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「地雷女の自来也さんと別れたい」第1部・第3話|愛夢ラノベP|【#創作大賞2024、#漫画原作部門】

第1部 地雷女の自来也さんと別れたい
第3話 縁結びの神様


「ここはどこだ?」と周囲を見回す。

 また、入学式に戻ると思ったが、想定外の空間にいた。
 信じられないが、空には銀河があった。宝石を散りばめたような星空には、無数の星座だけではなく、天女が零した一筋の涙みたいに天の川まで流れた。
 月が昇れば、日が沈む。
 日が昇れば、月が沈む。
 月と太陽が流転する空間で巡る星々のように、頭の中もクルクルと回って混乱した。
 空に浮かぶ水泡には、無数の世界が映る。足元には、時計の羅針盤のような床が黄金に煌めく。その円状の床から、金色に光る数本の回廊が放物線状に広がる。
 その時、一筋の彗星が夜空を横断する。
 一時的に星座を分断する。
 その星座を辿ると、目の前にモミの木があった。その木は、自来也に告白した時にもあったクリスマスツリーである。装飾された木の前には、1人の妖精が浮いていた。手のひらサイズの彼女が口を開く。

「ようこそ、輪廻の間へ」

「輪廻の間って何だ?」

「死者の御霊が訪れ、新たな魂となる場所じゃ」

「理解が追いつかない。そもそも、お前は誰だ?」

「妾は縁結びの妖精、恋愛を司る第8妖精じゃ」

 縁結びの妖精――紫色の羽の生えた妖精、体長は約30センチ、クリアボイス。
 五芒星のような金髪に、満月のように輝く瞳、整った顔立ちの可愛い女の子。夜闇を切り裂く月光みたいな黄色いワンショルダー・ラップワンピースを着こなす。

「俺は死んだはず。なぜ妖精が現れる?」

「たしかに、お主は死んだ。だから、この場所に呼んだのじゃ」

「縁結びの妖精が何の用だ?」

「まさか妾を忘れたのか?」

「忘れるも何も初対面だろ」

「いいや、去年の聖夜、妾の前で告白したじゃろ」

「もしかして自来也へのプロポーズか?」

「さよう、お主の恋を成就させたのは妾じゃ」と妖精は頷く。

「あれは俺の熱意が自来也に通じたんだろ」

「たわけ者! 恋愛の妖精が認めなければ、恋など成り立たぬ」

「よく分からんが、恋人の聖地って噂は本当なんだな」

「さよう、妾が恋人を決めておる」と妖精は胸を張る。

「だったら、俺と自来也の仲が悪いのも縁結びの妖精のせいだろ!」

「何を抜かすか! お主の努力不足じゃ」

「俺は自来也を愛した。だが、アイツは嫉妬深くて、疑い深くて、とにかく愛が重い」

「その愛情を受け止められぬ己を恥じよ」

「いいや、恋愛の妖精が誤診したから、不幸なカップルが生まれたんだ。この無能が!」

「なっなぜ妾が無能と分かった。こう見えて、無遅刻無欠席なのに」

「それ、社会人なら当然だぞ」

「クズに言われたくない。妾は皆とコミュニケーションも取れるのじゃ」

「同僚と話せない奴の方が少ないぞ。もっと凄い成績はないのか?」

「えーと、えーと……魔法を使えるぞ」

「信じられない。今、見せろ」

「それは無理じゃ。妖精規約で厳格に規制されておる」

「それじゃ、証明にならないだろ? 階級とか過去の成果とか、他にないのか?」

「それで良いのじゃな。ならば、一度も恋愛を成就させていないが、妾は最上級の第1妖精じゃ」

「さっき第8妖精って名乗ったよな?」

「そっそうだっけ?」と妖精は知らばっくれる。

「なんか嘘っぽいな。目が捕れたての魚みたいに泳いでいるぞ」

「とにかく、妾の話は関係ない」と妖精は話を変える。

「たしかに、ここに俺が呼ばれた理由が大切だな」

「その通りじゃ。実は、お主に頼みがある」

「なぜ俺が妖精の願いを叶えなきゃいけないんだ」

「最後まで聞け。悪い話ではない。実は、妾は自来也との恋が成就するように助けておる」

「どうやって?」

「失敗する前に戻しておる」

「さっき俺が過去に戻ったのも、お前の仕業かあぁぁぁぁあ!」

「さよう、やり直させた」と妖精は俺の周りを回る。

「なぜ俺を過去に戻す?」

「自来也と結婚させるためじゃ」

「余計な事をするなぁぁぁぁあ!」

「いきなり大声で叫ぶな」と妖精は耳を塞ぐ。

「お前のせいで、俺は苦しい思いをしているんだ。部外者は黙っていろ」

「これが黙っていられるか! 良いか、お主のせいで、妾の評判は下がっておる」

「身に覚えもない」

「お主に無くとも、自来也にはある。彼女がSNSで情報を拡散するたびに、妾の評価が下がっておる」

 縁結びの妖精は水泡を取り寄せる。そこに自来也のアカウントが表示され、噂を否定する投稿が映る。凄いスキとリレポートの数だ。

『あのモミの木の前で告白されたけど、全く恋愛は成就しない。あの噂は嘘ね』

「この書き込みが問題なのか?」

「よく聞け。この投稿のせいで、信憑性がなくなり、妾の権威や信仰が削がれた」

「その程度で俺を呼ぶな」

「その程度じゃと……信仰心がなければ、妖精は消えるのじゃ」

「という事は、自来也のせいで、お前は消滅するのか?」

「やっと事態に気がついたようじゃな。お主たちが結ばれなければ、妾は死ぬ」

「つまり、お前と俺は一蓮托生なんだな」

「その通りじゃ。それなのに、お主たちは浮気と殺人ばかり。これじゃ、縁結びの名が廃れる」

「そう言われても、俺は自来也と別れたい」

「妾は自来也と結婚させたい。そこで、2人が結ばれるまで、お主を生き返らせる事にしたのじゃ」

「なんだってーーーー!」

「これで自来也と幸せになれるじゃろ」

「お節介は止めろ」

「そう言わずに、妾のため……いや、お主の未来と自来也のためにも結婚せよ」

「今、明らかに私利私欲だったぞ」

「妖精たるもの、いついかなる時も自己の利益に目が眩んではダメなのじゃ」

「そこまで妖精が頼むなら、自来也と結婚してやる」と演技する。

「これで妾は死なぬ」と妖精はガッツポーズをした。

「やっぱり俺には何のメリットもないだろ」

「いーーや、容姿端麗の自来也と結婚できる」

「俺は自来也と別れたいんだ。あんな凶暴な悪魔とは付き合えない」

「そこを頼む。妾のため、いや、お主のために自来也と付き合ってくれ」と妖精が頭を下げる。

「完全に妖精のためじゃねぇーーか!」

「あんな美人と付き合えるんじゃ。幸せじゃろ」

「性格が終わってんだよ。別れさせてくれ」

「妾に死ねと言うのか? 嫌じゃ! 嫌じゃ!」

「お前の生死なんて知らねーよ。俺は自来也と別れる」

「この人でなし! この通り、自来也と結婚せよ」と妖精が俺を拝む。

「俺こそ頼む。別れさせてくれ」と土下座する。

「それじゃ、妾の評価が下がる。何が何でも付き合ってくれ」と妖精も額を擦る。

「だから、あんなメンヘラとは付き合えない」

「それでは妾が消滅すると言っておろうがあぁぁぁあ!」

「あんな暴力女とは縁を切りたいって言ってんだよおぉぉぉぉお!」

「それを縁結びの妖精に言われてもな」

「せめてタイムリープをさせるな」

「ならば、ここで死ぬのじゃな?」

「はぁ?」と顔を上げる。

「お主は既に死んだ。ここでタイムリープを止めたら、その死は確定する」

「それは嫌だ。俺は童貞を捨てていないし、明るい未来があるかもしれない」

「そうじゃろうな。そこで妾から提案がある。自来也と結ばれよ」

「俺に永遠の苦しみを与えるつもりだな」

「それは違う。戻せる時間は有限じゃ。戻った時点より前には戻れぬ」

「どういう意味だ?」

「たとえば、3月9日に戻れば、それより以前には戻れぬ」

「という事は、入学式より前には戻れないのか?」

「さよう、お主の最期は近いのじゃ。だから妾は、お主と話したかった」

「その話が本当なら、俺は何回も死んでいないか?」

「実は、お主は10万584回も亡くなり、すでに1回しか時間は戻せぬ」

「だから、死因や嫌な記憶があったのか。いや、待てよ。次が最期のタイムリープなのか?」

「厳密には、生きる時間が伸びれば、タイムリープの期間も伸びる」

「だとしたら、俺は何をすれば良いんだ?」

「簡単じゃ。とりあえず、別れさせ屋と結託して、入学式を生き延びよ。さすれば、時間的な余裕ができる」

「なるほど、そうやって戻れる時間を増やすのか」

「あとは、自来也を幸せにせよ」

「って、俺は自来也と別れたいんだ」

「だったら、時間を稼いでから、自来也を説得せよ。それで2人ともハッピーエンドじゃ」

 と話を終えた時、俺の周囲を白くて小さい光が回る。やがて卵の殻みたいになる。その殻が割れると、俺は体育館裏に戻されていた。
 こちらにモカが近寄ってくる。
 もう取るべき行動は分かっていた。
 俺はモカから逃げ出した。もちろん、彼女は追ってくる――自来也と別れさせるために。
 これは俺が地雷女の自来也と別れようとする物語であり、それを縁結びの妖精が妨害するタイムリープ系ホラーラブコメでもある。

(3593字)












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