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本当は怖くない鉄分;鉄分の摂り方

鉄分について、

につづき、鉄分の摂取の考え方を書いてみます。

また、一部ネット言説で「フェリチン値が高くなるのは危険だ」というのを見ますが、これは誤解です。フェリチンの意味についても解説します(後半こちらへ)。

結論から言うと…

● 月経のある女性と成長期までの子どもは、積極的に鉄分補給を考えた方がよいでしょう。
鉄分入りの食品や、鉄剤の利用も考えます。
同時にたんぱく質もしっかりとる必要があります(参考;親と子のたんぱく質の盛り方同実践編)。

● 成人男性と閉経後の女性は、偏食なく(特に肉類)食べていれば、あまり鉄を意識しなくてもよいでしょう。
体が冷える、イライラしやすいなど「鉄分不足と思われる症状(参照;鉄分の重要性)」がある場合は、鉄不足またはたんぱく質不足または両方を疑います。
どちらかといえば、現代日本人ならばたんぱく質不足の方が深刻なので、まずたんぱく質を増やすことを優先してください。

この記事は、公式ブログ(2021.06.14)のものを、一部改変し転載しています。

日本人の鉄不足の実際


 1) 鉄分神話の崩壊

「日本の伝統的食事では鉄分は不足しない」という神話が長く信じられてきましたが、その説は間違っていたことが分かりました。
それに伴い、厚生労働省も国民への啓発として、鉄分の重要性を発信するように変わってきているようです。

鉄分神話の崩壊

鉄分神話は主に、野菜(小松菜など)やひじき(海藻など)に鉄分が豊富だという説により成り立っていますが、現代ではそれはないということをこちらの記事;野菜の栄養にも書きました。

転機は2015年の「ひじきショック事案」だったと思います。
ひじきに鉄分はほとんどなく、ひじきの鉄分だと思われていたのは加工業者が使う鉄なべの鉄だったことが発表されたことです。

同時に、ほうれん草や小松菜の鉄分も、測定時の鉄の包丁の影響を受けていると言われたりしました。
私は野菜は、包丁だけではなく、栽培する土壌の影響を受けているようにも感じます。

畑や田んぼは洪水時の遊水池として活用されていた、という話を聞いたことがありますが、それは土砂として山の養分の豊富な土(鉄分も多い)が流れてくる合理性もあったのではないでしょうか。栽培をくりかえした土からは鉄は失われてしまうと思います。
治水は生活上必要なものだろうけど、それによって失われたものもあるのかもしれません。

いずれにしろ、現在の日本で売られている野菜からは、十分な鉄分をとるのは難しいでしょう。


 2) 外国と日本の鉄分事情の違い

それは、こちらの書籍に詳しいです。

先進国から途上国まで、鉄分不足の問題は古くからの公衆衛生課題でした。
なので、現在でも多くの国で国策として、小麦粉や醤油などの生活必需品に鉄が添加されていて、国民の鉄不足を防いでいるそうです。
また、離乳初期から鉄分摂取を積極的に薦める国も多いようです。

でも、日本は違います。

日本には“鉄分神話”があったため、鉄分政策はありません。公的に食品に鉄が添加されているのは粉ミルクくらいでしょう。
そうこうしているうちに、農業や調理器具が大きく変化して、鉄分不足の状況が悪化しているのが今の問題です。

ただし、ひじきショック事案以降、厚労省も鉄やたんぱく質摂取を増やす方向に舵を切っているようです。これからは、鉄やたんぱく質摂取の発信も増えてくると思います。
民間企業はすでに、鉄分やたんぱく質を強化した食品を増やしています。選択の幅が広がってきているのは良いことだと思います。


鉄分の盛り方

くりかえしますが、鉄分は小腸で“たんぱく質と結合して”吸収されます。
たんぱく質をしっかり摂り、消化吸収できることが、鉄分摂取のファーストステップです(参考;親と子のたんぱく質の盛り方)。
これは特にサプリを利用する場合は気をつけてください(理由は下記に)。

初めは、色んな食品から、たんぱく質と一緒に取るのがよいと思います。肉魚は優秀食材です。

 1) 鉄分の多い食品

赤身の肉・魚:肉や魚の赤は、ヘモグロビンやミオグロビンといったたんぱく質結合の鉄分です(これをヘム鉄といいます)。
赤味が強いほど鉄が豊富と考えてよいので、肉なら牛肉・羊肉・馬肉・鹿肉など、魚ならまぐろかつおなどがおすすめです。また、レバーにも鉄が豊富です。

豆・豆腐:肉・魚ほどではありませんが、鉄分を含みます。

貝類:特に肝の部分に鉄が多いので、貝柱だけではなく、あさりなど全貝を食べるものがよいです。

海藻:ひじきは残念でしたが、海苔や昆布などにも少しは鉄分を含みます。

野菜・きのこ:鉄分を含むものもあります(栽培の状況によっても違いそうですので、消費者として選ぶのは難しいでしょう)。

これらの中では、肉・魚・豆・豆腐が優秀といえます。理由は…以下(注意したいこと)です。


 2) 鉄分計算で注意したいこと

例えば文科省の食品成分データベースを利用して鉄分の多い食材を探しますと、下記のような順番で出てきます。

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これらの表は「食品100gあたりに含む鉄分量」を示しています。

一番鉄分を多く含む食材は、イタリアンなどに使う香辛料“バジル粉”ですが、一回に食べる量は、香辛料なのでよくて1gもないでしょう。
海苔など乾物もランキング上位ですが、同じです。

つまり、鉄分を多く含む食材だとしても一回に食べる量が少なければ、結果として量を摂ることができないということに、注意が必要です。

一回にたくさん食べられるという意味で、肉・魚・豆類あたりが優秀ということです。


 3) 鉄分を添加した食品の利用

厚労省や文科省が方針変更途上の脇で、一般企業の動きはもっと早いようです。

スーパーで普通に売られている食品の中にも、鉄分添加をうたうものが増えてきました

牛乳、ヨーグルト、ジュース、プロテイン飲料などの乳製品や飲み物に多いようです。
瓶やパックの離乳食にも添加されるようになっています。
鉄は化学記号が“Fe”ですので、そのようにパッケージに書いてあったりします。

また、鉄添加食品としては、育児用ミルクやフォローアップミルクもよいです。

特に、フォローアップミルクは鉄分の少ない牛乳の代わりとして開発された経緯があり(参考;ミルク育児のメリットとデメリット)、育児用ミルクより鉄分量が多くなっています。

赤ちゃんでなければ、溶かした後冷やして飲んでもかまいませんし(ミルク類は必ず70℃以上の熱いお湯で溶かしてください;サカザキ菌Q&A)、ミルク煮、ミルクがゆなどの料理に使うのもオススメです。

パッケージの後ろを見ると、鉄分の含有量が分かります。鉄:○○mgなどと記載されています。
商品1個(1袋など)中の場合と、製品100g中の場合があるので、気をつけてみてください。
鉄○○mgは、鉄分をどのくらい摂ったらいいかの目安になります。

気をつけてほしいのは、特にジュースなどの甘い飲料ですが、鉄を摂取しようとしたあまりに糖分量が多くなっては、健康効果が落ちてしまいます。
甘くない食品(ミルクなど)や、次に紹介するサプリを優先した方がいいと思います。


 4) 鉄分サプリ

これは最近よく知られてきていることですが、現在、国内で市販されている鉄製剤の多くは、サプリ処方薬とも、クエン酸第一鉄(フェロミア)や硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)、ピロリン酸第二鉄(インクレミンシロップ)などの無機鉄化合物です。

ヘム鉄のサプリもありますが、かなり割高です。ヘム鉄は無機鉄よりも吸収がよいのが売りですが、それは食事で食べるときの話で(鉄分の多い食品参照)、サプリとしては値段が高いことは大きなデメリットです。

一方、アメリカで一般に市販されている鉄剤は、アミノ酸キレート鉄と呼ばれ、無機鉄よりも吸収力が高いとされるものです。

アメリカはサプリ先進国で、消費者の目も肥えているため、品質が高く安価な製剤が多くあります。ネットで簡単に個人輸入ができますので、市販のサプリならばアメリカ製をお薦めします。
(*iHerbサプリンクスなどのサイトが有名です。日本語で注文できます。)

カプセルや錠剤、徐放製剤(ゆっくり溶けて吸収する)、グミ、チュアブル(ラムネ状)など形も、鉄の含有量も様々な製剤があるので、自分に合ったものを見つけてみるといいと思います。
Now Foods;ironなどは日本でもよく売れている商品です。日本語の口コミも参考になります。

  - 鉄で気持ち悪くなりやすい人は…

鉄のサプリや処方薬の飲み方として注意点は、気持ち悪くなりやすいことです。
これは特に、たんぱく質摂取量が少ない(胃腸の粘膜がよわっている)人でおきやすいようで、男性ではあまりない副作用です。
BUN値ひとケタの人などは、鉄の前に、たんぱく質を盛る事を優先してください。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方同実践編

気持ち悪くなりにくい飲み方は、空腹で飲まないことと、少しづつ飲むことです。

食事と一緒(または直後)に飲むこと、1日何回かに分けること、または鉄含有量の少ないものを使うか、少しづつ溶けてゆっくり吸収する製剤(徐放剤じょほうざい)を選ぶなどしましょう。

裏技として、サプリを食事(水分)に混ぜる方法があります。

脱カプセル(カプセルの中味)や錠剤を溶かすことで、少ない量を何度にも分けて飲むことが可能です。子供に飲ませるにもおすすめです。

上記のNow Foodsのサプリをみそ汁に入れてみましたが、よく溶けて味は殆ど変わりません。
麦茶に入れても変わらないようです。お茶は鉄瓶で沸かしたお湯で入れた方がおいしいので、鉄剤と相性がよいと思います。

溶かしたものを何度にも分けて飲む、お茶ならば1日かけて少しづつ飲むことができます。

  - 鉄の注射薬の注意点

医療機関から処方薬の鉄剤が吐き気で飲めない時、往々にして鉄の注射が行われます。

前稿に書いた通り、鉄には毒性がありますが、それが問題になるのがこの注射です
鉄は胃腸から吸収される限りでは安全な物質ですが、注射の場合は、鉄のイオンがたんぱく質と結合しない状態で直接血中に入ります。これは、活性酸素の毒性をもろに受ける形の治療です。

貧血がシビアで内服ができない時には仕方ないので拒否しないでほしいですが、漫然と続けることのないようにしたいところです。

上に書いた通り、吐き気はたんぱく質が足りないサインなので、たんぱく質をしっかり盛ってほしいですが、医師からそう指導されることはほぼありません。
自分で考え、たんぱく質を取り入れるように頑張ってみてほしいです。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方同実践編

鉄剤が飲めなくても、鉄添加の食品なら摂れたりします。肉魚豆腐なども少しづつ取り入れてみて、気持ち悪くならずに鉄剤の飲める身体をめざしましょう。
内服ができるようになれば、医師は鉄を内服薬に切りかえてくれます。


 5) 鉄分の摂取量

前述のとおり、鉄分は小腸でたんぱく質と結合して吸収されます。ヘム鉄と非ヘム鉄は吸収のされ方がちがいますが、たんぱく質が鉄を細胞内に取り込むのは同じです。

そこには、鉄が不足していればたくさん、鉄が十分あればほんの少しとなるようにたんぱく質によって調節されるシステムがあります。

特殊な疾患がないかぎり、内服の鉄分で活性酸素の害を受けたり、鉄が過剰になることはありません。

鉄剤・サプリ内服のポイント

男性・閉経後の女性;鉄欠乏を疑う症状(参考:鉄分の重要性)がない限りは、たんぱく質摂取のみで十分です。
アメリカなど国策として食品に鉄添加が行われている国では、男性は鉄サプリを摂ってはいけないと言われたりしますが、日本は事情が違います。マルチビタミン剤や鉄添加食品に入っている程度の量は気にせず飲んでいいでしょう。
鉄欠乏を疑う症状のある人・出血性の疾患のある人は下記同様に鉄補給しましょう。

月経のある女性・成長期までの子ども;積極的に鉄補給が必要です。
体重(Kg)mgくらいを目安に補給するとよいでしょう。吐き気などあるなら少しから始めます。

● たくさん飲んでも全部が吸収されないので、残りは便から排泄されます(便は黒くなりますが異常ではありません)。
● 鉄はビタミンCと一緒に飲むと吸収がよくなります。ビタミンCを持っている場合は一緒に飲むとよいでしょう。

鉄分の多い食品:ヘム鉄(肉魚の鉄)は吸収がよいことが知られています、積極的に肉魚などを摂るとよいでしょう。
鉄添加の食品:成分表示をみて「量」を把握しておくとよいです。鉄分「入り」と記載があるだけで量が少ない商品もあります。
サプリのmgと合算して考えられます。

● 健診などで採血する際は、血算と一緒にフェリチン(参考記事;下記)を測ることで、鉄が足りているかどうかの目安になります。


(後半に続く→フェリチンは危ないという誤解
(フェリチンについてはこちらも)
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