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発達のメカニズム~自閉傾向のなりたち②:よくある問題と支援目標

こちらの記事の、後半になります。具体的な発達支援の方向性を考えます。

この記事は、公式ブログ(2021.04.23)のものを、一部改変し転載しています。

乳幼児自閉症のよくある問題と支援目標

以上みてきて、自閉症支援の問題点が見えてきます。

心理的反応まで含めて「特性」ととらえられがちで、生理学的な問題(脳の機能)が過小評価されているところです(これはICDやDSMでもそうなので診断としてもそのようになってしまいます)。

このことでおきる問題は、多くの現場で、心理的反応(パニックやこだわり)への対処が優先され、一番の困り感である生理的特徴が軽視されてしまうことです。

前稿で触れたように、脳の発達には「臨界期」という概念があります。
脳はある程度の年齢までに経験しなかったことは将来的にも習得できない、可能性が高くなります。

なので自閉症児の支援においては、生理的特徴にアプローチして苦手感を減らし、幼小児のうちに経験した方がよいことが経験できるようにすることが大切と考えます。

心理的反応は副次的な症状なので、発達が進めば問題にならなくなっていきます。
心理的反応にかまけている時間はあまりないので、それはそれ、として、発達を促進する方に注力してほしいと思います。

また、現状残念ながら、各地の療育センターは公立私立を問わず、質がばらばらです。
センターに通っている子だとしても、以下の方法は基本的には親や養育者(や近しい大人)に取り組んでほしいと思います。

発達支援の具体的な方法

1) 栄養の充足

脳が発達するため、もとい脳が機能するためには、大量の栄養が使われます。

「脳は糖分を栄養にする」と言われますが、本当に必要なのは、糖質以外の栄養(たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)だと知って下さい。もっと言えば、脳は糖質がなくても働きます。脂質も使えるハイブリッドなのです。

特に自閉症の子は偏食が激しいケースがありますが、「食べられるなら、糖質でもお菓子でもいい」ではなく、できるだけ食べられる糖質以外のものを探す必要があります。
優先したいのはたんぱく質と脂質です。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方同実践編)。

私の患者さんでは、固形のたんぱく質は難しくても、プロテインなら飲める子は多いです。
私も子供の栄養はできるだけ料理から摂った方がいいと考えていますが、たんぱく質の多い食材を全く受けつけないのならば、プロテイン製剤に頼ることはありだと思います。
そのくらい、発達初期段階のたんぱく質は重要です。

偏食が固まってしまってからでは、介入を全く受け入れない子もいます。
できるだけ、離乳食からあるいは、妊娠中(妊娠前)から栄養を取り入れられる身体をつくること(妊娠前の女性の栄養状態→参考記事)が大事だと、私は考えています。

特に母乳育児では、生後6か月頃より鉄分不足が顕著になります。
離乳食では積極的に鉄分補給をするか、ミルク併用にした方がよいと思います。
鉄とたんぱく質を同時に摂れる食材は赤身の肉やレバーです、外国では離乳初期から肉やレバーを推奨する国もある事を知ってください。野菜より米より、肉です。

参考記事
母乳育児のメリットとデメリット
ミルク育児のメリットとデメリット
気張らない「混合栄養」のすすめ

栄養が足りない時の脳は、省エネ運転をします。
新しいものを覚えたり、新しい機能を発揮したりせず、今まで使ってきた回路を優先します。

また、脳が省エネ運転をするとき、不安の感情は強くなると考えられます(危険を察知する機能;不安は、それは大丈夫だと不安を抑制する理性よりも、生存に有利なためです。省エネ運転とは積極的に生きるよりも、死なないことを優先するモードです)。

子どもの脳の場合、発達する圧が強いので多少の栄養不足でも発達しますが、細かいところで、本人のウイークポイントで(遺伝的傾向)、うまくいかないところが出てくると考えられます。
また、不安が強くなるとこだわりは強固になります

同じ年齢層の子どもに比べて自制がきかなかったり、感覚のフィルター(刺激の抑制)がきかないため、感覚認知に影響がでたり(感覚過敏がひどくなる)、睡眠や排便などの生体リズムが崩れたり…。
そういう体質だと思っていたことが、実は栄養不足だったということは珍しくないのです。

2) 漢方薬

漢方治療の元ネタはこちらの書籍です。
著者の小児科医は鬼籍に入った方ですが、生前、医学雑誌に『自閉症の漢方治療』について何本か投稿されていました。
私はそれを読んで漢方薬を使うようになりました。

今稿では詳しくは書きませんが、漢方薬の効き目は感覚過敏の軽減として現れるようです。

乳幼児では自覚症状を話してくれないので、他覚的な観察のみですが「後ろから呼んだら振り向いた」という報告はよく聞きます。
ある高校生は、「この薬を飲むと、頭がすっきりして会話がしやすい」「僕これ、一生飲みたいです」と話してくれました。

そしてこの、感覚過敏が落ち着いたと思われる状態から、一気に発達が進むケースも珍しくありません。

言語、非言語的やなりとりが進むと同時に、人見知りをする、怖がりになる、反抗期になるなど、対人関係の中で体験する心理的なあれこれを、駆け足で体験する子も多くいます。

上に書いた高校生は中学までは友達関係がつくれず孤立していましたが、高校では友達ができ「クラスの男子の集団でバカな事をするのが本当に楽しいんです、中学の時はあんなのうるさいだけで何が楽しいんだろと思ってたんですが…友達っていいんですね」と報告してくれました。

ただし、気になるのは、10年くらい前に比べて今は"漢方薬が飲めない子”が増えている件です。
以前は、処方して飲ませ方を保護者と相談して試してもらうと、ほとんどの子は飲めた(体感で7,8割以上)のですが、今は体感で4,5割の子しか飲めません。

味覚の過敏の問題の可能性もありますが、むしろ重めの自閉の子の方が飲めるのでそこは合いません。
考えられる要因は、感覚過敏よりも栄養不足が主因になって症状が出ている子が増えているのではないか、という事です。

なので、今では漢方薬の適応は、感覚過敏の症状が明らかにある子で栄養状態がまあまあの子、と考えています。

漢方薬は゛病名”や゛症状”に対して適応が決まっているわけではなく、患者さんの体質や状態や病期に合わせて方剤が変わることがあります。
処方を希望する場合は、上記の本を持っていき「これを試してみたい」と率直に相談して処方してもらう事をおすすめします。「読んでみて考えたい」と言われることもあるかもしれませんが、まともな医師なら、一刀両断に否定することはないと思います。

漢方薬でも副作用はありますが、処方する方剤によって違うのでここでは書きません。
処方する医師や薬剤師から確認してください。

ちなみに、私の自閉症漢方治療の第一号は、“ADHDと言われ中枢刺激薬を出されたら、よく効いたけど副作用で続けられなかった小2男子” です。今ではそういう所はないと信じたいですが、「ADHDの薬を飲めないならできることはない」と言われ、途方に暮れて私のいた病院にきた方でした。

明るく元気で落ち着きのない子でしたが、視線が私の顔を上滑りしていき、ここが診察室だということもいまいち理解できていなそうな態度が気になる子でした。

漢方薬を飲んだところ、驚いた先生から電話があったほど激変した、ということでした。
ADHDと診断されていても、感覚過敏やコミュニケーションエラーが隠れているタイプの子には、効果が出ると思います。

3) 話したり、遊んだり

子どもの発達を促進する大人の関り合い方は、どの子でも基本的には同じです。

殆どの子は、栄養と感覚過敏性の問題と電子機器の使い過ぎが解決すれば、今までの関りを何も変えることなく状態がよくなることと思います。
まずは、そちらの環境調整を優先してみてください。

簡単に関わり方のコツを書いてみます。

発達早期;ことばの前

言葉は聞いてまねすることが基本で覚えます。たくさん話しかけ、子どもが何か発声したら復唱、言いたそうなことは代わりに言ってもよいでしょう。赤ちゃん言葉を使う必要はありませんが、穏やかな音声を心がけてください。

● 話しかけて返事が返ってこなくても心が折れにくいのは、行動の実況中継です。たくさん言葉を聞かせるには有効ですし、目に見えない社会のルールを言葉で整理する(将来子どもに教えなくてはならない)役にも立ちます。

● できるだけきちんと向き合って話しましょう。表情と声、両方合わさって覚えます。

表情と声色、話す内容に矛盾がないようにしましょう。

● 子どもは「楽しい時」に視線を合わせます。つまり、視線を合わせる練習は、楽しい時間を共有する時です。子どもが楽しいと思える(うれしそうな声をあげたり、目を輝かせたり)遊びを一緒にする時間をもちましょう。
始めは楽しいから合わせていた視線が、そのうち楽しくなりたいから視線を向けてくるようになります。

● 言葉のないうちから、「楽しいね」「お腹すいたね」「怒ってるのね」「片付けたくなかったね、やめたくなかったね」など、子どもの気持ちの翻訳・代弁をたくさんしましょう。よく見ていると、代弁した子どもの気持ちが当たっていた時と外していた時の様子が違うのが分かるようになります。
言葉以降;言葉がでたら

● 基本は発達早期と同じです。楽しい雰囲気を心がけましょう。

● ジャスチャーを含めていいので、やりとりのキャッチボールが続くように、子どもの話したい話題(好きなものや欲しいものの話)で質問を投げかけてみましょう。

● 最初はクローズドクエスチョン(はい/いいえ、単語など答えの決まっている質問)、次は2択、慣れてきたら3択/たくさんの中からの選択、その後でオープンクエスチョン(何で、どこ、どうやって?など答えが無数にある質問)、質問に答える難易度を子どもの言葉の段階に合わせましょう

● 毎日、楽しい雰囲気で会話や遊びができる時間を確保しましょう。生活に追われて𠮟ってばっかりにならないように、「遊ぶ(話す)と決めた時間」がある方がうまくいきます。一緒に湯舟の中で、寝かしつけるお布団の中でなど、短くてもいいので他のことに気のそれない時間がベストです。

● うそ、脅し、いじわる、からかいなどはやめましょう。子どもの発達は安心感の中で得られます。子ども時代、軽い冗談でも深く傷ついた経験のある人は多いものです。
たくさん話せるようになったら

● 基本は発達早期・言葉以降と同じです。楽しい雰囲気を心がけましょう。
前稿の「言葉以降の発達のイメージ」を意識して、色んなパターンの会話を経験させてあげましょう。

● 言い間違いや赤ちゃん言葉(幼児発音)は、「○○ね」と相槌をうち正しい発音を聞かせるだけで十分です。

● 子どもの興味のある話題(はまっている遊びなど)をネタに話すといろいろ引き出せます。ポイントは、否定したり矛盾をついたりして話の腰を折らない事です。この時点では、正しいことを話すかより正しく話すか(文法)を重視します。
倫理的に間違っているとか内容の矛盾が気になる場合は、「教えてほしいんだけど…」と興味を持ってる風に質問し、答えさせながら間違いに気づくように誘導することはできます。

成人期以降の支援(本人向け)についてはこちらへ
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親子が似ているがゆえに起きる問題

最後に、遺伝の問題は遺伝子だけではありません。
親子は特性が似ているだけではなく、その特性をもった子供として育てられるという育児環境も似ています。また、習慣的に食べるものも似ています。

そのことの問題について考えます。

簡単な人には簡単なことかもしれませんが、親子の間には葛藤があるのが普通で、親だからこそ子どもと無邪気に話せないという状況もありえます。

親が自分の欠点だと思っている部分を、子どもの中に見つけたりすると無性にイライラするものです。多くの場合、感情に任せて叱りがちですが、それでうまくいくことはあまりありません。
無理せず、親ご自身がセラピーを受けた方がよい場合もあります(私のオススメはボディートークです)。
自分を後回しにするより、先に自分の問題を解決した方がよい場合もあります

また親自身も、栄養不足でイライラしたり、自分の問題で頭がいっぱいの時は、うまく関われなくても仕方ありません。
特に栄養は、出産したお母さんはその分の補給も必要ですし、親の脳の活動(寛容力など)にも重要です。

そもそも日本人女性は、たんぱく質・鉄分などが不足しています(参考;栄養とれてますか?
まずは、親子での栄養摂取に取り組んでみてほしいと思います。(参考;親と子のたんぱく質の盛り方

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