新年の抱負に変えさせていただきます。

そういえば。

もしかするとこの神社に行くのは、一旦今年で最後かもしれない。

田舎の祖父母の家への道中で寄ることにした神社へ向かう父の車の中でふと思う。

元日は毎年母方の祖父母、今はもう祖母、の家にいる。父方の方には元旦と言わずにもうずっと、行っていない。母方の方に行くのも祖母が歳になったのと……その他諸々の事情で最近は日帰りで済ませている。そもそもこちらとしても密かに年々億劫になってきていた。小さい頃から楽しみだったおせち料理は注文品がほとんどになってしまったし、携帯の電波も悪いから暇つぶしに困るし。何より母親たちが毎年毎年、近所か身内への似たような悪口と昔のいざこざの話か、私ら孫の将来の話ばかりしてて、聞くのがだるい。大勢に胸を張れるような人間には、私はもうなれねぇよ。

それでも近くのあの神社に行くのだけはずっと好きだった。調べてもすぐ忘れてしまうようなよくわからない名前の神様を祀る静かな神社に過ぎないのだけど。元日をここで過ごすにあたり必然と一番最初に行く神社と二十数年なっていたから、愛着も湧くものだ。

まだ心残りはある。それらをどこまで残酷に、汚く自分が振り払えるのかはわからない。
だが、願望としてはそうでありたい。

私の意地が完全勝利すれば。
この神社でお参りするのは、今年が最後だ。


駐車場に車を止めて、ちょっと遠回りしてしっかり最初の鳥居からくぐる。
コロナ対策だろう、手水の柄杓はなく、参拝者の名前を記帳する台にも、今年は帳簿の代わりに消毒液が置かれていた。あの記帳も自分の家族が行く神社の中では此処しかないもので、気に入ってたのだけど。母の達筆な筆ペン字を見るのが好きだった。今年が最後かもしれないのなら、下手くそな字でもじっくりと名を記したかったな。

神社とか特別な場所に行った時のおみやげとかに使うために、小銭は普段綺麗なものを使わないようにしている。そのとっておきを財布から取り出す。多めの額を奉納しておいた。両手でからから鐘を鳴らし(この後妹は片手で適当に振るのだから驚く)、いつか見たバラエティ番組で習った作法を元に、二礼、目を閉じ左手を少し上にずらして二拍。

もしかすると、もしかすると今年が最後かもしれません。ありがとうございました。もしかすると、ですからね。これで来年のこのこ現れても笑わないでくださいね。ははは。
……あなたが私以外に初めて、私の今後向かいたい場所を知る人です。見たこともない私よりも前に向き合うべき人がいるだろって? 知ってるでしょ私の臆病は。
よろしくお願いします。

いつもより長めに、丹念に拝む。目を開けて手を解くと家族は既に姿勢を戻していた。一礼。

ちょうど、本殿の奥で宮司さんが太鼓を鳴らし始めた。他の参拝客に向けてのものだったけど、おおっ、と思う。これはもしかして今年を期待してもいいかもしれない、なんて。どきどきしながらおみくじを引くことにする。これもとっておきの十円玉を五枚。おみくじも此処のを毎年引いてきた。太鼓にちょっと合わせたつもりで箱から一つ取り出す。

本殿から離れる時、お巡りさんとすれ違う。見回りのついでにお参りに来たのだろうか。おはようございます、と挨拶をしてくれた。やさしそうな人だった。今の自分の高揚感も相まって自然と気合の強めの挨拶を返してしまってちょっと照れ臭くなる。

母と妹は既におみくじを開いていてどちらも末吉で落胆していた。「なんであんたらそんなに運悪いん」と笑いながら、さて私は。
中吉。うん、可もなく不可もなくやな。
微妙な気持ちで各項目を読んでみると、こちらはこちらでツッコミどころがいっぱいだった。願望、急ぐな。学問、早めに決意せよ。矛盾しとるがな。最初の文章を読む。いつかは雪が溶けるように云々からの「今は控えよ」
……えええ。

ひでえわ神様。さっきの私が申し上げたこと真っ向から反対してくれますやん。くだらんぞ、うまくいくわけないだろ、と警告されてます?

否。
いや神様、もしかしてあなたも私のことを好いてるのか? 此処にいようよ、ってか? もう落ち込んじゃうからそういうことにしていい? するね? いやぁ、照れるなぁ。

悪いが神様、私は行くぞ。あんたのことばは親しい友人の一言程度にしか信じない。今年ではないかもしれないが、来年か、そう近いうちに私は、もう私の思うままに進み始めることにする。

あんたも私を生かしたいのなら、どうか黙って見送ってくださいな。


神木の枝の、妹の隣あたりにみくじをくくりにいく。きちんと、均等に気をつけて三つ折りをして。
結ぶのは早々と始めていた妹はやってきた私に
「これ結ぶのが毎回うまくできんのよ」
と言ってくる。
「折り紙のつもりですりゃいいんよ」
と返してやる。
「どうやって」
「ほら、まずここを折るやろ……」
「ほー」
あ、これやといかんわと自分のを折りかけて気づく。結んだ先が幹の方を向いてしまう。外に向けなければ、願いに手を伸ばせるよう。
「ああ、はじめてうまくできたわ」
妹は無事に成功したらしい。私も始めを折り直して、結び目にできるだけきれいな五角形になるようにもう片端を穴に通す。
ほら、これで枝葉になった。

誰にもバレないように「お願いします」と小さく礼をして、神木に背を向けて歩き出す。

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