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【エッセイ】試写室の女

 創作大賞2023に応募している「間宮さとるのスランプ」の応援ありがとうございませす。第1話、第2話が70スキ💖超えましたので、応援感謝企画のエッセイです🙇‍♀️。本当に有難うございます。100目指しますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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 本日第6話を更新しました↓↓↓

 第1話はこちらから↓↓↓


 以前映画の試写会に当選したときの話。陽が沈んだ頃、友だちと東銀座にある会場へ行ったのだが、場所を探すのに手間取った。ようやく探し当てた場所は映画館ではなく本当に試写室だった。

 ビルの谷間の細い路地の奥の暗がりに女性三人くらいが並んでいるのが見えたので路地に入ってその三人の後に並んだ。入口に配給会社から「六時半に解錠するので目の前のエレベータに乗って地下一階に降りて下さい」という案内が貼ってある。

 待っている間に後ろにどんどん人が並び始めた。
 
 さて、六時半になると自動で鍵が開き中に入った。小さいビルなので狭いロビーにエレベータは一基のみ。わたしと友だちを含めた先頭の8~9人くらいが第一陣としてエレベータに乗った。 

 地下一階に着いて、エレベータのドアが開くと狭い廊下の先に受付の机が置いてあるのが見える。
 エレベータを降りてそのままゾロゾロと狭い廊下を歩いて試写室の前に並んだ。ここでさらに待つようだ。ほどなくして後続集団もエレベータに乗って降りて来て、後ろに並び始めた。

 さて、事件はここから。
 
 地上の裏口に並んでいたときの先頭の女性三人組がエレベータに一番最初に乗ったため、結果的に最後にエレベータを降りることになり、受付前で先頭集団の最後尾に着くことになったのだ。ちなみに私と友達は真ん中だったのでポジションは変わらず。

 受付に並んだ直後から背後でブツブツ念仏のような声が聞こえ始めた。その声はだんだん大きくなり、ついには

「えー、なんで? なんでうちらが一番後ろなの? おかしくないですかぁ~」とハッキリ聞えるまでになった。

 わたしもこの不公平さには気づいていて、ああ、やはり腹を立てたんだなと思った。チラッと後ろを見ると二十代半ばの女性二人とかなり年上の女性一人という謎の組合わせの三人組。

 その一番年長のニット帽を斜めに被った女性が恨み節を唱えている。連れの若い女性がそのニット帽の女性を宥めたが「なんで? 納得できない。皆さん、何とも思いませんかぁ~」とさらに声高に聞こえよがしに言う。

 「先頭にどうぞ」といいたいが、わたしは先頭にいるわけではないので先頭の人たちがどう思っているか分からないから勝手に行かせるわけにもいかない。どうしようと思っていたら、ニット帽の女性はさらに続ける。

「みなさん、何とも思いませんかぁ~? みなさんの良心に聞きたい」と。

 選挙か。

 これをダミ声で何回も言って来るのだ。しかしあまりにも度が過ぎるので腹が立ってきた。
 この女性が理不尽を訴えるのは分かる。しかし、成り行き上この並びになっただけで誰も彼女たちを押しのけて前に出たかったわけではない。

 そんなにいうのであれば、嫌味を言う前にひとこと「先に並んでいたので、前に行ってもいいですか」と言えばよいではないか。どっちにしても席はあるのだから誰も我先に前に行こうとは思っていなかったのだ。良心がどうのといわれる覚えはない。

 またチラッと後ろを見ると連れの若い二人はいたたまれず黙り込んでいる。そして何度目かの「みなさん、なんとも思いませんかぁ? 皆さんの良心に聞きたい」の後でついにわたしは振り返って冷静にいった。

「どうぞ。前に行って下さい」

 途端にわたしたちの前にいた人たちが一斉に振り返って「どうぞ。どうぞ」と前に行くように花道を作って勧めた。ダチョウ倶楽部のように。みんな聴こえていてどうしようかと困っていたらしい。

 こちらが喧嘩腰で言い返してくることを予想して待ち構えていたと思われるニット帽の女は、丁重に譲られたので拍子抜けしたように「え?」という表情に変わった。連れの二人はというと、そっぽを向き他人の振りをして援軍は望めない。

 するとニット帽の女はばつが悪かったのか、アイーンのように下顎を突き出しながら「もう遅い。もういいで~~す!」と言い放ったのだ。

 人生で一番長い「で~~す!」だった。
 カチン!と来た。
「もう遅い」とは何事か。

「んじゃあ、なんでそこまでブツブツ嫌味を言ったんじゃ! そっちが良くてもこっちがようないんじゃ! 前出ろや!」

 と心の中で怒鳴りつけたが口には出さなかった。

 その後ニット帽の女は静かになり試写室の扉が開き、試写室内に入った。案の定、席はどこでも自由に座れたし三人組は前の方に坐っていた。わたしはあまりにも不愉快で映画が始まってもしばらく怒りが収まらなかった。
 おかげで何の映画を見たかは覚えていない。

 おわり


 は~い、みなさん。読んでいただきありがとうございます。

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池田クロエ
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