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リニア新幹線が出張の楽しみを奪う!?
私が会社勤めをしていた頃、東京・大阪間を出張で頻繁に往復していた。当時で、片道3時間半の新幹線の旅。
朝早い時は、駅のホームで駅弁とお茶を買って乗り込み、ちょっとした旅行気分を楽しんでいた。3時間半の旅は、結構ゆったりとできる。
駅弁をゆっくりと味わい、しばし車窓の景色を眺めた後、文庫本などを取り出し、日頃はあまり読めない小説やエッセイをじっくり堪能する。3時間半は、少し居眠りをする時間さえ残してくれていた。
私は、移動中に仕事をしない主義なので、まったくの旅行となっていた。日帰りが多かったので、帰りは夜になるのだが、そこにも楽しみは残されていた。
駅弁と缶ビールである。疲れた身体に、「プシューッ!」は心地良い。やたらと旨い。これがあるから、出張も苦にはならなかった。
数多くの中から選んだ駅弁を、心の声で批評しながら、ビール片手に口へ運んでいく。実に楽しい。“至福の刻”とは、こういうことを言うのだろう。
私が新幹線で思い出すのは、この3時間半の旅である。
リニア中央新幹線ができると、東京(品川)・名古屋間が40分で行き来できるという。大阪まで延伸すれば、東京・大阪間は67分になるらしい。驚異的な速さである。
たった1時間では、旅行気分にはなれない。駅弁は食べられても、私が本を読むスピードでは、1冊の本は読み切れない。居眠りもできない。
1時間で着いてしまうので、朝早く家を出る必要がなくなるので、駅弁を買うこともなくなる。帰りが夜になっても、ゆっくりと駅弁とビールを楽しむ時間もなく、到着してしまう。
夜遅い電車に乗ると、到着が夜中になってしまうので、今日はホテルへ泊まろう。ということもなくなるので、飲み屋めぐりもグルメ探訪もできない。
これでは、まったく楽しくない。出張の楽しみがなくなるではないか。リニア新幹線ができると、出張を“旅”として楽しむことはできなくなる。単なる“移動”となってしまう。
スピードアップのメリットもあるだろうが、何だか味気ないと思うのは、感傷的過ぎるのだろうか。
「便利になる」。ただそれだけを追求して良いものか。「現状」を維持するのは、イケないことなのか。進歩するばかりが、日本のためになることとは思えないのだが……。
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