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映画レビュー『竜とそばかすの姫』(2021)仮想空間の映像と歌に痺れる

仮想空間で歌声を取り戻す

『時をかける少女』(’06)、
『サマーウォーズ』(’09)などで知られる
細田守監督の長編オリジナル作品、
6作目の作品です。

『サマーウォーズ』と同様に、
ネットの仮想空間と現実を交互に
描く作品になっていますが、
『サマーウォーズ』の物語との
直接的なつながりはありません。

主人公のすず(中村佳穂)は、
田舎町の女子高生です。

母親の影響で小さな頃から音楽が大好きで、
自らも作曲を手掛けるほどでした。

ところが、幼い頃に、
事故で母親を亡くしたショックから、
すずは歌を歌うことが
できなくなってしまいます。

ある時、すずは、友達の勧めで、
世界の50億人のユーザーが集う、
超巨大インターネット空間「U」に
参加することになりました。

その仮想空間には、
イヤホンのようなデバイスを装着すると、
入ることができます。

現実の世界と
そっくりな仮想空間がそこにあるのです。

U では、誰もがアバター(分身)を持ち、
いつもの自分とはちょっと違った
自分になれます。

すずは、U の世界で、
「ベル」というアバターになり、
現実の世界でできなくなっていた、
歌を歌うことができました。

長い封印から解かれた
彼女の美しい歌声は、
たちまち聴衆を魅了し、
いちやく時の人となります。

しかし、その正体は誰も知りません。

その正体が平凡で地味な女子高生だとは、
誰も思っていなかったのです。

歌姫の「ベル」と嫌われ者の「竜」

人気の歌姫となったベルは、
U でコンサートを開きます。

ベルの美しい歌声に魅了された
聴衆は大盛り上がりです。

ところが、その最中に、
乱入者がやってきて、
会場は大混乱をきたします。

コンサートは中止になってしまいました。

その乱入者は「竜」という
野獣のような姿のアバターです。

たびたび武道場に現れ、
次々に道場破りをする竜は、
U の中では、忌み嫌われる存在でした。

竜は、U の平和を脅かす存在として、
自警団から追われる身でもありました。

竜には背中に無数のあざがあり、
ベルはそのことが気になって、
彼の正体をつきとめようとします。

仮想空間の映像、歌がすごい!

細田監督のインタビューにもありますが、
本作は『サマーウォーズ』のような
仮想空間の世界観を持ちつつも、
『美女と野獣』にオマージュを捧げた作品です。

そのため、ベルと竜がいかにして、
心を通わせるかが、
物語の大きなポイントとなっています。

なんと言っても、本作の最大の魅力は、
仮想空間・U の世界の描かれ方です。

『サマーウォーズ』も、
OZ(オズ)という仮想空間の映像が
印象的でしたが、
本作はさらにパワーアップした印象です。

OZ が白をベースにした背景だったのに対し、
U は暗い闇をベースにした背景に、
高層ビルのようなオブジェクトが
立ち並ぶ様子が見られます。

この背景がよく動き、
劇場の大きなスクリーンで見ていると、
まるでジェットコースターに
乗っているような気分でした。

そして、本作でキーポイントとして、
挿入される歌の場面が
臨場感たっぷりでした。

楽曲そのものの完成度もさることながら、
映像との相乗効果が素晴らしく、
まるで本物のアーティストのライブを
生で観ているような感覚があるのです。

ストーリーだとか、
特定の場面の設定ではなく、
音楽と映像、そのものに感動させられました。

すず(ベル)の声は、
シンガーソングライターの中村佳穂、
透明感と力強さを兼ね備えた歌声が絶品です。

楽曲は、King Gnu の常田大希が手掛けたもので、
民族音楽、ジャズの要素を含んだサウンドを
壮大なアレンジで聴かせてくれます。

ぜひとも、劇場の豪華な
映像・音響システムで
楽しんでほしい作品です。


【作品情報】
2021年7月15日公開
監督・脚本・原作:細田守
声の出演:中村佳穂
     成田凌
     染谷将太
配給:東宝
上映時間:121分

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