」

「なかなか良い掚理ね」

「その様子を釣人が芋おいお、ネットに曞き蟌んだ」

 カルトに匿名掲瀺板のコピヌを芋せる。そのサむトには『有野川に女性が匕きずり蟌たれる所を芋た』ず曞いおある。

「よく調べたわね」

「青野ダムの呚蟺は、釣りのスポットだからな。釣人のサむトに曞いおあった。で、その噂を知り、青山准教授は利甚した」

「劖怪に眪を着せるなんお最䜎よね。自分の犯行を氎魔のせいにしたのよ」

「劖怪の犯眪を人のせいにした人間が蚀うな」

「ちなみに、犯人の目星は぀いおいるの」

「圓たり前だろ。自然を汚すこずを嫌い、幎に人だけ襲い、しかも内蔵を食いちぎる奎は人しか知らない」

「たしかに、ヘブンスっお店でも豪快に肉を囓っおいたものね」

「そもそも魚は内臓を食い砎れない。あず、麊山穂銙の死因に詳しいのも、自分がやった堎合なら玍埗できる。それに芚えおいるか知らないが、人面暹が真実を話そうずしたら、その堎で口封じをされた」

「ただ、それは憶枬よね。物蚌がないわ」

「物蚌もあるさ。犯人は麊山穂銙を殺した埌で、圌女のスマホを奪った。そのスマホには、キャンプにた぀わる物が付いおいた可胜性が高い。぀たり、そのスマホを持ち去った犯人は氎  」

「それ以䞊、この事件を蚀及するず歊庫川氎系が氟濫するわよ」

「やっぱり麊山穂銙の事件は  いや、䜕でもない。それを青山准教授が暡倣したんだな」ず犯人には觊れない。

「それが正しい掚理ずしお、麊山穂銙はバヌベキュヌで川を汚したらしいわ」

「それがトリガヌかよ」ず唖然ずする。

「自分から犍の皮を撒いたのよ。それが収穫されお、䜕が問題なの」

「随分ず怖い意芋だな」

「死にたくなければ、劖怪も神も敬うべきよ。さお、本題ね。実は、私は劖怪専門の盞談圹をやっおいるのだけど、賀茂をサポヌタヌにしたいの。どうかな」

「もちろん、断る」ず銖を巊右に高速で振る。

「なんでよ」ずカルトは意倖そうな顔をした。

「留幎しちたうだろうがぁぁぁぁあ」

「勉匷は教えるわよ」

「勉匷だけ教えろ」

「嫌よ、家柄のせいで、劖怪の無理難題を解決しなきゃ呪われるんだから」

 こうしお僕は、劖怪の犯眪をもみ消す四谷カルトず出䌚っおしたった。せっかく通の魔女を蟞められそうだったのに、たた振り出しに戻りそうさ。二床ず留幎はしたくないのに。
 もう僕にずっちゃ四谷カルトが呪いみたいなもんじゃね









タグたずめ
#創䜜倧賞2024
#ホラヌ小説郚門
#小説
#ショヌトショヌト
#ラむトノベル
#ホラヌ
#ミステリヌ
#セカむ系
#愛倢ラノベ
#短線小説
#読み切り短線


この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか