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ドイツのサウナへ行くと、そこは絵画の世界だった

目に映るのは、1つの部屋に集まった年代のさまざまな男女、およそ70人。

友達数人でまとまっている人もいれば、夫婦やカップルらしき人たちもいる。僕と同じくひとりで来た人もちらほら。

そんな老若男女さまざまな約70人の人たちには、これまで30年の人生で初めて目にする、ひとつの異様な共通点があった。

それは、そこにいる男女が、ひとり残らず全員真っ裸だということ。


こんにちは。高知県日高村で地域おこし協力隊をしています、髙羽 開(たかば かい)といいます。

この「いきつけいなか」では、3ヶ月にわたるヨーロッパでの醸造研修の様子を記しています。

今回の記事ではビールから離れて、現在暮らしているドイツの文化について書いていこうと思います。

日本でもここ数年大きく盛り上がっている「サウナ文化」が今日のテーマです。


「そもそもサウナって?」について

これまでサウナに興味がなかった、という方もこの記事を読んでくださっているかもしれないので、「そもそもサウナって何がいいの?」というお話も、少しだけ触れておきたいと思います。
(サウナにお詳しい方は「混浴&全裸というサウナ文化」というサブタイトルまで飛ばしていただいてOKです)

一般的に「サウナに入る効能・メリット」として語られることが多いのは、以下のような事柄。

  • リラクゼーション効果
    (睡眠の改善、ストレス軽減)

  • 発汗による解毒作用

  • 血行の改善・筋肉疲労の回復
    (肩こりや腰痛改善)

  • 毛穴汚れの改善・美肌効果

  • 心臓病・認知症の予防

  • 社交の場としての利活用

  • デジタルデトックス

この中でも、サウナに入る人の多くが期待をしているのが「リラクゼーション効果」です。「ととのう」という言葉は、サウナ好きでなくとも耳にしたことがある人が多いのではないでしょうか。

これは、「サウナに入る→水風呂に入る→外気浴(外の新鮮な空気に触れながらおこなう休憩)をする」という一連の流れのなかで、身体が「熱い→冷たい→ほっとする」という環境変化にさらされることで、とても気持ちが良く、心身共に快調に感じられる状態になることを言います。

「医者が教えるサウナの教科書」という本では、「ととのう」という言葉の科学的な正体として「血中には興奮状態の時に出るアドレナリンが残っているのに、自律神経はリラックス状態の副交感神経優位になっている状態」と書かれています。

そんな心身ともに良い影響があるとされているサウナが発祥した国は、北欧・フィンランドです。

サウナにまつわる商品開発や情報発信をしている『SAUNA&Co』の記事によると、現在の日本でのサウナブームのきっかけは、2019年にドラマ「サ道」が放送されたことにあるんだそう。このドラマによってそれまでサウナに興味がなかった層にも魅力が広まり、サウナ文化が再注目。現在「第3次サウナブーム」が起こっている、と書かれています。

ぼく自身もサウナは大好きです。

社会人1年目に地元岡山から関東に出て以降、定期的にサウナへ行くようになり、高知に移住をしてからは週1回ペースでサウナに通い、お仕事・プライベート問わず県外に行くことがあれば、必ずサウナ付きの宿泊施設に泊まるくらいにはサウナが日常になっていました。


「アウフグース」発祥の地・ドイツ

画像引用元:Infinit

そんなサウナの入浴方法のひとつに、「アウフグース」と呼ばれるものがあります。

サウナ室内を熱するストーブ上に置かれた「サウナストーン」と呼ばれる熱々の石に、(主にスタッフの方が)水をかけて蒸気を発生させ、タオルなどであおいでサウナ室内に蒸気を循環させたり、サウナ入浴者に直接熱気を送ったりする入浴方法のことを指します。
(サウナストーンへかける水は、ハーブなどからアロマ成分を抽出した「アロマ水」をかけることも多くあります)

サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるまでの作業は「ロウリュ」と呼び、この入浴方法はサウナ発祥の地・フィンランドで生まれたもの。一方で、ロウリュで発生した蒸気をあおぐアウフグースは、現在僕が醸造研修をしているドイツで生まれたサウナ文化なんです。

(そもそもなぜ蒸気を発生させるかというと、サウナ室の湿度が上がると体感温度も上がって発汗が促され、水蒸気を多く含んだ熱気を入浴者に向けてあおぐとその効果がより高まるからです)

こちらは「ロウリュ」の様子

ドイツがアウフグース発祥の地だということは日本にいたころから知っていて、サウナ好きの友人からドイツのおすすめサウナを教えてもらったりもしていました。

ですが、ドイツのサウナにハマってしまうと、せっかくの研修期間をビール以外に費やし過ぎかねない、それくらいドイツのサウナはきっとヤバいに違いない、という思いからこっちに来て1ヶ月はサウナへ行くことはしませんでした。

そんななか、ドイツの別の都市で暮らす日本人の友人と週末に遊ぶ予定を立てていたとき、「サウナいきたい」と言われ(ありがたいことに言ってくれて)、「友達との思い出づくりになるなら」と自分に言い訳をして、我慢をしていたドイツのサウナへいよいよ行くことになりました。


混浴&全裸というサウナ文化

画像引用元:FrontRowSociety

友人と訪れたのは、ケルンという都市の『CLAUDIUS THERME』という施設。サウナ以外にもプールやその他さまざまなリラクゼーションサービスを提供する複合施設でした。

画像引用元:Claudius Therme

ケルンでのサウナ体験が極上すぎて、我慢ならぬと翌週には首都ベルリンのサウナ施設『Vabali』へも行ってしまいました。

画像引用元:vabali spa

どちらも素晴らしいサウナ施設だったんですが、まずもって日本と大きく違うのが「サウナ入浴時の当たり前」です。

サブタイトルにもすでに書いていますが、施設内はごく一部のサウナを除いて「混浴」。サウナ、シャワー、水風呂への入浴は「素っ裸」が慣習になっています。

ロッカーのある脱衣所も男女共有。「全裸で入浴」という慣習は「素っ裸で入ってもいいし、タオルを巻いて入ってもいい」ではなく「タオルは巻かずに体の下に敷いて、裸で入る」というものでした。

日本にも水着を着用して男女一緒にサウナに入る施設はありますが、何も着用しない形での混浴サウナはドイツならではです。

(施設内の移動や外気浴のときは、タオルやバスローブを巻いている人がほとんどでした)

画像引用元:Vattenfall

サウナ施設としての充実さやサービス内容については、2つの施設しか行っていないので「ドイツのサウナ」と言って一般化して語ることができませんが、どちらの施設もベルリン・ケルンというドイツの中でも大きな都市にあって、かつ、そんな大都市のサウナでも特に施設・サービスが充実したサウナだと言われています。

以上の前提情報をお伝えした上で、いかに素晴らしいサウナだったか、簡単にご紹介したいと思います。

画像引用元:Tripadvisor

まず、どちらの施設にも屋内・屋外両方にサウナエリアがありました。

それぞれのエリアでは、屋内外共通して大きなプールを囲むように3〜5個のサウナがあり、各サウナの近くにはシャワーや休憩用のイスが配置。中心のプール以外にも、全身すっぽり入る1人用の縦長円柱型の水風呂や、日本のスーパー銭湯でよく目にする歩行浴に似た形の水風呂もありました。

すべてのサウナはそれぞれ特徴があり、5〜10人用の小さいサウナ室もあれば、50〜70人は入れるんじゃないかという大きなサウナ室もありました。他にも、音を主役にしたサウナ、光の色の変化でリラックスを促すサウナ、3階から目の前に広がるパノラマを楽しむサウナなど、コンセプト・大きさ・形状・室温・湿度もさまざまでした。

日本の多くのサウナとは異なり、サウナ室内で横になることも可能で、サウナ入浴後の休憩スペースもゆったりと広く、外気浴用のイスも余るほど用意されています。

他にも、レストランやバーがサウナエリアに併設されていて(脱衣所から出たところではなく、あくまで服を脱いで入るエリア内に存在し)、サウナから出てバスローブを着ればすぐに料理やお酒が楽しめる空間もありました。

まるでサウナのテーマパークです。


別世界を垣間見た、アウフグース体験

肝心のアウフグースはというと、屋内エリアと屋外エリアをつなぐドア付近の壁に大きなボードが掲げられていて、そのボードを見れば、30分ごとに複数のサウナ室でおこなわれるアウフグースの情報(どこのサウナでどのようなアウフグースが行われるか)がわかる、という仕組みになっています。

ここで興奮してくださるサウナ好きの方もいらっしゃると想像しますが、1日中30分ごと同時多発的にアウフグースが行われるというのは、アウフグース発祥の国・ドイツならではの所業です。

画像引用元:Mrs.City

ひとりで訪れたベルリンの方のサウナは、週末の夜に行ったこともあってか、各回のアウフグースはどれも人でいっぱいでした。

同性の友達と来ている人、異性の友達数人で来ている人。
遅れてきたパートナーにキスをして横に並ぶカップル。
70歳は越えていそうなお年を召した夫婦らしきおふたり。
僕と同じくひとりで来たサウナ好きの方。
細い人もいれば、筋肉隆々の人や、ふくよかな人も。

性別も、年齢も、体型も。タトゥーの有無もさまざま。

サウナに入ればみんなが当たり前のようにタオルを取り、身体の下に敷き、しゃべることなく静かにアウフグースの開始を待ちます。

画像引用元:Berliner Verlag

開始5〜10分ほど前になると、アウフグースを担当するスタッフさんがやってきて、通常閉まっているサウナ室の扉を一時開けっぱなしに。室外から室内にむけて空気をあおいで空気の入れ替えをおこないます。

その間に続々と人が入ってきて、開始間際にはサウナ室がぎゅうぎゅう詰めの状態に。

いよいよ始まる時刻になると、アウフグースの説明がドイツ語で始まります。何を言っているのか1ミリもわからないでいると、毎回説明の最後に”Does anyone need an English translation?(英語訳が必要な人はいますか?)”とスタッフさんから質問が。

手をあげるのは数十人のうち、だいたい2.3人。僕だけが手をあげた回も何度かありました。毎度この上ないマイノリティ感を面白がりつつ聞いてみると…

サウナストーンにかける・のせる「アロマ水・氷の種類」(フルーツ、はちみつ、ハーブなどがベース)と「蒸気をあおぐ道具」(タオルの他に、大きな扇、白樺の小枝を束ねたものなど)の説明。

「サウナストーンにアロマ水・氷をかける・のせる→蒸気をあおいで室内全体に循環させる→入浴者へ個別に蒸気をあおぐ」という一連の流れを3セット行うこと。

アウフグース中はしゃべらないこと、タオルは下に敷いて身体が直接サウナ室の床・壁に触れないようにすること、無理せず自分のタイミングで出て大丈夫だということ、サウナ後は必ずシャワーをあびて汗を落としてからプールへ入ること、などの注意事項が伝えられます。


そんなベルリンのサウナは、4時間のサウナ利用時間内に計6回アウフグースを体験しました。なかでも特に記憶にのこっているのは、1番大きなサウナ室で行われた“Venik Aufguss”(ヴェニック・アウフグース)と呼ばれる回です。

画像引用元:Cheryl Howard.com

70人はくだらないであろう人が所狭しと座るサウナ室の奥には、巨大なストーブとストーブ上部を埋め尽くすサウナストーン。その中心には、溢れんばかりの白樺のアロマ水で満たされた銅製の大きな鍋が熱せられています。

上の写真では、それなりに明るい状態のサウナ室が撮影されていますが、実際は外の日も落ち、サウナ室の照明もごくわずか。

薄暗いサウナ室の中で唯一しっかり照明が当てられているのは、中心奥のサウナストーンとそこに鎮座する銅鍋だけです。

画像引用元:Flickr

そこへ"Venik"(「ヴェニック」、フィンランドと日本での呼称は「ヴィヒタ」)と呼ばれる白樺の束を持ったスタッフさんがやってきて、同じく白樺のアロマ水が入った鍋へゆっくりとヴェニックを浸していきます。

充分に浸したヴェニックは鍋からすくい上げられ、今度はやさしく叩くようにサウナストーンへとアロマ水がうつされていきます。

すると、心地よい蒸発音とともにたくさんの蒸気が発生し、室内の湿度が一気に上昇。数秒もすると、体感温度がぐっと上がります。

最後にヴェニックを頭上に掲げ、弧を描くように回し、室内上部へのぼった蒸気を室内全体へ均等に行き渡らせます。

この一連の動作はおよそ3.4分かけて行われ、2セット、3セットと進むにつれて、動作の勢いはより強く、蒸気量はより多くなっていきました。

画像引用元:Saunazeit magazine

ときにやさしくときに力強い、洗練されたアウフグースの動きは、「動作」というよりも「所作」という言葉が先に想起される、美しさを孕んだものでした。

そして、何の衣服も身に着けていない男女70人全員が、室内で唯一明かりが灯された場所で行われる「所作」を静かに見つめ、耳を澄まして目を閉じて、五感全てでアウフグースを感じるその空間は、「儀式」という「それが何なのか、身体的経験上よく分かってすらいないはずの言葉」でしか形容できない何かでした。

そして、3セットのアウフグースが終わると、それまでの静寂から一変、指笛まじりの大きな拍手が、その儀式の「祭祀」(スタッフさん)への感謝としてサウナ室を包み込みました。

画像引用元:Mrs.City

サウナ室を出ると、さっきとはまた違った異世界が目に入ってきました。

裸の男女が火照った身体を冷ますために、石造りのプールへ入水しています。

どこか見覚えのある景色に記憶を巡らせると、それは、古代・中世の公共浴場を描いた、もしくは水辺に佇む神々を描いた「絵画の世界」でした。

実際にそのような絵画があるのかどうかすらわかりませんが、目の前の光景が、記憶のどこかに確かにある、ここではない世界のものに感じた、不思議なアウフグース体験でした。


わかろうとするしかできない、かもしれない

画像引用元:VPS

ドイツ人の友人ひとりに聞いた内容なので、すべてが合っているかどうかはわかりませんが、「混浴&全裸」というサウナ文化が形づくられた背景には、衛生面と文化的側面の2つの理由があるそうです。

まず衛生面でいうと、水着や衣類は汗や細菌を閉じ込めるので、それがサウナ内の床・壁面や空気の清潔さにネガティブな影響を及ぼす可能性があるから、というものでした。

文化的な理由は、ドイツでサウナは「性別や年齢に関係なく、リラックスして社交を楽しみ、健康になるための場所」だと捉えてられていて、その場所では裸でいることがごく自然だという考えが伝統的に存在しているからなんだとか。

画像引用元:PhiLeRo

このサウナ文化は、「性別の違いや社会的な障壁を取り払い、より快適な状態で社交的であるには、裸の方がいいよね」という感覚が世代間の壁を越えてドイツ人の「当たり前」として遺っていることの現れでもあります。

1993年に、日本で、日本人の両親のもとに生まれ、30年かけてそのほとんどを日本で過ごした僕は、当然ながらドイツの人たちとはかなり異なった「当たり前」を持っています。

そんな僕(や、これを読んでくださっているほぼ全ての方)が、まったく違うドイツの人たちの「当たり前」を完全に理解し感覚的に「わかる」ことはおそらくできません。仮にこれからの人生をずっとドイツで過ごしたとしても難しい気がします。

そんなことを考えると、(サウナに限らない少し尺度の大きな話になりますが)価値観の異なる人と相対するときに、無意識的に自分の当たり前を振りかざしてしまうことに、いつでも意識的でいる必要があるのかもしれないと思わされます。

そして、どこかのだれかといつでもつながることができる、「自分にとっては異質な誰かにとっての当たり前」といつも隣り合わせないまの世の中においては、僕たちは相手のことを「わかった」と断定するでもなく、「わからない」と諦めるでもなく、ただただ「わかろうとする」ことしかできないのかもしれません。

画像引用元:Parts Unkown

なんか、最後にめちゃくちゃ抽象的なことを書きましたが、結論、ドイツのサウナまじで最高でした。

(当分サウナは我慢します)


最後の最後に

今週もここまで読んでいただき、ありがとうございました。

髙羽個人のインスタグラムでも日々ヨーロッパの様子を投稿してますので、よかったらフォローよろしくお願いします。

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このヨーロッパ研修記では、海外で研修をおこなう地域おこし協力隊の取り組みや学び、現地の暮らしや文化、そしておいしいビールについて記していきます。

また来週もぜひ、ご覧ください。
Cheers!(乾杯!)


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