発達のメカニズム~多動傾向のなりたち②:よくある問題と支援目標
こちらの記事の、後半になります。具体的な発達支援の方向性を考えます。
この記事は、公式ブログ(2021.04.23)のものを、一部改変し転載しています。
多動症支援の問題は、生理的特徴による行動を含め心理的反応までもが過小評価され、本人の「やる気のなさ」「駄目さ」として見られがちになるところだと思います。
当然そこに、“精神論的指導”がなされても意味がないばかりか害になる可能性があります。
*注意事項*
いずれ別記事にしようと思いますが、私は純粋な意味での自閉症と多動症の合併は殆どないと考えています。
見せかけの、多動衝動性に惑わされて「多動症」として治療をうけてあまり効果の上がらない人をよく見かけます。
前述のとおり、私は日本人はほぼ全員自閉特性を持っていると感じます。
この人は多動症である、と考える以前に、自閉傾向はないのか?言語の習得(特に抽象理解)は滞りなく進んでいるのか?を、きちんと評価し、必要があれば、自閉症としての支援を優先することが大切です。
〈自閉症についての記事はこちらへ → ①②〉
多動症治療の目的は自尊心を下げないこと
多動症の育児・治療目標は、多動の特性を消すことではありません。
発達は成人した後まで緩やかに続く長い過程です。その発達をできるだけ滞りなく進められるように、環境を整えることが重要です。
病院での治療でも、本来この目標が一番優先されます。(思春期以降では2次障害の対応に追われ目的が見えにくくなりますが…)
病院での多動症の治療は、主に薬物療法と親ガイダンス(多動症のしくみを学び環境を整えるアドバイス)、親トレーニングなどです。
以下、多動児に関わる大人皆さんと、治療のエッセンスを共有できればと思います。
1) ADHD治療薬使用時のポイント
特に、小児の薬物療法は特性があるからと漫然と行うものではありません。
(児童精神科を専門にする(学んだ)医師が少ない中、ADHD治療薬を処方する医師はたくさんいるので、このあたりがきちんと運用されているのかは少し疑問です)
治療薬には前頭前野を働きやすくする作用があります。それで、本人が今まで「自分には無理だ」と思っていたことが少しやりやすくなります。
その変化をしっかりと自覚してもらって、「自分にもできる」という自信をつけてもらう事が重要です。
そのためには、薬を飲ませて終わりではなく、できるようになっていること、やれていることをきちんとフィードバックしましょう。
(逆に言うと、このフィードバックなしに子どもにADHD治療薬を使うことは、意味のない投薬とも言えます)
薬のあるなしに関わらず、きっちりと“下がった自尊心をあげていく子育て”ができると、多くの子は小学校高学年くらいで薬なしで登校できるようになります。
中学以降は、勉強の難度が上がったりするので、本人が必要と判断すれば投薬再開したりもします。
多動症の成人と同じように、本人の社会的事情と合わせてうまく薬と付き合うようになれば御の字ということです。
2) 褒める子育てのポイント
さて、投薬だけで自尊心が回復するわけではありません。
ここで、叱らない褒める子育てが効いてきます。
といっても、日本人は褒められずに育った人が多く、褒めるのが下手な人が多いようです。
また多動症の子は抑制が難しいのが特徴で、つまり、褒められると調子に乗りすぎ収拾がつかなくなることがよくあります。
なので私は、“褒める”より“承認欲求を満たすこと”をお薦めします。
褒め方、叱り方は別稿にしたいと思うので、簡単に紹介すると、言葉で褒めるのではなくて笑顔をむけるということです。
親がにこにこしていれば、子どもは勝手に承認されていると感じます。
ここでいう承認とは「愛されている、ここにいていいんだ」という安心感です。
とてもにこにこできる心境じゃない、という人もいると思いますが、大丈夫。
口角の筋肉は気持ちと関係なく動かすことができます。
がんばって口角をあげましょう。
実は、表情筋と感情には不思議な関係があって、その気持ちだからその表情になるだけではなく、逆に、その表情だからその気持ちになる作用もあると言います。
口角をあげると嬉しい気持ちになりやすいということです。
目が笑ってなくてもいいので、気が付いたら口角をあげる、まずはそれを意識してみてください。
*
多動症のほめ方叱り方は、親トレーニングでも学べます。
このプログラムは、多動症児の養育者を対象にした集団療法で、どの施設でもやっているわけではない(むしろやっていない施設の方が大半)のですが、書籍もでています。
集団療法のマニュアルとして発行されていますが、褒め方叱り方、指示の出し方(行動のやめさせ方)など、内容は参考になるところも多いと思います。お勧めです。
3) 多動症と栄養:鉄分不足に注意を
自閉症ほどではありませんが、多動症も栄養不良の影響をうけていると考えられます。
主に足りないのは「鉄分」です。
鉄分不足で影響をうけるのは、脳のエネルギーの不足と神経伝達物質の不足と考えられます。
成人でも同じですが、栄養が足りないと脳は省エネモードになり、前頭前野の機能は後回しになります。
これは、多動症様の症状が出やすくなるということです。
なので、栄養をしっかり満たすことだけで多動衝動性が消える子もいます。
日本人のほとんどの子は鉄分不足です(参考記事;鉄分の重要性)。
落ち着きがないと思ったら、まずは市販の鉄分が添加された食品でもいいので鉄分補給をしてみるとよいと思います。赤身の肉やレバーを食べるのもよいでしょう。
ただ、鉄分で自尊心が高まることはありません。
栄養を取ることは子どもの発達のベースラインに乗ることです。発達に必要な環境は、別途整えてあげることも必要です。
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4) 学校…
多動症の人の人生にとって、一番の難関は学校、特に小学校かもしれません。
最近では、先生方の知識も上がってきていますが、少し前までは、多動症の子は「不真面目な生徒」とみなされ、発達障害とは考えられていないことをよく経験しました。
学校から「多動症だと思う」と言われて受診する子はほぼ自閉症で、本当の多動症は親が「多動症ですか?」と言って受診するという感じです。
自閉症の子と違って、多動症の子は“わかってるのにできない感”があります。
それが先生には「わざとやらない」ととられがちな上に、反抗的態度もあれば「悪い児童」認定されてしまいます。
もし、学校でうまくいかないとか、トラブルが多い場合は、専門の医療機関に受診してみるのもよいと思います。診断云々というより、問題点が整理されるだけでも、利点があります。
多動症の子の学校でのライフハックとして、主なものを紹介します。
1:席は一番前:注意がそれにくい
2:持ち物には全部名前を書く:なくしても戻ってきやすい
3:好きな科目はとことん:過集中がはまると伸びる
4:クラスに似たタイプの子がいると相乗効果になってしまう:なので支援級を使うかどうかはメンバー次第な場合がある
5:先生の話を「聞く」「書く」が同時にできない子:連絡帳など聞きながら書くのが難しければ、板書してもらうようにお願いする
6:漢字を書くのが苦手な子:診断をもらって、書き取りを少し免除してもらうことも
*基本的に学校での対応に診断は必須ではありませんが、6は教科内容の問題なので、診断があった方が対応はしてもらいやすいと思います。
くり返すと、多動症の特性は“子供らしさ”です。多動症の子にわかりやすい対応は、他の子たちにもわかりやすい対応です。
「その子だけ特別扱い」を嫌がる学校も多いですが、その子だけではなくすべての子が学びやすい環境を整える工夫と、とらえていただけるといいなと思っています。
5) おまけ;思春期以降
思春期以降はその子の自尊心の高さによって、対応は変わります。
ほどほどの自尊心を持ち、ADHD治療薬の使い分けも自分でコントロールする子は、病院との付き合い方も合わせ、大人になっていく子にいろいろなものを任せていっていいでしょう。
思春期になると、自尊心の低さは、反抗だけではなくうつなど様々な2次障害の形で現れます。
精神論や褒める育児でどうにもならない場合も多いので、専門医のところを頼る方がよいと思います。
中学生までは、中々予約がとりづらい状況ですが、高校生以上であれば成人精神科でも受け付けてくれるところが増えますので、ためらわないでほしいです。
*
成人期以降の支援(本人向け)についてはこちらへ
↓ ↓ ↓
親子が似ているがゆえに起きる問題
自閉傾向もそうなのですが、多動傾向はなおさら、親子の間には葛藤があるのが普通です。
親が自分の欠点だと思っている部分を、子どもの中に見つけたりすると無性にイライラするものですし、それは自身がこどもの頃叱られまくった事柄だったりします。
自身が子供の頃、わざとじゃないのに悪い子認定されていたことへの反発で、「これは(自分は)異常ではない!」といい、支援を拒否する人もいることは、支援者は知っておくとよいでしょう。
多くの場合、感情に任せて叱りがちですが、それでうまくいくことはあまりありません。
無理せず、親ご自身がセラピーを受けた方がよい場合もあります(私のオススメはボディートークです)。多動傾向が明らかであてば、受診するのもよいと思います。
子どもとそっくりなパートナーが、子どもに激しく当たっているというケースにもわりと出会います。
子どもの自尊心をあげる対応(文句を言うより承認欲求を満たす)を、パートナーにも適応し、必要そうなら受診をすすめることになるでしょう(難しい問題ですが…)。
また、衝動性発露が暴力になっている場合は、児童相談所通報もためらわない方がいいと思います。
*
親自身も、栄養不足でイライラしたり、自分の問題で頭がいっぱいの時は、うまく関われなくても仕方ありません。自分を後回しにするより、先に自分の問題を解決した方がよい場合もあります。
特に栄養は、出産したお母さんはその分の補給も必要ですし、親の脳の活動(寛容力など)にも重要です。
そもそも日本人女性は、たんぱく質・鉄分などが不足しています(参考;栄養とれてますか?)
親子での栄養摂取に取り組んでみてほしいと思います。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方)
子どもへの態度を変えようとがんばるより、親子ともども食べ物を変える方が楽だと思いますよ。
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