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常時接続社会から離れて

僕たちは、ここではない世界と常につながっている。


朝、目が覚めたらスマホに手を伸ばし、尊敬する醸造所の新商品リリースと、友人の赤ちゃんの成長記録が交互に現れるタイムラインを眺めながら身体を起こす。

車の運転をしながらお気に入りのPodcastを聴き、近況報告の投稿をあげると10年以上会っていない学生時代の友人と、オンラインでしか話したことのないビール仲間から同時にイイネが届く。

ごはんを食べながら取引先にメールを打ち、湯船につかりながら友人とLINEをする。そしてNetflixを眺めながら寝落ちする。



独身ながらも、常にここにいない誰かと繋がり新しい情報に触れ続ける、隙間のない暮らし。

そんな当たり前で便利極まりない習慣を、ヨーロッパへ発つ前の成田空港へ置いてきて、数週間がたった。


こんにちは。高知県日高村で地域おこし協力隊をしています。髙羽 開(たかば かい)といいます。

「いきつけいなか」で連載させてもらっている欧州ビール研修記。

今週は少しビールから離れて、先日ふと「いま自分、めっちゃひとりぼっちやな」と感じた体験について書いていこうと思います。

ビールとは関係ありませんが、いつでも繋がれる時代に孤独を感じる、多くの現代人と関係のあるお話です。


ビールのためのネット遮断

ヨーロッパに到着して以降、Wi-Fiがないところではネットに繋がっていません。

スマホは常に機内モード。Wi-Fi環境が整っている醸造所と宿泊先、カフェや駅にいるとき以外はInstagramも開けなければ、LINEもGoogle Chromeも使えません。

数千円で海外用のSIMカードを買えばこちらでも普通にネットを使えるわけですが、「この研修中は、お金も時間もビールに全振りするぞ」と極端な決め事を自分でつくったので、このような状況になっています。


スマホを触る時間があるなら、醸造の勉強をして、目の前のビールの味わいに集中して、隣にいる人と会話をするぞ、という作戦です。

なぜそんな作戦をとっているかというと、放っておけばそれなりの時間をスマホに費やしてしまうから。そして、その行為がヨーロッパでの暮らしを有意義にするかどうか怪しいからです。

スマホの中毒性については、語られるようになって久しいですし、程度の差はあれ現代人全員が身をもって知っていることだと思います。

僕自身、ベストセラーとなった「スマホ脳」を読み、世界でドーパミン・デトックスを流行させた「監視資本主義」を観てからは、もう少しスマホから距離を取ったほうがいいかもと、電話以外の通知はオフにしてTwitterはほとんど使わなくなりました。


とはいえ、スマホはいつもパンツの右ポケットに入っています。

まとまった時間があればNetflixでドラマを観ることもありますし、移動中は「コテンラジオ」や「超相対性理論」といった大好きなPodcast番組をよく聴きます。

そんな自分のスマホ習慣をせっかくのヨーロッパ研修に持ち込みたくなくて、こちらで使えるSIMカードは買いませんでした。

ネットが使えなくても、いまのところ何とかなっています。

電車に乗るときドイツ語の表記がわからなければ、道行く人が教えてくれます。目的地までの道順は、Google Mapsでミュンスター全体の地図をダウンロードしているのでオフラインでも迷いません。

Google Maps同様、NetflixもYoutubeもPodcastもダウンロード/オフライン再生ができるわけですが、これについては醸造と英語学習に関するコンテンツに限ってダウンロードしていい、という自分ルールをつくりました。


ここではない世界との、心地よき隔絶

街なかでスマホが使えないことに多少の不便さはありつつも、少しずつネットにつながっていない生活に慣れ始めた今日このごろ。

研修がはじまって初めてのお休みをもらったので、日本人の友人を訪ねて、ミュンスターから列車で2時間ほどのケルンという都市に行ってきました。

ケルンへ向かう列車のなかで、到着までまだあと1時間半くらいはあるというタイミングに、Kindleにダウンロードしていた本を読み終え、早々に手持ち無沙汰に。

オフラインでも観れる動画や音声コンテンツもダウンロードしてこなかったので、窓の外を眺め、あれこれ考えごとをしならがノートにメモを書いていると…

いま自分、めちゃくちゃひとりぼっちやな」とふと、しみじみと感じたのです。

ここではない世界の情報から離れ、スマホに届くメッセージもなければ、気にする他人もまわりに誰もいない。

これまでの研修の学びや、これからの研修に対する期待と不安をノートに綴る。

「人から見た自分」から離れて、「自分としての自分」と向き合い、対話をしてみる。

本当の意味で「ひとり」になったのは、随分久しぶりな気がしました。

そんな時間を1時間ほど過ごしたあと、ノートの過去のページをめくっていると、数ヶ月前に読んだ本のメモが目に入ってきました。

”先が見えなくて、どこを歩けばいいかわからなくて、不安だからこそ、歩き出すために、自分の力を総動員する。そのジタバタする過程こそ、最高の人生の面白さ”

暮らしを変える書く力(一田 憲子/KADOKAWA)

過去になんとなく気に入って記録していた言葉が、ネットに遮断され、見知らぬ土地で新たな学びを得ようとしている今の自分の状況と心情にすごくマッチして、ニヤニヤしました。


めいいっぱいジタバタして、日本に帰ろうと思います。

ひとりぼっちもたまには悪くないかもしれません。


でも、やっぱりビールは誰かと飲んだ方がおいしいですけどね。


週刊「欧州ビール通信」

今週も、ヨーロッパのビール文化をひとつご紹介して終わりたいと思います。

上の写真は「ケルシュ」と呼ばれる、今回のお休みで訪れたケルンで伝統的につくられているビアスタイルです。

エールビールをつくる酵母で発酵させた若ビール(発酵を終えた液体)を、ラガービールをつくるときのように低温熟成(ラガーリング)させてできる、エールとラガーのあいのこのようなビール。

エール酵母由来のフルーティな香りと、ラガービールのようなクリーンでドライな味わいが共存しているのが特徴です。
(分類としてはエールビールです)

そんなケルシュが面白いのは、醸造方法と味わいだけではありません。

ケルンのパブでビールを注文すれば、「棒」を意味する「シュタンゲ」という200mlの細長いグラスに入れて提供されます。

グラスが空けば「クランツ」というお盆に新しいビールを乗せて持ってきてくれて、飲んだ杯数は店員さんがコースターに線を引いてカウント。

「もう飲みません」という意思表示は、コースターをグラスの上に乗せればOKです。

その様子を見て「わんこビール」と呼んだ人がいるとかいないとか。

ケルンの観光名所は全無視して、1日中パブを回って計6店舗でいろんなケルシュを飲み比べた大満足の休日でした。

(このシステムを知らない観光客の人もたくさんいるので、実際にはちゃんと次のビールがいるか聞いてくれるところがほとんどでした)

今週もここまで読んでいただき、ありがとうございました。

髙羽個人のインスタグラムでも日々ヨーロッパでの様子を投稿してます。ケルンでのケルシュ飲み比べの旅も動画にまとめてあげたので、よかったら見てみてください。

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このヨーロッパ研修記では、海外で研修をおこなう地域おこし協力隊の取り組みや学び、現地の暮らしや文化、そしておいしいビールについて記していきます。


また来週もぜひ、ご覧ください。
Cheers!(乾杯!)


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