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書籍レビュー『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ(1922)自身の幸福を追い求めた先に

シッダールタ(ブッダ)を
モチーフにした物語

ヘッセはドイツ文学を
代表する作家の一人です。

1946年にはノーベル文学賞も
受賞しています。

彼の代表作の一つ、
『車輪の下』を数年前に読み、
これがなかなかおもしろかったので、
他の作品も読んでみました。

昨年、もう一つの代表作
『デミアン』も読んだのですが、
こちらは心象描写が多く、
私には難しく感じました。

それでも、きっと私でも
読める作品が他にもあるはずと思い、
手にしたのが本作です。

タイトルの「シッダールタ」は、
釈迦(ブッダ)の出家前の
名前とされており、

本作では、その名を借りて、
主人公が「悟りの境地」に
辿り着くまでの過程を
描いています。

ヘッセとインドの接点

ブッダをモチーフにした
創作ではありますが、
一部はインドで伝承されている
ブッダの物語に沿う部分もあり、

実際にインドでは、
今でもよく読まれる作品のようです。

なぜ、ドイツ生まれのヘッセが
インドのブッダのことを描いたのか、
気になって調べてみると、

ヘッセの母はスイス人ですが、
生まれたのはインドだったようです。

その辺のルーツを辿って、
ヘッセの興味の対象として、
ブッダが出てきたのかもしれません。

ヘッセは、実際にインドへも足を運び、
1913年に『インドから』という
手記も発表しています。

私が読んだ新潮社文庫版の解説には、
「自身の体験を投影させた」
というような書き方もされていたので、

ヘッセ自身も、インドで何かしらの
宗教的な体験をしてきたのでしょうね。

自身の幸福を追い求めた先に

物語の舞台は紀元前6世紀のインドで、
家族や友人にも恵まれた主人公、
シッダールタは、

「このままでは
 自分の幸福を満たすことはできない」
と悟り、

一人、沙門(※)の道を歩み出します。

(※沙門(しゃもん):
  質素・禁欲な生活の探究者)

ところが、沙門としての生活にも
「自分を幸福にするものはない」
と考え、今度は「涅槃(※)」に達した、

(※涅槃(ねはん):
  輪廻(りんね。生まれ変わり)から
  解放された状態)

仏陀(ブッダ)なる人物のもとに
教えを請いに行きます。

しかし、ここでも、
シッダールタは師の教えに
納得がいかず、

一人で新たな道を歩んでいくのです。

そうしているうちに、
遊女・カマーラと出会い、
恋に落ち、

事業にも成功するのですが、
それでもシッダールタは
満たされませんでした。

そして、シッダールタは、
そこからも離れ、
川で一人の川渡し(※)と
出会います。

(※川渡し:小舟で人を運ぶ人)

こうして、シッダールタは、
彼と生活をともにし、
自分が求めていたものを
「川」から学ぶのです。

純然たるエンタメ作品ではないので、
こうして話の筋を書いても、
あまり魅力が
伝わらないかもしれません。

むしろ、ストーリーが
どうこうよりも、
本作は文章の詩的な美しさが
何よりもの魅力です。

この時代の海外作品は、
文章が難しいものが多いですが、
本作はそれほど難しくはありません。

しかし、そこに書かれている
内容自体は、奥が深く、

何度読み直しても、
本質を掴むのが
難しいものだと思います。

シッダールタが、
どのようにして「幸福」を見出すのか、
その過程は、
現代に通じる話でもあると思います。


【書籍情報】
発行年:1922年
    (日本語版1925年/
     文庫版(高橋健二訳)1958年)
著者:ヘルマン・ヘッセ
訳者:高橋健二
出版社:新潮社

【著者について】
1877~1962。
ドイツ生まれ。スイス国籍。
1899年、はじめての詩集
『ロマン的な歌』を自費出版。
1946年、ノーベル文学賞、
ゲーテ賞を受賞。

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