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マジックナイトにはなれなかったから

小学校の頃、「魔法戦士レイアース」が大好きだった。
(ちなみに「まほうせんし」ではなく、「マジックナイト」と読みます。)

「魔法戦士レイアース」———なかよしで連載されていたCLAMP作の漫画で、異世界に飛ばされた中学生の少女3人組が、「マジックナイト」としてその世界を救うために戦う冒険ファンタジー。

この漫画に当時の私が魅了された言葉がある。「意志」という言葉だ。

レイアースの世界では「意志の強さ」が全てだ。世界が保たれているのも誰かの「意志の強さ」のおかげであり、「意志の強さ」が勝るものが勝者であり、この世界を救うのも「意志の強さ」。

その当時、私は「意志」という言葉の意味を知らなかったけれど、感情とか気持ちとか気分とかそういう「やわやわしたもの」ではななく、もっと岩のように硬くて動かないもの。そんなイメージを持った。(あながち間違ってはいなかったと思う。)

マジックナイトたちはマジックナイトなので当然魔法を使う。彼女たちはピンチになるといつも自分の中の「意志」と向き合い、「意志の強さ」を取り戻そうとする。すると意志の強さに比例して、魔法がより強力なものに変わり、立ちふさがる敵を倒すことが出来る。かっこいい。特に、私は光ちゃん派だった。どんな時も意志を強く持ち、気高く、明るい光ちゃん。もちろん海ちゃん、風ちゃんも素敵だった。当時小学生だった私にとって、マジックナイトたちはお手本であり、憧れであり、目指すべき姿だった。


***


現在、30歳ちょっと。

仕事中ふと「そういやレイアースって漫画あったなあ」と意味もなく思い出した。

憧れは、今も変わっていない。意志の強さ。私には到底手に入らないシロモノだから。

正直、私は意志がよわよわだ。小中高大学と自分で決めたことなんて特にないし、社会人になってどこの部署に異動したいか聞かれても「現状維持」がデフォ。「なるようになるやろ」くらいにしか思っていない。

そもそも、意志っていうものをここ最近自分の中に感じたことがない。そう言った方が正しいかもしれない。

私史上、一番意志というものを発揮したのは、高校生のときだった。高校3年間、全然楽しくないと思いながら部活を続けていたあのとき。自分で入りたいと思って選んだ部活だったけれど、先生にも部員からも認められず、もう上達しないだろうなと先が見えていながら、それでも練習に出続けていた。仲の良い子がどんどん辞めていって「一緒にやめようよ」と誘われたこともある。でもまだチャンスがあるかもと思って辞めなかった。それに途中であきらめるなんて「意志が弱い」。そう思っていた。

でも。あの時を振り返って思う。今までの人生わりかし後悔はないけれど、一つだけ後悔があるとしたら「あのとき部活辞めればよかったな」だ。

私は勘違いしていた。マジックナイトが見せてくれた「どんな逆境にも立ち向かう」という意志の強さだって立派だけれど、あのとき私がみせるべき意志は「部活を辞めます」とたった一言言うためだけの意志だった。

部活にすがりつくように必死だったあのとき、私は何と戦っていたのだろう。選んだ道を諦めきれない自分の意志と、でもその道で認められなくて苦しい自分と。両者が噛み合わなくて辛かった。そんなとき本来なら苦しい自分をどうにかするべきなのに、やると決めた意志の方ばかりを優先させて辛いだけで、それが辛さに耐えることが「意志の強さ」だと誤解していたと思う。

***

今思うのは、意志の強さなんて感じなくてもいいんじゃないかということ。高校の時、自分の意志についていけない自分が苦しくて辛かった。もしかしたら強い意志のいうのは、今ある自分と離れれば離れるほど、強く大きく感じるだけなのでは?と思う。

あの頃、両者の溝は大きく深かった。でもあれから数年たって感じるのは、その溝が無くなってきているということ。

今私が、高校のときのように苦しんでいないのは、強い意志にこだわっていないからだ。自分が傷つくくらいなら、強い意志は一旦置いておいて楽な方向に行く。それが私の意志になった。やっと、身体と意志が同じ方向で歩めている感じ。だから、「お前には強い意志があるのか」なんていちいち仰々しく自分に問いかけなくても良くなった。だってもう全部私なんだもん。

そうなるまで、私は結構時間がかかった。今でもたまに、自分の意志の弱さにへこむ。特にこの自粛生活、家にいてたくさん出来ることがあるのに、結局ドラマとか映画を貪るように見てしまう自分に苛立つこともある。きっとすごい人はこの時間も勉学に励んだり有効活用しているんだろう。でもそれができない私も、どこまでも私なんだよな。大人になると諦めがよくなるというけれど、こういうことかなと思う。ぶくぶくと肥大化する意志がだんだんと自分のサイズにおさまっていくこと。そう思うと、まだ私は大人にもなり切れていないなあと思う。

マジックナイトたちは、強い意志と引き換えに、魔法を手に入れてマジックナイトになった。私はマジックナイトにはなれなかったから、このまま大人しく大人になるまで生きていく。とりあえずカレーでも作るか。

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