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知らないうどん

つるんと柔らかい中にもコシがある。それが私のなかのうどんだった。職人が麺をこね、太めに切るのを「柔らかそうだね」「やってみたくない?」なんて言いながら、列に並ぶ。

サークルの昼食。新人としての私は人見知りを十分に発揮しながら、取材かのように質問攻撃。同じ席に五人は座れず、じゃんけんで別れることに。同じく二年で新人のJさんと重なった。一つ年上のJさんと、たわいもない話ができるようになっても、うどんのモニモニ感に視線が移ってしまう。お出汁の香ばしい香りがして、席へ案内された。

着席と同時に運ばれてきたのは、ザルに乗ったゴツゴツとした麺。流木のようなイカついフォルムに、驚きつつも、薬味をどっさり入れたつけ汁に落とす。どう口に入れるのが正解か、何度も口をぱくぱくさせながら、勢いよく顔から向かい入れた。「うどんは吸って飲み込むものだ」と言った祖父も、東京のうどんには驚くだろう。これはうどんなのか。

「ね、東京のうどんってこんな感じ?」新しい出会いに興奮し、疲れたあごを気にしながら、何度も聞いてその度、「ここがそういう感じなんですね。へえ」なんて言って、また頬張る。あまりに重量の多いので、半分ほど食べてもらうことになった。朝を抜いたという彼は、ゾゾっと太い麺を啜り、あっという間に完食してくれた。

気になって、電車の中で、
東京 麺 太い
と調べてみた。出てきたのは武蔵野うどん。ドラマの中で登場人物たちが食べていて、ガシガシという表現されていたのを思い出した。東京には、何も無いから。そう言って笑う東京出身の人は多いけれど、地方から来てみた者からしたら、ソウルフードだと感じる。あの噛みごごちクセになる。あごが、あの動き、力を覚えていて、ぼうっとしていたら、あごの筋肉を動かしたくなっている。あの美味しさ、強さ、きっと数日後に。

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