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「バイオリン」とは

なんと言っても取り扱っているものですし、最初なので基本から入っていくべきかと。
ということで、岩波書店が発行している国語辞典である「広辞苑」を見てみましょう。

バイオリン【violin】
弦楽器の一。胴に4弦(E・A・D・G線)を張り5度間隔に調弦し、左手指で指板上に弦をおさえ右手に弓を持ち、弦を擦って演奏する。ビオラ・チェロ・コントラバスとともにバイオリン族の擦弦楽器で、その中の最高音域を担当。音域はG音より上方約4オクターブ。16世紀頃北イタリアで考案され、次第に改良・発達。音色が華やかで表現力に富み、独奏・合奏の中心的楽器となった。提琴。ビオロン。
「広辞苑 第五版 岩波書店」

思ったより書いてあってびっくりです。音楽に素養のある人なら大体わかりますが、結構専門用語入っているなぁと思います。
知らない人ならこれから勉強を、知っている人は復習として、身についている人はすっ飛ばして、それぞれを細かく見ていきましょう。

弦楽器の一(ひとつ)

いきなりそこから?と思いますが、基本ですから結構重要です。
弦楽器とは簡単に言えば「張ってある弦で音を出す楽器」のこと。
バイオリン以外ではギター、ハープ、二胡、箏(琴)、三味線、琵琶など。

「擦弦楽器」と「撥弦楽器」に大別できます。

擦弦楽器(さつげんがっき)
後半に出てくる語句ですが、流れで説明します。
弦を弓で擦って(こすって)連続音を出す楽器のことをいいます。もちろん擦るだけではなくて弾いて(はじいて)音を出すこともあります。
バイオリン以外ではモリンホール(馬頭琴)、二胡、ビオラ・ダ・ガンバなどがあります。

擦弦楽器
モリンホール、二胡、ビオラ・ダ・ガンバ

撥弦楽器(はつげんがっき)
ギターなどの弾いて(はじいて)音を出すのが主体の楽器のことです。中身に弦が張ってあり、それを叩いて音を出すピアノもありますが、ピアノは一般的には鍵盤楽器と呼びます。

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グランド・ピアノの内部(ベーゼンドルファー製)。中・高音部と低音部の弦がクロスしている。

胴に4弦(E・A・D・G線)を張り5度間隔に調弦し、

というのは本体のことですが、バイオリンはほぼ端から端まで弦を張ってあります。

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は音を出す元となる紐で、昔は羊の腸をよじって作ったガット弦が主流でしたが、現在ではナイロンのような合成繊維や金属を芯に使っている弦が主流です。その弦を本体に4本張って、それぞれドイツ音名で高い音の方から E(エー)・A(アー)・D(デー)・G(ゲー) に調律します。イタリア音名で言うところの mi(ミ)・la(ラ)・re(レ)・sol(ソ)、日本音名で言うとト・ニ・イ・ホになります。

音楽用語で、2つの音の高さの隔たりを「音程」と言い、その間隔を「度」と表します。5つの音の間隔を5度の音程と言い、その間隔で弦の音を調律することを「5度間隔に調弦」と言っています。

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この楽譜はバイオリンの出せる音の範囲を示したもので、左側の縦に4つ並んだ音符が調弦する音になります。それぞれの間隔を見ていくと、下から「ソ・ラ・シ・ド・レ」、「レ・ミ・ファ・ソ・ラ」、「ラ・シ・ド・レ・ミ」と5つになっているのがわかると思います。(音程は初めと最後の音も入れて数えます)

ちなみに、楽譜の一番左の記号は「ト音記号」と小学校で習うと思いますが、「バイオリン記号」とも呼ばれます。

左手指で指板上に弦をおさえ右手に弓を持ち、弦を擦って演奏する。

指板とはバイオリンの弦の下にある黒いところ。左手の指で弦を指板に押し当てて、その場所によって音の高低を作ります。

はさっき擦弦楽器の時にサラッと出てきましたが、ざっくり言うと棒に馬の尻尾の毛が取り付けてあって、右手で持ってその毛で弦を擦るものです。でも、それだけでは実は音が出ません。毛に松脂(松の樹液を固めたもの)を塗って摩擦力をつけてからでないと擦って音を出すことは出来ないのです。初心者の方が新品の弓や毛替えしたての時によくびっくりします。

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形が武器の弓に似ている、または起源が武器の弓だったからこう呼ばれる様になったようです。(諸説あり)

左利きの人も多くは右利きの人と同じように、右手に弓を持ち左手で弦を押さえて演奏しています。でも時々左利き用として左右が逆になっている楽器を作ってもらって演奏している人もいます。
この左利き用の楽器は弦が逆に取り付けてあるだけでなく、ペグの取り付け位置も逆で、弦高が違うので駒も左右逆に作らないといけませんし、バスバーも逆になったG線の下に作らないといけませんので、元々ある楽器を改造するとしても大変だったりします。なお、弓はほぼそのままで良いです。
一番有名なのはチャップリンですね。

ビオラ・チェロ・コントラバスとともにバイオリン族の擦弦楽器で、その中の最高音域を担当。

最も高音域なのがバイオリンで、最も低音域がコントラバスです。
英語(イタリア語)表記で
バイオリン Violin (Violino)
ビオラ Viola (Viola)
チェロ Cello (Violoncello)
コントラバス Contrabass (Contrabbasso)
となります。英語の語源はイタリア語で、それぞれを英語的に変化させたり、あるいは省略させたりしたのが英語の単語になっています。※Violoncelloは英語でも正式名称として通じます。

もともと中世以前、弦楽器はアラブの擦弦楽器「ラバーブ(ربابة)」が起源だと言われています。
ヨーロッパでは「ラバーブ」は「レベック(Ribeca)」という洋ナシ型の楽器や「ビトゥーラ(vitula)」というギターのような形の楽器へ変わります。「ビトゥーラ(vitula)」という名は「Vitulatio」という古代ローマで7月に行われていた感謝祭が起源です。この祭りで良く使用された楽器だったので、いつともなく「弦楽器」という意味になりました。
その後「ビトゥーラ」は「ビエッラ(viella)」に発展、それが訛って中世イタリア地域では擦弦楽器を「Viola」と読んでいました。(今のビオラとは形や大きさが違います)その後、楽器が発展していく中で形や大きさ、バリエーションが増えていって、それぞれの形が定着していきました。

命名はそれぞれ以下の様になります。
「Viola」に「小さい」という意味の接尾語「-ino」をつけて「Violino」(小さいViola)→Violin【英】
大きさが大体一緒だった「Viola」
「Viola」に「大きい」という接尾語「-one」をつけたバス担当の楽器「Violone」(大きいViola)に、さらに「小さな部屋」という意味の言葉「cella」をつけて「Violoncello」(小さいViolone)→Cello【英】
バスの音域「Basso」に「反対の(その向こう)」という接頭語「contra-」をつけて「Contrabbasso」(bassoのより低い音域)→Contrabass【英】
※b2つは誤記でないですよ

ちなみに、現在ではバイオリン族の一員にされているコントラバスは、本当の起源はビオラ・ダ・ガンバと同じビオール属です。ビオール属と同じ4度調弦と言うこともあって、「コンバスはバイオリン族ではない!」という人もいます。

音域はG音より上方約4オクターブ。

音域とは音の出る範囲のことです。G音とはバイオリンで一番低い音、先程の楽譜で一番下の音符の音です。


また、「15ma」と楽譜に書かれているところがありますが、quindicesima alta(イタリア語で「15番目まで高く」)という2オクターブ(15音)上を演奏するという表記です。これがバイオリンの音の出る範囲、約4オクターブということです。
ここまでの高音を出すのはただ指で押さえて弓で擦れば良いというような簡単なことではありません。何故かと言うと、理論的には弦というのは音を出す部分を短くすればするほど高い音が出ますが、きれいな音にするのはどんどん難しくなるので、演奏に耐えうる音にするには簡単なことではなく、「奏者の技量次第」となるわけです。
※他にもフラジオレットという技法もありますがここでは割愛します。

16世紀頃北イタリアで考案され、

諸説ある中でバイオリンの生みの親として必ず名前が上がる者が2人います。

アンドレア・アマティ Andrea Amati 1505?-1579 Cremona
ガスパロ・ディ・ベルトロッティ Gasparo di Bertolotti(Gasparo da Salòとも)1540-1609 Brescia

どちらも16世紀頃のクレモナ(Cremona)とブレシア(Brescia)という北イタリア地方の人物ですから、この二人がバイオリンを考案した最有力候補です。

二人はクレモナとブレシアにそれぞれバイオリン製作の道筋を作った人物です。どちらの街もミラノの東に位置し、ブレシアはクレモナから50kmほど北にあるイタリアの中でも大きな重要都市で、現在ではクレモナよりも大きな工業都市です。

ブレシア クレモナ

比較的近いので、当時でも情報交換はある程度あったことでしょうから、どちらかが先にバイオリンを考案したとしても、数年後にはもう一方も真似ることが出来たでしょう。そういった事情もあり、「バイオリンの考案者」という称号は、今となってはどちらとも言えなくなっています。他の人であるという説もありますし、真相は闇の中ですが、ここから発展したのだけは間違いありません。

クレモナは現在、国立の弦楽器製作学校もあり、世界的に見て最も製作家が活動している街です。しかし、ブレシアはクレモナとは違い現在はバイオリン製作で有名な街にはなっていません。(それでも製作家はいますよ。)

では何がその2つの街を分ける事になったのか、そこに至るバイオリン製作の歴史を見ていきたいと思います。

クレモナは上図を見てもらうと分かるとおり、ポー川(水色の線)流域にある町で、良質のレンガ用粘土が豊富に産出できたため、古くからレンガ・テラコッタ産業が盛んになりました。(Terra Cottaはイタリア語で「焼いた土」という意味)そこで、装飾性の高いテラコッタを作るために、木枠を作る技術が発達し、高度な木工技術が発達した事が後のバイオリン製作につながったと言われています。

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クレモナの市庁舎:窓枠にテラコッタの装飾が施されている

そして、中世からルネッサンスにかけてアラビアより様々な楽器がヨーロッパに伝来するようになります。その中に弓で弾く楽器がありました。その楽器は現在のビオラとは違って平らな表板で、リュートに近い形のものが多かったようです。その後、膨らみとくびれのある楽器が作られるようになるとそれら弦楽器を総称して“Viola(ビオラ)”と呼ぶようになり、様々な“ビオラ”へと発展していきました。

例えば、上述のViola da gamba(ビオラ・ダ・ガンバ)は「足のビオラ」という意味で、足に乗せたり足で挟んだりして演奏します。
バイオリン族になる楽器たちも接尾語などをつけて呼び分けていた事はお話しましたね。

1499年9月12日、クレモナはベネチア共和国の支配下に置かれました。統治の期間は10年間と短かったものの、この頃からユダヤ人の移住が盛んになりました。その中に古物商でリュート製作者であったジョバンニ・レオナルド・デ・マルティネンゴ(Giovanni Leonardo de Martinengo)がいたようです。

アンドレア・アマティと弟のジョバンニ・アントニオ(Giovanni Antonio)はこのマルティネンゴの弟子になっていたと1526年の戸口調査の資料で明らかになっています。

その後、アマティ兄弟は1534年にすでに工房を開いて独立していたことが古い文献の記載でわかっています。昔は「アンドレア・アマティはガスパロの弟子だった」という推測がありましたが、この資料の発見により信憑性が低くなりました。(まだこの時にガスパロは生まれていませんし、開業した後の十数年後に自分より30歳以上年下の若者に教えを請うでしょうか?可能性が無いとは言えませんが・・・)。

1540年、ガスパロ・ディ・ベルトロッティがブレシアから東のガルダ湖畔にある町、サロ(Salò:上地図参照)で誕生しました。ガスパロ・ダ・サロという通り名は「サロ出身のガスパロ」という意味です。(ちなみにレオナルド・ダ・ビンチは「ビンチ村出身のレオナルド」です)彼の家系はもともと楽器を作る家だったとも言われています。

後にこの二人は調弦が容易で、弾きやすく、持ち運びに便利な楽器、現代でいうところのバイオリンを作るようになっていきました。

アンドレア・アマティは1560~1574年の間にフランス王シャルル9世に2種類のサイズの違うバイオリン、テノールビオラ、大型のチェロなどを複数台納めています。この中の一台が「現存する最古のバイオリン」として残っているため、1550年あたりでバイオリンが誕生したと推測されています。

1568年、ガスパロ・ディ・ベルトロッティはブレシアに移住。

1575年4月26日に弟のジョバンニ・アントニオ・アマティが、2年後の1577年12月23日にはアンドレア・アマティが没しました。
息子のアントニオ(Antonio:兄)とジェローラモ(Geloramo:弟)がその工房を継ぎます。

1607年、兄のアントニオ・アマティが死去、しかしジェローラモは以後も“Antonio Amati”のラベルで楽器を作り続けています。これは当時の慣習として兄の名前が店の”商標”であったからだと言われています。

1609年にはガスパロ・ディ・ベルトロッティも死去。彼の技術は弟子のジョバンニ・パオロ・マッジーニ(Giovanni Paolo Maggini)に受け継がれます。

1630年、ミラノでのペストに対する検疫を3月のカーニバルに間に合わせるために緩めたため、ペストが大流行してしまい、北イタリア地方ではその猛威から多数の死者を出しました。ブレシアのジョバンニ・パオロ・マッジーニとクレモナのジェローラモ・アマティも同年に死去した記録があります。ブレシアではマッジーニの2人の弟子、アマティ家では息子のニコロ(Nicolo)が、それぞれバイオリン製作を引き継いでいます。

ここまではペストの大流行などはあったにせよそれぞれ製作技術の継承が細々と続いていました。しかし、ここからクレモナで大きく発展していくことになります。

ここまで、アマティ家ではバイオリン製作技術は息子達に引き継がれ、他の家の者には教えていませんでした。しかし、ニコロの代に急に多くの弟子を育てるようになっており、その中にはアントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)やアンドレア・グァルネリ(Andrea Guarneri:グァルネリ・デル・ジェズのお爺ちゃん)などを含めた10人以上の伝説的な名工を育てています。
これはニコロがペストの大流行を経験した者として、バイオリン製作技術を後世に残そうとしたからなのかもしれません。単に彼の楽器がヨーロッパで大ヒットして人手が足らなかっただけかもしれませんが・・・。

クレモナ派

でも、そういう意味では弟子を育てたガスパロ・ディ・ベルトロッティやマッジーニのいたブレシア派ほうが発展しても良かったのですが、いかんせん彼の楽器も弟子達の楽器も、バイオリンにしては大きくてビオラに近い楽器が多く、クレモナ派に比べれば当時からあまり評価は高くありませんでした。その上、弟子の数もそれほど多くありませんでしたので、ブレシアではこの後、ガスパロの技術は途絶え、誰も彼の工法で楽器を作らなくなってしまいました。
それでも、彼らの楽器は少なからずデル・ジェズなどのクレモナ派に影響を及ぼしています。(あくまで影響であって、継承ではありません)

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Giovanni Paolo Maggini c.1700

また、マッジーニの弟子と同時期にブレシアにはジョバンニ・バッティスタ・ロジェリ(Giovanni Battista Rogeri)という名工が活動していますが、彼はクレモナのニコロ・アマティから学んだ後にブレシアに移り住んでいるので、ガスパロの技術は継承していません。

アマティ家の楽器を見ると、ただ音が良いだけでなく、細部に渡って姿形も美しく作ることを意識しているのがわかります。始祖のアンドレアからその技術は見受けられ、ニコロ以下の弟子たちも、とても美しい楽器を作っています。

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Andrea Amati Violin ca. 1560 "Kurtz"

これはテラコッタの木枠で培われた木工技術とそれを取り巻く環境が大きく影響を与えたのではないでしょうか。
もちろん高い木工技術がアマティ家に伝わったかもしれませんが、それだけで数代に渡って美しく作る意識まで伝わったとは思えません。
それよりも、木枠職人たちに「楽器を作るほうが適当な技術で作れるから楽らしいぜ」なんて言われたくありませんから、いい加減な仕事が出来なかったのではないでしょうか。

事実、私がクレモナにいたときも、大工・家具職人・楽器職人などの木工に携わる中で技術の低い職人や仕事のことを、方言で「マレンゴーン」(綴はわかりませんが、たぶんMal-legno(悪い-木)みたいな感じではないかと)と冗談交じりでバカにしていましたから。

バイオリン製作がクレモナで発展したのは、ただ製作家が多くなっただけではなく、美しい楽器を作ることで、市場にも受け入れられた点が大きいのです。

次第に改良・発達。

ヴァイオリンは、他の楽器や工芸品と異なって、次々と改良を加えられて発達したものではなく、最初から、改良の余地のない完成品として生み出された。
「楽器の辞典 ヴァイオリン」

と、表現の違いはあるものの、この様によく言われます。

「じゃあ広辞苑のこの語句は間違っているじゃあないかぁ!」という人もいるかも知れませんが、まあまあ、落ち着いてください。「楽器の辞典」のほうは若干の誇張表現です。「大雑把に見れば、あるいは他の楽器と比べてみたら、ほとんど改良していないと言ってもいいくらいの完成度で誕生した。(ちょっと改造したとは言っていない)」と言っているわけです。

ではその些細な(でも些細とも言えない)改良点はどこなのか。その時代の音楽シーンも含めた歴史を見ていきましょう。

バロックバイオリン
「バロックバイオリン」という言葉を聞いたことはありますか?これはバロック時代に使用されていた状態のまま残っているバイオリンや、その当時に使用されていたとおりに復元した楽器のことを言います。

ところでバロック時代とは?

バロック時代
バロックと言われるものは1500年代末~1700年代前半に、全ヨーロッパを風靡した芸術上および文学上の様式のことです。

音楽の歴史では、劇音楽が誕生した1600年から、バッハの没年にあたる1750年までの150年ほどをバロック音楽の時代としている。
千蔵八郎著 「音楽史」

ということですから、若干時代設定は違いますが、ほぼ一緒ですね。

「歪んだ真珠」を意味するポルトガル語のbarroco(バローコ)が由来と言われています。ちなみに言い出したのは19世紀後半の研究者たちなので、当時の人達がこの時代について言っていたわけではありません。

バロックの作曲家で有名なのは、
歌劇「オルフェウス」のクラウディオ・モンテベルディから始まり
バイオリン協奏曲集「和声とインベンションの試み」第1番~第4番《四季》のアントニオ・ビバルディ
有名な曲が多すぎますがバイオリンならば「無伴奏バイオリン ソナタとパルティータ」のヨハン・ゼバスティアン・バッハ
オラトリオ「メサイヤ」のジョージ・フレデリック・ヘンデル
などなど、みなさんも一度は聞いたことのある曲を書いた人たちばかりです。

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ビバルディとされる絵 F. M. La Cave作(1723年)

で、話を戻すと、つまりはバッハたちの生きていたバロック時代、1600~1750年頃に使われていたバイオリンのことです。そして、おわかりの方もいらっしゃるかもしれませんが、バイオリンが誕生し、クレモナで発展した頃の時代でもあります。(A. ストラディバリが死んだのは1737年)

つまり、最初に考案されたバイオリンはバロックバイオリンなのです。

現代のバイオリンを「モダンバイオリン」と区別して呼ぶのですが、わざわざ、「バロックバイオリン」と「モダンバイオリン」を区別しているその理由は、当然ながら“違う楽器だから”です。ではどこが違うのか、具体的に見ていきます。

バロックモダン断面説明入り

(わかりやすくするためG線の下にあるバスバーも表示しています。)

バロックバイオリンの特徴
・ネックが短くてまっすぐに取り付けてある、その上釘で固定してある。
・指板は軽くするため2種類以上の板を合わせて作られ、短く、傾斜を大きくしてある。
 ↑ネックが真っ直ぐに付いているので、指板を斜めにして駒の高さを作っています。
・バスバー(表板の内側にある梁のようなもの)が短く、低い。
・駒、テールピースなどの使われている部品のデザインが違い、顎当てがない
・弦が裸のガット弦で尾止めも裸のガット紐。
・使用される弓が武器の弓のようにスティックが膨らむように曲げて使うもの。
などなど、細かく言うと他にもあるのですが、だいたいこんな感じです。

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バロックバイオリン Masahiro Ikejiri 2017

いろいろ違いがありますが、本体部分はバスバー以外全く同じもので、実際に今でも第一線で活躍中のトップバイオリニストが使用しているストラディバリウスやデル・ジェズなどの楽器は、初めはバロックバイオリンとして製作されたものをモダンバイオリンに改造しています。このことから、「最初から、(本体は)改良の余地のない完成品として生み出された。」と言われたりするわけです。(改造してるけどね)

さて、形や構造はわかりました。では実際に演奏したらどうなのか?となりますね。

バロックバイオリンはネックが短いので弦長(ナットから駒までの弦の長さ、つまり音を出す部分)も短くなります。弦長が短いと弦の張りが弱くなるので、音量も小さくなります。またその上、弦に裸のガットを使っているので、更に音は小さくなります。しかし、その分優しく温かみのある音になります。

バロック時代では音楽シーンは室内楽が主流でした。つまりどんなに大きな部屋であっても宮殿の食堂や教会です。また、宮廷では音楽は主役ではなく、舞踏会や宴会でのBGMという脇役であることが多く、広い場所でも大音量は必要ありませんでした。むしろ当時は「バイオリンのような甲高いうるさい楽器・・・」とまで言われたくらいですから、優しく、美しい音が好まれました。

古典派の時代(だいたい1760-1830年ごろ)
時代は下っていき、18世紀末のフランス革命などで貴族の没落が始まりましたが、急激に変化したわけでもなく、まだまだ宮廷での演奏活動というのは残っていました。

そんな中、徐々に大衆の力が増してきて音楽家も貴族に頼らなくても良くなっていく時代になります。ハイドンは引退するまで宮廷楽長でしたが、モーツァルトは亡くなる年に大衆向けのジングシュピール「魔笛」を作曲しています。ベートーベンに至っては貴族との繋がりを嫌っていたくらいで、大衆向けに演奏したり作曲したりするだけで収入が得られるようになっていました。つまり、聴衆の主役は貴族から大衆へと移っていったわけです。

しかし、大衆というパトロン(後援者)は貴族と違って同額を集めるのにも多人数が必要になります。必然的に演奏される場所が沢山の人たちを収容できるホールへと移っていきました。また、ベートーベンの交響曲を聞いたことがある方はわかると思いますが、劇的でダイナミックな曲が好まれるようになってもいきました。

人数で補うにしてもステージ上は限界があり、そうなるとそれぞれの楽器に音量が必要になってきます。

この時代にバイオリンはモダンへの改造が進むのですが、それは音楽界の変化と同様、少しずつ、特定の誰かが全てを行ったのではなく、様々な人物が色々な部分を改造しています。特に、製作家や修復家だけでなく、顎当てを発明したと言われるバイオリニストのシュポーア(L Spohr 1784-1859)などのように演奏家も大きく関わっていき、古典派の終わり頃に一応の完成をみたようです。

特にフランスで大きく改造が進み、パリの楽器商で製作家でもあったヴィヨーム(Jean-Baptiste Vuillaume 1778-1875)が大きく貢献しているとされています。実際に彼ははじめからモダン仕様でバイオリンを作り始めたひとりでもあります。

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Vuillaume, photo 1860, Moulin workshop

また、ヴィオッティ(G B Viotti 1755-1823)というイタリア人のバイオリニストは、フランスを訪れた時に弓製作者であるタート(トルテとも、F X Tourte 1750-1835)に出会い、共に研究を重ねて現代のような凹型の弓を開発しました。

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この弓とモダン仕様の楽器によって演奏技術は飛躍的に向上し、バイオリンは独奏楽器としての時代も迎えていきました。

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モダンバイオリン(現在の一般的なバイオリン) Masahiro Ikejiri 2018

このような変遷を経て、バイオリンは改良・発達してきました。

生まれた当時はそこまで花形ではなかった楽器が、音楽シーンなどの要望によって改造され、クラシック界には無くてはならない「楽器の女王」へと変化して来たのです。

音色が華やかで

高音域の楽器なので華やかになるのは当然としても、ピアノやギターはなんとなく哀愁を感じる音ですから、それに比べるとバイオリンは華やかな印象です。
同じ弦楽器のギターと違うのは弓で弾くところが一番大きいですから、やはり弓で音を出すことによって華やかになるのでしょうか。

表現力に富み、

バイオリンは指板にギターなどで使われている「フレット」という音の高低を決めるものが無いので、音の高低を決めるのは演奏者(バイオリニスト)自身になります。

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もっと細かく言うと、ピアノやギターは鍵盤の音やフレットの幅が決まっていますので「ド」と「ド♯」の間の音は出すことが出来ません。しかし、バイオリニストは調弦が正しいままでも、指で押さえる位置を変えることで「ド」と「ド♯」の間の音を出すことが出来るのです。(ピアノやギターは調律を変えない限り不可能です)

その上、弓で引くバイオリンは音を出している途中で音量を上げることも可能です。(これも電気的に拡声しているものを除いて、ピアノやギターには不可能です。)

音の高低を微妙に変えることが出来、発音途中で音量も自由自在に変えることの出来るバイオリンという楽器は、この「融通さ」によって豊かに音楽を表現出来るのです。ただし、その分演奏技術を習得するのはとても難しくなるので、神童などの例外を除いてきちんと演奏できる様になるには数年間に渡る練習を費やさないといけなくなります。

独奏・合奏の中心的楽器となった。

事実、クラシック界で独奏(ソロ)楽器としてはピアノと並んで最も使用される楽器であり、合奏(室内楽やオーケストラ)でもファースト・バイオリンのパートが曲の重要な旋律を担当することが多いです。

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MSG Laura Knutson, concert master of The U.S. Army Orchestra

提琴。ビオロン。

日本語ではバイオリンのことを「提琴」とも呼んでいました。「提琴」という楽器は、もともとは中国の擦弦楽器で二胡の大型版のような楽器だったようです。中国国内ではバイオリンのことを「小提琴」と訳すようなので、ここを起源に日本も「提琴」と呼ぶようになったのかもしれません。

ビオロン(Violon)はフランス語の日本語変換のようです。

現在ではそれぞれこの呼名を知っている人も少なくなっています。

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いかがだったでしょうか。
案外掘り下げると深い内容になって自分でもびっくりです。ここまで長くなると思っていませんでした。

出典・参考文献
Wikipedia
ヴァイオリン
ヴィオラ・ダ・ガンバ
モリンホール
二胡
ギター
ピアノ
Andrea Amati
Gasparo da Salò
Giovanni Paolo Maggini
Peste del 1630
Anton Domenico Gabbiani
barocco
Jean-Baptiste Vuillaume
Google map
岩波書店: 広辞苑 第五版
小学館: 伊和中辞典 第2版
株式会社教育芸術社: 千蔵八郎著 「音楽史(作曲家とその作品)」 第35版
音楽之友社: 音楽中辞典 第31版
音楽之友社: クリストファー・ホグウッド著 吉田泰輔訳 「宮廷の音楽」 第1版
レッスンの友社: 神田侑晃著 「ヴァイオリンの見方・選び方 基礎編」
(株)ショパン: 楽器の辞典 「ヴァイオリン」 増強版 第2刷
Novecento: Marco Vinicio Bissolotti著 川船緑訳 「クレモーナにおける弦楽器製作の真髄」
Cremonabooks: Andrea Mosconi著 「Gli Strumenti di Cremona Il Palazzo Comunale la Collezione di Strumenti ad Arco」
Cozio: 「FOUR CENTURIES OF VIOLIN MAKING  FINE INSTRUMENTS FROM THE SOTHEBY’S ARCHIVE」
A BALAFON BOOK: 「THE VIOLIN BOOK」
Fondazione Antonio Stradivari: 「ANDREA AMATI OPERA omnia LES VIOLONS DU ROI」
W. Lewis; Library ed edition: JOSEPH RODA著 「BOWS FOR MUSICAL INSTRUMENTS of the Violin Family」
日立システムアンドサービス 百科事典マイペディア 電子辞書版2002-2004

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