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遺伝子と環境の気になる関係②-1:環境への適応

前稿は環境がどのように遺伝子の制御に影響するかをみましたが、今稿は遺伝子が作り出すたんぱく質とそのたんぱく質がおこなう身体の機能への環境の影響についてみてみます。
前半は細胞の働き方、後半(次稿)は発達との関連でです。

(この記事は、公式ブログ:2020.10.7の前半を転載しています)

細胞のあつまりが生命になる神秘

‐ 細胞たちの連携

前稿で、遺伝子のもつ情報とはたんぱく質のつくり方である、と書きました。それ以上でも以下でもなくて、どの細胞も生命活動としてたんぱく質を作っているだけです。
なので、私たちの身体=細胞が行う仕事は、たんぱく質を作る(合成)ことと言えます。
次世代を作ることが生命活動の目的ならば、たんぱく質を作ることはその手段となります。

細胞は身体に60兆個あるといいますが、特定の機能を持った集団(組織)となり、それぞれにうまく連携しながら、ひとつの生命体として活動しているという訳です。

この「細胞のうまい連携」というのが生命のミソなのですが、実は生命科学はまだこのメカニズムを解明できていません。
言い換えると「細胞たちがうまく連携できている」結果が「生きている」とも言えるので、生命科学は「生きる」と「死ぬ」のメカニズムを解明できていないということです

宗教でいう“魂”や物理学でいう“観察者の意識”にその答えがありそうな気もしますが、ここではこれ以上深入りするのはやめておきます。

- うまい連携を行っている秘訣は?

細胞たちの連携として、古典的医学では神経系や内分泌系の機能が知られていました。最近では、細胞たちが何か特有の波などでゆらいだり、物質の伝達では説明できない空間を超えた連携を見せたりということも知られます。

上で物理学と書きましたが、電子レベルでの「共鳴」という現象が細胞レベルでも起きているのでは?と思わせるものでもあり、科学オタク(=私)としてはこの辺のことが解明されるのを心待ちにしていたりします。
実はボディートークではこの理論(の可能性)に基づいて、細胞たちへの働きかけを行うのですが、今稿はもう少し物質的な話を考えます。

- 身体の機能を担うたんぱく質

うまい連携の秘訣は、神経系や内分泌系の機能(+α)と書きましたが、神経系や内分泌系を含めて身体が働くことを「機能」と言います。そして、機能の主役は、しつこいようですがたんぱく質です。
メカニズムはわかっていなくても、物質的な意味ではたんぱく質を介して機能していることは、間違いないのです。

身体の機能を担うたんぱく質は、構造を担うたんぱく質:筋肉や骨、皮膚などと違い、目に見えにくいためイメージが難しいかもしれません。

例をあげると、血液中に存在するホルモン(内分泌系)、神経伝達物質(脳神経系)、血漿たんぱく、酵素、細胞膜(細胞内)に存在する膜蛋白などです。ざっくりですが、具体的に書いてみます。

血液中に存在するたんぱく質
*血漿蛋白:アルブミン、トランスフェリン、リポ蛋白、ヘモグロビンなど、物質を安全に輸送する役割のほか、免疫細胞がつくる免疫グロブリンやサイトカイン等があります。
血液の浸透圧の保持にも役立っていて、この浸透圧は細胞と血液の物質のやりとりや腎臓での不要物の排泄や水分量の調節とも関わります。

*ホルモン:内分泌腺から分泌され、血流にのって全身に運ばれる物質で、多くはたんぱく質成分を含みます。睡眠、ストレス対応、血圧、食欲、性成熟、性周期、妊娠、代謝、排尿…全身のありとあらゆる機能を調節しているものです。
神経系に作用しているたんぱく質
*神経伝達物質:ホルモンと似ていますが、血流にのるよりは、脳内や神経と神経のつなぎ目で働いている物質です。これもたんぱく質が材料のものが多くあります。
脳や自律神経が「うまく」働くためには、これらが「うまく」調節されている必要があります。
精神科で使用する薬の多くは、神経伝達物質の働きを調節するものです。
細胞膜(細胞内)で働くたんぱく質
*ホルモンレセプター(受容体):ホルモンは、そのホルモンによる指令を必要とする細胞にくっついて働きます。そのくっつく部分をレセプター(受容体)と言います。それぞれのホルモンは特有のレセプターにくっついてしか働くことができず、鍵と鍵穴の関係と例えられます。

*イオンチャンネル・NaKポンプ等:
細胞膜は脂溶性なので、水溶性のミネラル分(イオン化した物質)は通すことができません。そのため、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)などなどのイオンを通すための通り道(イオンチャンネル)やポンプが必要になります。
その他にも、輸送体たんぱく質をつうじてしか細胞内に入れない物質は多くあります。

*たんぱく質合成に使われるたんぱく質
:たんぱく質合成は細胞の至上命題ですが、その合成を行う職人集団もまたたんぱく質でできています。
酵素
*消化酵素
:消化管に入ってきた栄養を吸収できるサイズまで分解するための酵素です。肝臓、すい臓、唾液腺などで作られ、消化管内に分泌されます。消化管はちくわの内側のようなもので、厳密には身体の外になります。なので、足りなければ消化酵素サプリを飲むなどで補うことも可能です。

*代謝酵素
:基本的には細胞の中で働く酵素です。細胞が行う化学反応のすべてをこの酵素が行います。種類もとても多く、細胞によって行う化学反応は違うので、細胞により特徴がでます。
その中でほとんどすべての細胞に共通しているのは、細胞活動のエネルギー(ATP)をつくる化学反応と、必要な酵素をつくるたんぱく質合成反応です。
消化酵素と違い、細胞の中に酵素を届けることはできないので、基本的にサプリや薬剤で補うことはできません。

いかがでしょう?
かなりはしょって書きましたが、それでもこのボリュームです。体内で100万種類もが働いているので、すべてを網羅するのは不可能です。

医師にとってはこれらの機能のひとつひとつを吟味し、病態の把握や治療選択に役立てることは大切ですが、一般の人にとって大事なのは、これらのひとつひとつに注目するのではなく、これだけの機能をもったものがそれぞれにうまく連携している身体の神秘を理解することだと思います。

- 機能の連携の秘策:網目状のシステム

上にあげたようなたんぱく質たちを使って、細胞や組織はお互いにお互いを制御するシステム網をくんでいます。

例えば、脳下垂体で作られる“甲状腺刺激ホルモン:TSH”は甲状腺に作用し(甲状腺の細胞のレセプター蛋白にくっついて働く)、甲状腺から”甲状腺ホルモン:T3やT4”を分泌させます。ちなみに、甲状腺ホルモンは甲状腺の細胞の中で遺伝子をもとに合成されるたんぱく質成分のホルモンです。
片や、甲状腺ホルモンは脳下垂体に作用し、甲状腺刺激ホルモン:TSHの分泌を減らすように働きます。
別の例では、筋肉(細胞)の機能は筋線維の収縮ですが、関節では、関節を曲げるときに収縮する筋肉と関節を伸ばすときに収縮する筋肉の両方が働きます。

これらの例に共通するのは、“何かを行うときには同時にそれを止めるシステムも働く”という調節機構です。よく「アクセルとブレーキを同時に踏む」と表現されたりもしますね。
このシステムは一見無駄なようですが、これによって身体は、機能の暴走を防ぐことができ、変化もゆるやかになり、ホメオスターシス(恒常性)を保ちやすくなる、などのメリットがあります。
これらは、身体機能の安全弁であると理解できます。

例であげたものは単純な図式にしていますが、実際にはタイトルの「網目」にあるようにもっと複雑に様々な組織と絡みあって作用します。
そして、医学(科学)はこのシステムの主要なものしか理解できていません。人の身体にはわからないけどうまくいっていることの方が多いです。
まさに「生命の神秘」なのです

- 環境が変わるとどうなる?:適応

調節システム網のおかげで、身体の機能は簡単には変わらないはずですが、身体は老いたり、病んだり、太ったり…緩やかには変化します。(感染に対する防御など、一部は急激に変化する機能もあります)
細胞たちがうまい具合に連携しているのであれば、こういった望まない変化はおきない、と言いたいところですが、残念ながらこれらはうまい連携の果てに得られた「適応状態」です。

何か環境が変化しても、身体は突然その働きを止めたりしません。その環境で生きながらえるように、必要なたんぱく質の合成量を調節して対応します。それは、デジタル的な「オン‐オフ」といった調節ではなく、アナログ的な「大‐小」といった調節です。
適応とは、環境にあわせて身体の様々な面で「大‐小」の微細な調節が行われ、一番うまく生理活動が行われる状態になるということです。

例としては、「酒は飲むと鍛えられる」という現象があります。これは、アルコールを分解する酵素(肝臓の細胞内で働くたんぱく質)がたくさん作られるようになるので、アルコール分解速度がすこし上がる=酔いにくくなる、という現象です。
飲んだその日に変化があるわけではありませんが、アルコール刺激を続けていると徐々に変化します。

しかし、ご存じのように、それでアルコールの害をうけなくなるかというと、そうではありません。
体の行う適応は「部分最適」である場合が多く、長期的にみて最適とは限らないことに注意が必要です。

このように、身体を機能させるたんぱく質を、その合成量を増やす、または減らすという形で、身体を環境に適応させる機序は、どの人にもあり、かなり強力です。
ただし適応には、数週~数ヵ月(数年)はかかることが多いです。急激に変化はしないので気づきにくいのですが、私たちが選んだ生活習慣にあわせて、身体は確実に少しづつ適応的変化をしていることを、自覚しておきましょう。

また、前稿でみた遺伝子の制御も、同時に行われている可能性があります。遺伝子のどの部分のたんぱく質を合成するか、どのくらいの量合成するかは、エピジェネティクス制御によっても調節されるからです。
遺伝子レベル、分子レベル両方で適応が行われる、ということです。

“主役はたんぱく質”の意味

細胞たちは複雑な連携システム網をつくって、身体の機能を維持し、環境に柔軟に適応し、個体を生きのびさせていることを見てきました。
そしてその、連携システムの主役は、身体の様々な部位で働くたんぱく質でした。

なぜ食事のたんぱく質が大事か、もう、わかりますね?

たんぱく質の摂取が足りないと、機能を担うどこかにほころびが生じる可能性がでてきます。連携システム(や適応)がうまくいかなくなるのです。
既出ですが、身体が一日に新陳代謝するたんぱく質は約200g/日で、その一部を食事由来のもので置きかえています。年齢が上がるほど、たんぱく質の需要が大きい時期ほど、影響があると言えます。

どこにほころびが生じやすいかは、おそらく“体質”の影響をうけます。親や親戚と似かよった不調をきたしやすいわけです。

身体が必要とする栄養はたんぱく質だけではありませんが、栄養が足りているか足りていないかそのものが、身体にとって環境要因のかなり大きな要素になります。そして栄養の中の最大のものがたんぱく質ということです。

(続く→ 体質と発達編



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