IKEJIRI Violin Works

イタリア・クレモナで修業した職人が、愛知県一宮市でバイオリン・ビオラ・チェロの製作を行…

IKEJIRI Violin Works

イタリア・クレモナで修業した職人が、愛知県一宮市でバイオリン・ビオラ・チェロの製作を行っている工房です。 http://rearpond.mystrikingly.com/

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-弦楽器製作技術研究室- Laboratorio di Liuteria

池尻弦楽器工房というバイオリン属専門の製作工房を開いた時に、2018年から専用サイトとブログをほぼ毎週連載してきました。 そこでの記事をデータの分散保存も兼ねて再編集したものをnoteに月一くらいで投稿しています。 ということでまずは自己紹介を。 今は名古屋市にある楽器技術の専門学校で講師をしている傍ら、自宅でバイオリン属の楽器を製作しています。製作した楽器は年に一回、日本弦楽器製作者協会の主催する「弦楽器フェア」に出展しています。 初めは日本の製作学校を卒業して4年

    • Antonio Stradivariの肖像画

      バイオリンの最も価値のある楽器はAntonio Stradivari(アントニオ・ストラディバリ)の1716 年作、"Messiah"だと言われています。 彼は死後、伝説的な名工として後世に語り継がれてきました。 そしてその中には楽器製作技術だけでなく、彼の人生も研究対象とされました。 そういった中で、後に彼を想像していくつかの肖像画が描かれることになるのですが、今回はそれを見ていきたいと思います。 William Harry Warren Bicknell まずはお

      • 振動する紐

        楽器は様々なものを振動させて音に変えています。 まあ、もともと音そのものが空気の振動ですから、何かを振動させて空気を震わせることが出来れば楽器が出来ます。 太鼓は膜を叩いて(振動させて)音を出し、 サックスはリードを震わせて音を出し、 トランペットは唇を震わせて音を出しています。 その振動するものを紐(弦)にすると、弦楽器になります。 今回はその弦についてお話していきます。 みんなが使っている弦 バイオリン属の弦には大きく分けて3種類あります。 ガット弦 ス

        • 演奏スタイルの歴史③ そして現代へ

          これまでで、バイオリンは胸や肩に乗せて演奏するスタイルだったのが、18世紀の初め頃から顎で挟む方法へと変わってきたことをお話しました。 楽器を挟む場所 1750年頃には、ある程度の演奏家は楽器を顎で挟むスタイルを採用していたことはわかってきましたが、まだ顎で挟むのはE線側、つまり現在とは反対側の位置を挟んでいたようです。 実際にその頃からE線側を挟んでいる絵が現れだします。 かといって、みんながみんなそのスタイルを取り入れたわけではなく、昔ながらのスタイルで演奏した人も

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        -弦楽器製作技術研究室- Laboratorio di Liuteria

          演奏スタイルの歴史② 教則本

          演奏法の歴史を考察していますが、絵画に続いては教則本を見てみたいと思います。 バロック時代の終わりには教則本を出した2人のバイオリニストがいます。 The Art of Playing on the Violin まずはイタリア人で、イギリスのロンドンやダブリンで活躍したジェミニアーニ(Francesco Xaverio Geminiani 1687 – 1762)です。 Andrea Soldi "Francesco Xaverio Geminiani" circa

          演奏スタイルの歴史② 教則本

          演奏スタイルの歴史① 絵画から見る構え方

          顎当てのお話の時にバロック時代は顎当てが無いどころか構え方が違うことをお話しました。 そこで、今回からバイオリンの構え方について考えてみたいと思います。 誕生したときのバイオリンまずはバイオリンが誕生したバロック時代から始めようと思いますが、楽器の構え方の前に当時の楽器であるバロックバイオリンをおさらいしたいと思います。 一般的に現在使用されているバイオリンは「モダンバイオリン」と呼ばれ、バイオリンが生まれたばかりの頃であるバロック時代の時とは下図のような違いがあります

          演奏スタイルの歴史① 絵画から見る構え方

          フィッティングパーツ ③ 顎当て

          顎当ては文字どうり顎を当ててバイオリン・ビオラを保持する部品です。 この顎当てが無いと楽器を構えることすら出来ないとお思いでしょうが、実はバイオリンには元々「顎当て」はありませんでした。 Evaristo Baschenis (1617 – 1677) ではどうやって演奏していたのかと言うと、胸に乗せたり、鎖骨に乗せたりしていたようです。 Jan Miense Molenaer (1610-1668) Leopold Mozart: Grndliche Violin

          フィッティングパーツ ③ 顎当て

          フィッティングパーツ ② 弦を留めるもの

          テールピース前回まで見てきたペグは歴史的にはほとんど変わってきませんでしたが、テールピースはバイオリンが生まれてから必ず使用されてきた部品でありながら形は変わってきた部品です。 テールピースは本体と弦をつなぎ留める役割の部品で、初期のものは装飾を除けば板に弦や紐を通すための穴を開けただけのようなものでした。 Evaristo Baschenis 1617–1677 バロックバイオリン用のテールピース 弦もテールガットも穴に通して結んであるだけ バロック時代の弦はただの

          フィッティングパーツ ② 弦を留めるもの

          フィッティングパーツ ①

          前回、フィッティングパーツに使われる材料のお話もしましたが、ペグとかテールピースとか、バイオリンを演奏出来る様にするために必要なパーツたちを総称してフィッテイングパーツと言います。 現在の楽器製作家(楽器メーカー)は、専門メーカーが作ったほぼ出来上がったフィッティングパーツを購入し、加工して楽器に組み付けている場合がほとんどです。 ところがこれは近年の事で、18世紀頃までは製作者がフィッティングパーツなども含めた、バイオリンに関するものはすべて自分で製作している事のほうが

          フィッティングパーツ ①

          バイオリンは何で作られているか

          バイオリンは何で作られているかと問われると、ほとんどの人が「木」と簡潔に答えられるでしょうが、どんな種類の「木」なのかと言われるとはっきりとは知らない人が多いのではないでしょうか。 今回はこのバイオリン製作に使用される「木」についてお話していきたいと思います。 美しい木材バイオリン本体には主に2種類の木材が使用されています。 それは メイプル 【英】maple 【伊】acero スプルス 【英】spruce 【伊】abete rosso です。 その中でも表板とバスバ

          バイオリンは何で作られているか

          楽器の選び方

          今回のお話は楽器(バイオリン族)の選び方についてです。 私はどちらかといえば選ばれる側にいますので、無意識に都合のいい話になっているかもしれませんので、まあ、話半分で聞いてください。 楽器選びで大事な事皆さんは楽器を選ぶ時、どうしていますか? 楽器店に行って、予算に見合う楽器を見繕ってもらって、試奏して、店員さんや先生や友人などにアドバイスを貰いながら良さそうなものを選ぶ・・・ こういった感じだと思いますが、その中で一番重要で見落としてはならない事があると私は思ってい

          楽器の選び方

          楽譜の歴史

          以前の投稿、「リュートを作る人と呼ばれて」で 「中世初期では彼ら吟遊詩人は音楽や歌詞、物語を口伝で伝えていたため楽譜は残っておらず、14世紀頃になってタブラチュアという弦のどこを押さえるかを記述した違う形の楽譜が生まれた」 とお話ししました。 そのタブラチュアとは何か、音楽中辞典によると・・・ タブラチュア tablature[英] 記譜法の一種。音符を使用せずに文字や数字や記号を用いて、楽器の奏法を示す。ヨーロッパでは15世紀から17世紀にわたって盛んに使用されたが

          リュートを作る人と呼ばれて

          イタリア語ではバイオリン製作家を「Liutaio(リュータイオ)」と呼びます。 その語源はLiuto(リュート)に-aio(ーの場所や労働者)という接尾語をつけて「リュートを作る人」です。 リュートとは、ギターなどの發弦楽器の仲間で、正面から見ると日本の「琵琶」という楽器のような形をしていますが、胴が琵琶と違い丸く膨らんでいる楽器です。 Michelangelo Merisi da Caravaggio 『リュートを弾く若者』 1600年頃  この人物が弾いている楽器が

          リュートを作る人と呼ばれて

          私のバイオリン製作者への道

          前回バイオリン製作家になる方法というか入門方法をお話ししたので、せっかくだから私のこの世界に入った時の事や留学体験記などをお話ししていこうかなと思います。 私がバイオリン製作者を目指したわけ まず、なぜこの道を目指すことになったのかをお話ししないといけませんね。 私は中学校の時に吹奏楽部に入部していました。担当楽器はパーカッション(打楽器)です。 その頃はもう打楽器の演奏が楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。 高校に入ってからも吹奏楽部に入部したのですが、兄がギターを

          私のバイオリン製作者への道

          バイオリン製作家になるためには

          職業としてバイオリン製作家になりたいという方はいらっしゃることでしょう。 現在はインターネットで検索すればある程度の製作方法を知ることが出来ますが、きっかけがわからない方もいらっしゃるでしょうから、私がわかる範囲での方法をご紹介します。 まずバイオリン製作の道に飛び込むためには 日本の学校に通う 留学する 製作家の弟子になる 専門店に就職して修理人になる(その後開業) 楽器メーカーに就職して職人になる 独学で勉強する といった方法があるのではないかと思います。 それ

          バイオリン製作家になるためには

          楽弓の貴重な材料

          楽弓に使用される材料は多くが希少かつ貴重な材料で製作されていて、楽弓はまるで宝飾品のようです。 みなさんがこれを聞いてすぐに思いつくのが金属部分ではないでしょうか。 安価な楽弓は金属部分を銀色のニッケル合金で作られていますが、個人製作家の作ったものや高級品、骨董価値の高い楽弓などには、銀色の金属は文字通り「銀」が、金色の金属は文字通り「金」が使用されています。 これらの金属が希少価値が高く、宝飾品に使用されていることは今更ながら説明する必要はないでしょう。 しかし、金

          楽弓の貴重な材料