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発酵祈る、備忘録 〜伝統担う新友から、異文化のローカライズまで

「発酵」という言葉はメタファーとして使われることがある。


たとえば、目の前の人が「最近のうちのチーム、発酵しててすごくいい感じなんだよね」と言うとする。

するとあなたは、(もちろん前後の文脈にもよるけれど)「あ、この人のチームは、所属しているスタッフの方々が個々の知識や経験を有機的に活かし合いながら、チーム内の雰囲気やアウトプットが少しずつ良くなっているんだな、素敵」と想像することができる。


発酵の「微生物が『何かしらの物質』を代謝して『何か他の有益な物質』を生成する」というプロセスに似た営みを、僕たちもすることがある、ということだ。


こんにちは。高知県日高村で地域おこし協力隊をしています、髙羽 開(たかば かい)といいます。

この「いきつけいなか」では、週に1回のペースで協力隊の欧州ビール研修の様子を記しています。

今週の記事では、特定のテーマについて深ぼっていくというこれまでのような形ではなく、ここ数週間で触れた情報や体験について、脈絡なく、備忘録的に綴っていきたいと思います。

酵母が発酵するのように、今日記した記憶が、これまでの経験やこれからの出会いとおもしろい化学反応を起こし、いつか自分のビールや自分自身の輪郭を形づくる何かしらのきっかけになるといいな、と願いながら書いていこうと思います。

発酵祈る、備忘録です。


伝統の中に生きる彼女と、そうでない僕?

先日、ドイツで仕事をする日本人の友人から、同じくドイツで暮らし、しかもビール醸造を生業としている日本人の方を紹介してもらいました。

彼女の名前は大村 希(おおむら のぞみ)さん。僕と同じ1993年生まれで、大学でデザインを学んだのち、ビールづくりを志してドイツへ移住。ドイツ第4の都市・Köln(ケルン)の醸造所でビール職人として働いています。

「笑顔」と「胆力」と「探究心」の幕の内弁当のような女性で、あっという間に惹かれ、意気投合しました。

すぐに仲良くなった理由は、彼女のキュートでパワフルなパーソナリティはもちろん、「おいしいビールをつくる」という共通の欲求を持ちながらも、お互い違う環境に身を置き異なるビールをつくっているがゆえに、相手と話すことで自分を相対化し見つめ直すことができて面白い、というのもあった気がします。

希さんが暮らすケルンは、「ケルシュ」と呼ばれる街に根ざしたビールが存在する都市です。

ケルンにおけるビールづくりは9世紀にまで遡ると言われ、1986年にはケルン市内の24の醸造所が「ケルシュ・コンベンション」という協定を結び、踏むべき醸造プロセスを規定。また、「ケルシュ」という名を冠することができるのはケルン近郊の醸造所のみ、となりました。

シャンパーニュやブルゴーニュワインと同じく「原産地呼称」が適用されたビールというわけです。

言い方を変えると、ケルシュは、街との繋がり、その品質とオーセンティシティを保ち、次世代に繋ぐ意志に守られたビールといえます。

ここ数十年のクラフトビール隆盛以前から存在するビアスタイルを「クラシック」と呼んだりしますが、ケルシュはクラシックに数えられるビアスタイルのひとつです。

一方、僕が取り組むワイルドエールは、(ベルギーの「ランビック」など一部のビールを除いて)市場の規模もまだまだ小さく、比較的新しい醸造所がほとんど。醸造プロセスも他のビアスタイルとは異なる点が多々あります。

ケルシュが「クラシック」なビールであるのに対して、ワイルドエールは「オルタナティブ」なビールと言えるかもしれません。

そんな、異なるビールづくりを行う希さんと話していると、酵母に対する愛情やおいしさへの欲求など強く共感する点も多々ありながら、価値観を分かつところもありました。(そこが楽しかったです)

希さんが会話の中で、「自身のアイデンティティ」と「伝統」について、振り子のように行ったり来たりしながら話していることもおもしろかったです。

「人をお腹いっぱいにするために生きている」と笑ったかと思えば、ケルンの歴史ある醸造所でのビールづくりについて教えてくれたり。

日々だいすきなビールをつくる一瞬一瞬を愛でつつ、自身が伝統の一部であることを自覚し、過去へのリスペクトと未来にそのバトンをつなぐ意志とをまとめて抱いている。そんな印象を受けました。

自分のアイデンティティの中に伝統と繋がる糸口のようなものを見つけ、これまでの僕とは異なる尺度と時間軸でビールを見つめる彼女と話していると、「日本におけるビールの伝統って何なんだろう」「この時代に生まれワイルドに関心を持った自分には何ができるだろう」、そんな問いも生まれました。

同年代で、異国の地で、ゼロからビール職人としてのキャリアを築いている彼女も唸るような、めちゃくちゃうまいビールをつくりたいな、と思います。

そして、彼女と出会って生まれた問いについても、ひとと話し、本を読み、たくさん手を動かしながら、ゆっくりと答えを探していきたいです。


優れたプロダクトデザインを構成するもの

画像引用元:reddot

先週末、ドイツのEssen(エッセン)という都市にある『Red Dot Design Museum(レッド・ドット・デザイン・ミュージアム)』へ行ってきました。

展示しているのは、世界三大デザイン賞にも数えられる「Red Dot Design Award(レッド・ドット・デザイン賞)」の受賞商品/製品。

「優れたプロダクトデザイン」に認定され、世界中から集められたおよそ1,500ものプロダクトが、カテゴライズされた5つのフロアで一同に展示されている光景は、目と脳の保養になりました。

展示について説明するキャプションのひとつに、"How do the jurors judge the design quality?(審査員はデザインのクオリティをどのように判断しているか)"というボードがあり、そこには優れたプロダクトデザインを構成する4つの要素が挙げられていました。

  • the quality of function(機能の水準)

  • the quality of seduction(魅力の水準)

  • the quality of use(用途の水準)

  • the quality of responsibility(責任の水準)

なるほど確かに…とメモをしつつ、受賞をしているプロダクトがそれぞれの要素をどのように満たしているのかを想像しながらミュージアムを回っていると、あっとゆう間に5時間が経っていました。

ビールづくりの仕事は、ビール製造だけでなく、プロダクトデザインとしての容器・パッケージ、グラスや陶器、オープナー(栓抜き)などのデザイン・選定も含まれます。

僕も近い将来、ビールを取り巻くプロダクトをつくることになります。そして、つくり続けることになるでしょう。

そのとき、この4つの基準に事あるごとに立ち返り、エンジニアさんやデザイナーの方など、プロのお力をお借りすべきところはしっかりと頼りつつ、それぞれの水準の高さ/低さを正しく自覚し、自身のビールを社会に送り出していきたいと思います。


西洋で出逢った東洋文化

ヨーロッパに来てから、アジア由来のモノに出会う機会が度々ありました。

先週1週間お世話になったオランダの醸造所『Nevel Wild Ale(ネイヴェル・ワイルド・エール)』の創業者で醸造家のMattias(マティアス)は、メディテーション(瞑想)のクラスに通い、毎朝ティー・セレモニーを行っていました。

ドイツでお呼ばれしたホームパーティでは、大豆でなく現地の小麦からつくった味噌をベースにしたソースが、キノコステーキにかかっていました。

ウイスキー樽で2年間熟成した醤油を料理につかっているオランダのお家もありました。

どちらもめちゃくちゃおいしかったです。

これらヨーロッパで出会った「アジア由来のもの」に共通して感じたのは、すでに東洋文化の手を離れ、現地の暮らしにローカライズされていた、ということです。

考えてみれば、現在「日本文化」と呼ばれているものも、長い歴史のなかで海の向こうからやってきた舶来の文化を当時の日本人が再解釈し、それまでの伝統と融合させながら現代まで紡がれてきたもの。

「こうやって新しい文化はつくられていくんだなぁ」

ビーフステーキに負けず劣らないキノコステーキを頬張りながら、そんなことを考えました。


そして、「いま自分がやっていること、これからやろうとしていることも、そういうことだよな」と腑に落ちました。


最後に

今週もここまで読んでいただき、ありがとうございました。

髙羽個人のインスタグラムでも日々ヨーロッパの様子を投稿してますので、よかったらフォローよろしくお願いします。

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このヨーロッパ研修記では、海外で研修をおこなう地域おこし協力隊の取り組みや学び、現地の暮らしや文化、そしておいしいビールについて記していきます。


また来週もぜひ、ご覧ください。
Cheers!(乾杯!)


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