見出し画像

映画レビュー『グリーンブック』(2018)お互いの違いを認め合った先に

実話をモチーフにした
白人と黒人の物語

本作は1962年のアメリカであった
実話をモチーフにした作品です。

数年前から本作のことが
気になっていて、

キャデラックの運転席に乗る白人、
後部座席に乗る黒人のジャケットが
印象に残っていました。

運転席の白人男性は、
本作の主人公、
トニー・ヴァレロンガです。
(ヴィゴ・モーテンセン)

イタリア系アメリカ人で、
ニューヨークのナイトクラブで、
用心棒をやっていました。

後部座席の黒人男性は、
ドン"ドクター"シャーリー、
(マハーシャラ・アリ)

ジャマイカ系アメリカ人の
ピアニストです。

トニーはシャーリーの
車の運転手を務めていました。

この二人がなぜ、
長旅を共にすることになったのか、
その経緯は本作の冒頭で
知ることができます。

アメリカ北部と南部の違い

トニーはナイトクラブで、
用心棒を務めていましたが、

そのナイトクラブが
改装工事のため、
長期間、閉鎖されてしまいます。

彼には妻と小さな子どもが
二人いました。

ナイトクラブの閉鎖に伴い、
収入がなくなってしまうため、
新しい仕事を探すことになります。

そこに紹介されたのが、
シャーリーでした。

アメリカ最南部を巡る
コンサートツアーの
運転手兼用心棒として、
トニーが抜擢されたのです。

ここで注意しなくてはならないのは、
当時のアメリカの事情です。

トニーとシャーリーが暮らす
ニューヨークはアメリカの
北部に位置し、

黒人に対する差別は、
まだ緩いものでした。

しかし、彼らがツアーで
周ろうとしていた南部は、
黒人に対する差別が
かなり激しい地域だったのです。

本作で描かれた時代よりも
かなり前の話ですが、
アメリカで南北戦争がありました。
(1861~1865)

その時に、おもな争点となったのも、
黒人に対する考え方の違いです。

北部は工業化が進んでいたため、
黒人奴隷を廃止する方向に
なっていたのですが、

南部は農業中心だったため、
黒人の奴隷制度を
維持したかったんですね。

結局は、北部が勝利を収めて、
アメリカは再び一つの国に
なったわけですが、

本作で描かれている時代は、
まだまだ黒人への差別が
酷い時代でした。

南部では特に、
黒人が入ってはいけない
場所が多く、

白人と黒人が同じバスに
乗ることすらできなかったのです。

そのため、当時の黒人の
移動手段は自動車でした。

車で快適な旅ができるように、
黒人が利用できる施設をガイドした
「グリーンブック」は、
本作のタイトルにもなっています。

こんな時代に、
敢えて、シャーリーは
南部へのコンサートに周りました。

そこには、
彼なりの理由があったのですが、
それはぜひ、本作を観て、
確かめてみてください。

お互いの違いを認め合った先に

トニーも最初から
シャーリーを
慕っていたわけではありません。

なんせ、彼自身も、
黒人を差別しているところが
あったんですね。

ある時、トニーの自宅に
黒人の作業員が来て、
キッチンで何やら作業をしていました。

トニーの妻が彼らに
飲み物を出したのですが、

彼らが帰ったあと、
トニーはそのグラスをゴミ箱へ
捨てています。

シャーリーが
黒人であることを知らずに、
面接に行き、
最初は仕事も断っています。

それでもシャーリーが
トニーのことを見込み、
運転手を務めることを
再び依頼してきたのです。

トニーが渋々、引き受けたのは、
あくまでも、お金のためでした。

シャーリーが、トニーの言い値で
報酬を出すと言ったからです。

旅を共にすることによって、
二人の違いは明白になっていきます。

シャーリーは、
すでに天才ピアニストとして、
一部ではその名を知られており、
その演奏は神がかっていました。

いつもパリッとした衣服に身を包み、
どこへ行っても穏やかで、
上品な佇まいをしています。

一方のトニーは、
いつも下品な言葉遣いで、
気に食わないことがあれば、
相手に殴りかかることすらあるのです。

しかし、そんな対照的な二人も、
お互いに尊敬しあえる面を
見つけていきます。

トニーはシャーリーが
見込んだとおり、
頼りになる用心棒として
活躍します。

なんせ、南部の人種差別は
えげつないものでした。

とても綺麗ごとだけでは、
やっていけない地域なのです。

「人種差別」というと、
ステレオタイプに捉えられがちで、

当時の白人なら
誰もが黒人を差別するもの
と感じがちかもしれません。

しかし、実際には違ったのです。

もちろん、誰もが触れたことのない
異文化の人間と対面するのは、
怖いものです。

そこに無意識の偏見が入ってくるのは、
もはや、人間ならば、
避けることができません。

問題は、いかにそこを乗り越えて、

人種や思想の違いなどを
踏まえたうえで、
相手のことを
認められるかでしょうね。

言葉で言うのは簡単ですが、
これはすごく難しいこと
なのかもしれません。

そこを乗り越えた
二人の話だからこそ、
胸に熱く残るものを
感じました。

映像や音楽も素晴らしく、
そういった点でも、
注目すべき作品です。


【作品情報】
2018年公開(日本公開2019年)
監督:ピーター・ファレリー
脚本:ニック・ヴァレロンガ
   ブライアン・ヘインズ・カリー
   ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン
   マハーシャラ・アリ
   リンダ・カーデリーニ
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
   ギャガ
上映時間:130分

【同じ監督の作品】

【関連記事】

▲この記事を読んだのがきっかけで、
 本作を観ました。
 HOKUTO 9x9さん、ありがとうございます。

この記事が参加している募集

#映画感想文

66,996件

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。