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映画レビュー『カッコーの巣の上で』(1975)言葉では説明しきれない不思議な魅力

常に新鮮な気持ちで観られる

本作をはじめて観たのは
20歳の頃なので、
今から20年も前のことです。

1975年公開の作品なので、
その時点で、
27年も前の作品でした。

そもそも私がいろいろと
古い映画を観ていたせいも
あったかもしれませんが、
古臭さはまったく感じませんでした。

その感覚は今、観ても
まったく変わりません。

『カッコーの巣の上で』は、
常に新鮮な気持ちで
観ることのできる
不思議な作品です。

この映画が、
どうしてそのように
感じられるのか、
理屈はよくわかりません。

話の筋は覚えているはずなのに、
毎回、はじめて観るような
新鮮な感覚を覚えるのです。

本作が名作として、
長く語り継がれている由縁は、
「常に新鮮に感じられる」
という部分も
大きいのかもしれません。

ジャック・ニコルソンの存在感

いつものレビューのように、
本作のストーリーに言及しても、
あまり意味がない気がします。

というのも、本作のストーリーは、
文章で説明しても、
どうということはないからです。

簡単に説明すると、
ある精神病棟があり、
そこへ精神病と偽って、
一人の若者がやってきます。
(ジャック・ニコルソン)

彼は、無菌室のごとく、
徹底管理された病棟の秩序を
次々に破壊していくのです。

やはり、こう説明しても、
どうということはない
ストーリーですね。

かなり緊迫したシーンも多いので、
漫然としたストーリーとまでは
言いません。

しかし、いわゆるハリウッド的な
わかりやすい起承転結のある
作品ではないのです。

先ほど「一人の若者」として
紹介した主人公にしても、
劇中の設定は38歳でした。
(当時のジャック・ニコルソンの
実年齢でもある)

「若者」というには、
歳を取り過ぎています。

DVD のジャケットを
見てもらえば、
一目瞭然だと思いますが、
ルックス的にものすごく男前
というわけでもありません。

でも、間違いなく、
本作のジャック・ニコルソンは
かっこいいんです。

ものすごくかっこよくて、
彼の一挙一動に、渋い声に
多くの観客が惹きつけられます。

私もその一人でした。
(私のジャック・ニコルソン
初体験の作品でもある)

理屈では説明できないような
魅力を持った本作が、
アカデミー賞で5部門を制覇し、
その後も長く語り継がれ、
私のようにリアルタイムではない
世代をも魅了し続けているのです。

これは「映画」という
「表現」を語るうえで、
極めて不思議な現象
と言えるでしょう。

言葉では説明しきれない
不思議な魅力

久方ぶりに本作を観直してみて、
改めて感じたのは、やはり、
主演のジャック・ニコルソンの
演技の素晴らしさです。

今でこそ、ジャック・ニコルソン
といえば、一流の俳優のイメージですが、
この映画が公開される前、
そんなイメージは
希薄だったと思われます。

20代の頃のジャック・ニコルソンは、
B級映画にばかり出演していた
売れない役者でした。

本作に出てくる彼を見ると、
すでに前頭部の毛髪が
後退しはじめています。

「遅咲き」といって
間違いないでしょう。

しかし、その演技の隅々まで
役のマクマーフィーに
なりきっています。

彼がそこに黙って立っているだけで、
物語の気配を感じさせるのです。

むしろ、ジャック・ニコルソンは
下積みが長かったからこそ、

本作がで成功するまで「一流扱い」
されていなかったからこそ、
このような素晴らしい演技が
できたのだと思います。

他の俳優たちも
一癖ある印象的な役者さんが多いです。

説明が長くなってしまうので、
割愛しますが、
のちに多くの有名な映画で
名脇役として大成した
俳優が多く出演しています。

主演のジャック・ニコルソンが
合流する前から、
彼らは撮影に使われた
本物の精神病棟で生活をし、
役作りに励んでいたそうです。

彼らの役への入り込み方も
ジャック・ニコルソンに
負けず劣らずの
すさまじいものでした。

映像的な観点で、
本作の特徴を述べるならば、
多くのシーンが
精神病棟という閉鎖された空間で
展開されるという特徴があります。

閉鎖された空間でも、
観客を退屈させない演出が
随所に感じられました。

カメラワークの点で言えば、
人物をアップ気味に撮って、
俳優の細かな表情を
きめ細かく魅せている印象です。

一人の人物を長く映すのではなく、
次々にカメラを切り替え、
そこにいる全員の表情やしぐさを
クローズアップしていました。

こうすることによって、
グループセラピーのような
(みんなが椅子に座って話し合う)
静的な場面でも、
緊張感が生まれます。

そして、静的な場面に対して、
本作の一つの見せ場とも言える
動的な場面が際立って
印象に残るでしょう。

みんなで精神病棟を脱出して、
外で遊ぶシーンや、
夜中のパーティーのシーンですね。

これらのシーンは、
本作の大半を占める
静的な場面と対比されて、
一段とキラキラ輝いて見えます。

映像的にも決して
派手な作品ではないですし、
何度も言いますが、
ストーリー的にも
盛り上がる場面が多い
作品ではありません。

もちろん、深く読み込めば、
映像的にもストーリー的にも
奥が深い作品なのですが、
誰にでもわかりやすく作られた
エンタメ作品ではないのです。

しかし「映画」として、
「映像」を純粋に読み解いていくと、
本作は決して、
平凡な作品とは言えないでしょう。

むしろ、本作の説明しきれない
不思議な魅力こそが、
繰り返し何度でも観たくなる
由縁だと思います。


【作品情報】
1975年公開(日本公開1976年)
監督:ミロス・フォアマン
脚本:ローレンス・ホーベン
   ボー・ゴールドマン
原作:ケン・キージー
   『カッコウの巣の上で』
出演:ジャック・ニコルソン
   ルイーズ・フレッチャー
   ウィリアム・レッドフィールド
配給:ユナイテッド・アーティスツ
上映時間:133分

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