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痛くてつらい 映画『笑いのカイブツ』感想

『笑いのカイブツ』鑑賞してきました。
ヒリヒリして、痛くて痛くてつらい。
見終わった後には泣いていて、みんなこうなりたいけど、でもなれないんだよなと思いました。
わからない、もう少し若かったらこうなろう!って今の場所から足掻くのかなぁ。

すべての人に簡単に勧められる映画ではないかもしれない。
でも、わたしはとても良い映画だと思いました。

一度でも『着信御礼!ケータイ大喜利』の投稿画面を見たことがある人には間違いなく刺さる。
わたしは何度も見たけど、友達に「普通、投稿しようと思わないんだよ」って言われた時、心底驚いた。
「投稿してみたい!あわよくば採用されたい!」
そう思って、あの投稿フォームにたどり着いたことのある人はみんなこっち側だ。
そういう人、noteには多い気がする。
現役のハガキ職人さんもたくさん見かけるし。
そういう人たちはもうとっくに原作を読んで、映画を見ているだろうけど、遅れに遅れたアイドルオタクの感想です。

観終わってすぐに原作を買ったので、読んでから書こうかと思ったんですが、まずは純粋な映画の感想を。
ここからはネタバレありますのでご注意ください。
話があちこち飛んで、映画を観てない方には伝わりにくいかもしれません。




とにかく岡山天音さんのツチヤタカユキがすごい。
岡山天音さんのツチヤタカユキのリアリティがあるからこそ、この映画がヒリヒリするんだと思う。
あの、読まれた瞬間の喜びの噛み締め。
5秒に1回ボケを考える時のあの必死さと焦燥感。
『人間関係不得意』を全身で表すような挙動不審さ。
笑いに対する不器用な程に真っ直ぐな姿勢。
感情を爆発させて泣き喚く姿。
実際のツチヤタカユキさんを見たことがないので、正しいリアリティなのかはわからない。
でも、そこには「こういう人間がいたんだ」という説得力がある。
特に泣き喚くところは、本当にもうどうしようもないほど泣く時って人間ってこうなるよねって泣き方で、胸が締め付けられる。

人生ってマジでうまくいかないよね。
みんなそれを平気なふりして流したり、ストレス発散って言うけど、本当にどうしようもないことがあるんだよね。
世間はそれを「仕方ない」や「我慢しなきゃ」でやりすごすけど、映画の中のツチヤタカユキはやり過ごせない。
正しい世界で生きたい。

そんな世界、ないんじゃないかと思ってしまう。
今は無職だけど、10年そこらは社会人をやって、うつ病とかなって、そうすると「正しい世界なんてない」ってことに気付いてしまう。知ってしまう。
そもそも、その笑いこそ正義の正しい世界だって生きづらいかもしれないよ。
ツチヤタカユキだってわかってるのかもしれない。
だからこそ死のうとしたのかもしれない。

いろいろ試行錯誤して、この正しくない世界で生きていくしかないから、みんな諦めたり我慢したりするんだ。
そんな世間にしたら「当たり前のこと」を当たり前にできなくて、もがいて苦しむ。

でも、こうも考えられる。
そんな正しくない世界だけど、ツチヤタカユキには笑いがあった。
人間あんなに必死になれることなかなかない。
血尿血便出しながらボケを考え続ける狂気。
世間はそんな狂気を受け入れるキャパは持ち合わせていない。
だから、はじかれて、余計生きづらくて。

余計生きづらいけど、ツチヤタカユキには理解者もいる。
お笑いコンビ、ベーコンズの西寺や放送作家の先輩である氏家。
西寺は昔の自分を思い出すとツチヤタカユキに語るけど、わたし個人としては氏家もめっちゃ優しくない!?と思ってしまう。(笑)
嫌味な先輩には「氏家くんも大変だね。西寺くんフォローして、素人の面倒までみなきゃいけないんでしょ?」と喧嘩を売られるし。
西寺さんのモデルは初期は人見知り芸人のくくりでアメトーーク!にも出ていたあの芸人さんだとして、そう考えるとなかなかめんどくさい部分もあっただろうし、プラスして自分を貫きたいが本心は西寺にしか話さないツチヤタカユキ……
いやー、サトミツさんすげぇなぁ。(言うとるがな)
あくまでモデルというか、あれですけど、調子が良くて、ちょっとおちゃらけることで仕事をどうにか乗り越えた経験もあるわたしとしては氏家さんも大変だなぁとしみじみ思ってしまった。
あのポジションもつらいよね。
氏家さんは無理せずそれができるタイプなのかもしれないが。
西寺が面白いと認めるなら、自分もしっかり面倒を見ようという腹決めが氏家にはあるのかも。
映画では特に触れられてないけど、強い信頼関係ですね。

そして、菅田将暉演じるピンク。
あれですね、菅田将暉ファンの方はピンク見る為だけに映画観に行った方がいいくらいには刺さる人が出そうなキャラだったなぁ……(笑)
こんな入りするの失礼なくらい重要な登場人物です。堅気じゃないけど。
特に終盤のツチヤタカユキに語り掛けるシーン。
横でへらへらしたり調子良くしてるのかと思ったら、ちゃんと核心を突いてくれて、ちゃんと理解してくれていた。
あんなこと言ってくれる人がいるの幸せだよ。
ピンクがああ言ってくれたから、ツチヤタカユキはベーコンズの単独に向かえたんじゃないかな。
地獄で生きなきゃって。

そのあとのベーコンズの単独。
漫才指導が令和ロマンということですが、漫才の間がめちゃくちゃ良かったですよね!?
お客さんに聞きに行くところとか、2人の掛け合いとかテンポが良い。
漫才指導が入るってこういうことなんだなぁと感動しました。
それをやり切る仲野太賀さんと板橋駿谷さんもすごいんだけど。
そして、ツチヤタカユキはエンドロールで自分の名前を見る。
前回の記事でも書いたけど、やっぱり自分のラジオネームが読まれるあの瞬間は泣くくらい嬉しい。
エンドロールに名前が乗る瞬間もきっと。

終演後、西寺に楽屋に呼ばれるも、楽屋前に世間をうまく生きられるように見える人たち(言い方)がいて、ツチヤタカユキはその場を立ち去る。
一人帰ろうとした時に西寺に見つかって、お前のネタ嫌いじゃないと褒められる。
「嫌だと思うけどさ、打ち上げ来いよ」
その誘いにツチヤタカユキは過去西寺に送った「人間関係不得意」のメッセージを見せて逃げる。
「おい!おい、ツチヤ!お前これで終わらねぇからな!」
何度もそう叫ぶ西寺になんとも若林さんみを……
打ち上げに誘う西寺だって、もちろん悪気があったわけじゃないし、切に「(この世界でしか生きられないだろうから)しっかりこの世界で生きて欲しい」という思いから誘ったんだと思う。
そこに乗れる人間だったら、もう少しだけ生きやすかっただろうに。
西寺の想いとは裏腹に、やはり地獄でやっていかなければならないという思いを強くしたツチヤタカユキは自殺を図る。

自殺は未遂に終わる。
川に落ちてびしょびしょになって家のドアの前にうずくまる。
観ているわたしは生きてて良かったと思う。
ツチヤタカユキのお母さんも「ほんまに死なんといてや」と。

始まりの部屋にはツチヤタカユキがネタを考える間、頭を打ち付け過ぎて空いた穴をお母さんがガムテープで補修していた。
過去に人々の笑い声の幻聴が聞こえた穴。
ガムテープの補修を剥がして、蹴りを入れる。
穴は貫通して、ただ、隣の母親の部屋が見えた。
「しょーもな」
ツチヤタカユキはまたネタを書く。
何かあると思った場所に何もなかった。
でもだから、ネタを書こうと思ったんじゃないか。

正しい世界も、生きやすい世界も、理想郷もない。
不器用過ぎる生き方をするしかない。
今は。今も。

みんなこうなりたいけど、でもなれないんだよな。

そう思うわたしも、この映画が万人受けするかと言われたらちょっと難しいかもしれないと思ってしまう。
少しでも「面白い」という称賛を欲しいと思ったことのある人には刺さる。
でもそれは、この世を生きる全員が思うことでもないらしい。
少しでも世間を「生きづらい」と思ったことのある人には刺さる。
でもどうやら、まぁなんとか自分のやり方で上手く生きられる人もいるらしい。

すべての人に簡単に勧められる映画ではないかもしれない。
でも、わたしはとても良い映画だと思いました。





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