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-弦楽器製作技術研究室- Laboratorio di Liuteria

池尻弦楽器工房というバイオリン属専門の製作工房を開いた時に、2018年から専用サイトとブログをほぼ毎週連載してきました。

そこでの記事をデータの分散保存も兼ねて再編集したものをnoteに月一くらいで投稿しています。

ということでまずは自己紹介を。

今は名古屋市にある楽器技術の専門学校で講師をしている傍ら、自宅でバイオリン属の楽器を製作しています。製作した楽器は年に一回、日本弦楽器製作者協会の主催する「弦楽器フェア」に出展しています。

初めは日本の製作学校を卒業して4年間都内の楽器店でバイオリンの修理を生業とした後に、イタリアのクレモナという街でバイオリン製作を7年間学びました。
2014年に帰国、専門学校の講師になって、2018年5月に自宅で開業し、2018年11月からブログを連載しています。

そのブログでは、私がイタリア留学中や帰国してから身に着けた、技術・知識そして研究したことを綴っています。

ブログの題名は
「-弦楽器製作技術研究室- Il Laboratorio di Liuteria」
という題名にしました。

そのLaboratorioとLiuteriaという言葉、イタリア語です。
読みは「ラボラトリオ」と「リィウテリア(リューテリア)」。
イタリア語は、ほぼ日本語で言うところのローマ字読みをします。
ローマはイタリアにありますし。

では、意味するところは。

「ラボ」という言葉は英語でも聞いたことがある人がいるかもしれません。そう、「研究室」の意味があります。イタリア語では「工房」も意味します。(正確にはLaboratorio Artigianale「工芸工房」の略です。)
クレモナではみんな工房の事を「ラボ」と呼んでいます。イタリアの弦楽器製作者が着る作業着はエプロンではなく白衣ですので、研究室と工房は同じ認識なのかもしれません。

Liuteriaは弦楽器工房や弦楽器製作技術の事を指します。その語源はLiuto(リュート)に -eria(商店・製造所)という接尾語をつけて「リュート製造所」となりますが、それが転じて「リュートを作る技術」にもなりました。

リュートとは、ギターなどの弦を弾いて(はじいて)演奏する發弦楽器の仲間で、正面から見ると日本の「琵琶」という楽器のような形をしていますが、胴が琵琶と違い丸く膨らんでいる楽器です。

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Michelangelo Merisi da Caravaggio『リュートを弾く若者』 
この人物が弾いている楽器がリュート

弦楽器製作家の事はLiutaio(リュータイオ)と言います。英語やフランス語でも弦楽器製作家の事をluthierと言うことがありますが、イタリア語が元になっています。(Violin Makerの方が一般的ですが。)
その語源はLiuto(リュート)に-aio(ーの場所や労働者)という接尾語をつけて「リュートを作る人」です。

ん?バイオリン製作者はリュートも作ってるの?

と思われるかもしれませんが、現在のクレモナにいるLiutaioはほとんどの人がリュートは作っていませんし、作り方を知らない人も多いです。(作っている人もいます)

じゃあ、なんで?

それは、Liutaioという言葉がバイオリンが生まれるルネサンス時代以前の中世からの言葉だからです。
その当時、弦楽器と言えばリュートで、弦楽器製作家と言えばリュートを作る人だったからなのです。

じゃあ、バイオリンを作り出した時に Violino + -aio = Violinaioとかの言葉を生み出せばよかったのにと思いますが、それはバイオリン製作が専門になっている現代の考えに基づきます。

バイオリンが生まれた15世紀頃はまだリュートのほうが人気があり、弦楽器製作家は他にもハープやマンドリン、ギターの原型となった楽器なども作っていました。
実際、バイオリンが生まれてから100年近くたった後の製作家であるアントニオ・ストラディバリ(Antonio Stradivari)であっても、バイオリン族以外にハープやギター、リュートなどの他の楽器を作っています。

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Antonio Stradivariが作ったバイオリン属以外の楽器の例

なので、リュートを作っていた人がだんだんとバイオリンを作り始め、今となってはバイオリン製作の方が人気があるので、Liutaioがバイオリン製作家を意味するようになったのです。
と言うよりはイタリアではギターを製作する人のこともLiutaioと呼びますから、バイオリン製作家というよりは”弦楽器製作家”というもっと広い意味合いが強いのです。


こんな感じで、バイオリンの事、イタリアの事などを記事にしていきます。

私が留学した街クレモナは、最も偉大なバイオリン製作者と言われるアントニオ・ストラディバリが生まれ、活動した街です。

この連載では一般的に言われるストラディバリについての誤解などもお話ししていきたいと思います。また、バイオリンの製作に関して少し専門的なお話もしていきます。

出典・参考文献
Wikipedia 「ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ
the Strad 「CREMONA 2019」
Eric Blot Edizioni Simone Fernando Sacconi著 「THE "SECRET" OF STRADIVARI」

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