見出し画像

自閉症のエピジェネティクス①:環境要因について考える

前々稿、前稿と『遺伝子と環境の気になる関係』を見てきました。(下記記事)

〈参考記事〉
遺伝子と環境の気になる関係①:エピジェネティクス
遺伝子と環境の気になる関係②-1:環境への適応
遺伝子と環境の気になる関係②-2:体質と発達

私たちは、遺伝子にすべて規定されているわけではなく、環境の影響も強く受けて、柔軟に変化しながら生きていると、なんとなくでも理解できたでしょうか?

その中で、双子研究に触れましたが、今回は自閉症(ASD:自閉スペクトラム症、自閉性障害などを含む)の双子研究について、もう少し詳しく見てみます。

双子研究とエピジェネティクスについて、こちらの本はとても面白かったです。

この記事は、公式ブログ(2020.10.21)のものを、一部改変し転載しています。

自閉症の双子有病率

上で紹介した本の中には、双子研究での自閉症一致率は一卵性双生児、二卵性双生児、同胞について、以下のように記載されています。(研究によって多少のばらつきはあり)

一卵性双生児一致率     : 約60%
二卵性双生児一致率     : 約40%
同胞一致率         : 約10~20%

カナー型一卵性双生児一致率:約90%

カナー型自閉症とは、20世紀前半、精神科医カナーが報告した世界初の自閉症病態で、明確に自閉症の3つ組兆候や知的障害を有する病態です。現在の分類基準では、自閉症圏の病態のタイプ分類をしていませんが、自閉症としての最重度の病態を表すものとして、よく使われていた概念です。

この「カナー型自閉症」の一卵性双生児一致率については、以前小児科学会の講演できいたもので、´90年代の研究で、約90%ということでした。
ちなみに、私が双子研究について興味をもったのは、この講演がきっかけです。

この数字の読み方について考えてみます。

●  双生児(同胞)一致率とは、親から遺伝する確率ではなく、双子やきょうだいが生涯で同じ疾患になる頻度をみたものです。

●  上3つの「自閉症」とは、カナー型からもっと軽度のもの(以前の分類でPDD-NOSやアスペルガー障害と呼ばれた病態)までを含む概念で、およそ現在のASD:自閉スペクトラム症と同じ、と考えることができます。

●  一卵性双生児一致率が60%ということは、それなりに遺伝子の影響をうけていそうですが、高い遺伝率とはいえません。

●  片や、カナー型自閉症は一卵性双生児一致率が90%とかなり高率です。「自閉症は遺伝性の疾患」と言われるようになったのは、このあたりから来そうです。
しかし、ここで注目したいのは、確かにかなり遺伝要素は大きいのですが、100%ではない、ということです。
つまり、カナー型でさえも、環境の要因によって病態を改善する余地があるということです。

●  二卵性双生児と同胞は、遺伝的には「同じ両親から生まれた別の遺伝子を持つ子」として同じです。違うのは、胎児期の環境(妊娠期の環境)を共有しているかしていないか、です。

それを踏まえて、一致率をみてみると、二卵性双生児の一致率の方が高そうなのです。これは、一概に比較できる数字ではないのですが、微妙な差というものではないことは、注目に値します。
胎児環境を共有している方が自閉症の発症が一致しやすい、遺伝要因に加えて胎内要因が大きい可能性があるのです。
ただし、双子(以上)の場合は、母胎内での血流の不均衡など、単胎にくらべ胎児発育に影響する要素もあり、低体重で生まれる率も高くなります。そのあたりは、割り引いて考えないといけないかとは、思います。

自閉症は遺伝の影響をうけるとはいえ、環境要因の影響もそれなりに大きい、そしてそれは、カナー型自閉症でさえも例外ではないことが、わかりました。
また、妊娠期の胎内環境の影響が想像以上に大きそうなことも、わかりました。

双子有病率からみる、自閉症の環境要因とは

子ども(の発達)に対する、「環境」とはなにか具体的に考えてみます。

勘違いしがちかもしれませんが、この場合の環境とは「自然環境」のことではありません。公害とか植物とかのことを言っているのではないです。

精神医学的なアセスメントとして考える「環境」は、その人をとりまく状況のことを言います。
自然環境もその状況の一部ですが、それ以上に、家族、職場、友人などの対人環境や、金銭的、心理的余裕などのストレス関連因子、居住地域の政治経済事情など、すべての状況が「環境」となります。

子どもにとっての環境要因の最大は「親」

当たり前だと思いますが、子どもについていうと、幼少期ほど親の影響を強く受けます。
親子の関り(親の精神状態)や、育児スタイルの影響が大きくなるし、「何を食べているか」もかなり大きな環境要素となります。
子どもは、何を食べるか自分で選ぶことはできません。また、胎児にとって胎盤を通じて得られる栄養素とは、母親の食べたものに100%依存します。

もちろん、何を食べるかと、親自身の環境(精神心理状態や経済事情、社会情勢など)とは無縁ではありません。親だけの努力でどうにかなるものではないことは、よくわかります。
でも、あえて言います、小さければ小さいほど、子どもにとって親の要因は大きい、食べ物に至ってはほぼ100%です。

自閉症は親のせい?は否定されていますが…

前世紀のアメリカなど、「自閉症は親が原因」と言われた時代もありましたが、現在それは否定されています。上に書いたとおり、遺伝の影響がそれなりに大きいことと、親もまた環境要因から無縁ではいられないから、です。

でも、だから親に何もできないわけではありません。

むしろ、子どもにとっての環境を変えていけるのは親だけです。そのことの自覚を持ってほしいです。
だたし、すべてに完璧を求めることはお薦めしません。できるところから、少しづつ取り組んでみましょう。

始めの一歩は、たんぱく質をしっかり満たすことです。コミュニケーションスタイルや生活環境を変えるより、食べ物を変える方が少し楽です。
下のリンク記事に書きましたが、たんぱく質の消化はそれまでの食事に「適応」しているため、いきなり増やしてもうまくいきません。
気が付いたときから、少しづつ盛るようにしてみましょう。

妊娠期の母胎環境とは?

上でさらっと書いてきましたが、自閉症は胎児期の環境の影響をうける、とはかなり恐ろしい知見です。
妊娠期の母胎環境については、こちらに考察しました。
 ↓ ↓ ↓

親が栄養以外にできること

親にできることはたくさんあります。
それはこのブログのテーマのひとつなのですが、まだ書き進んでいなくてすみません。過去稿で少し触れている通り、「栄養」「対人交流の量・質」「電子機器利用」「運動量・質」あたりが重要だと考えています。

本稿はエピジェネティクスについてなので、発症(診断)前に焦点を当てていますが、「栄養」「対人交流の量・質」「電子機器利用」「運動量・質」は診断後にも、同様に重要になります。

いずれにしても、栄養は基本のきです。
外来の患者さんでも、栄養の話をしただけで、1か月後には“症状”とされていた問題が消えてしまう子もいるくらいです。
下記リンクなど参考に、今日から栄養盛ってみてください。

関連記事;発達と環境について
発達障害は増えているの?~増えているとすればその要因は?
発達障害は増えているのか、多いのか?:進化・歴史から考える発達障害~日本人らしさとは?
発達障害特性をふまえた現代日本社会の生きのび方
自閉症のエピジェネティクス②:環境要因としての妊娠
なぜ「先天障害」ではなく「発達障害」なのか?~発達のメカニズム
発達のメカニズム~自閉傾向のなりたち
発達のメカニズム~多動傾向のなりたち

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?