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黒いサンタクロース(ブラックユーモア短編)全5話



YouTubeにあった「サタンクロース」という映画の予告編がめちゃくちゃ面白かった。本編はしらんけど、検索してみてくれ。

第一話「手紙」

クリスマス直前、おれの家の玄関の前に、送り主不明の段ボールが置かれていた。

箱を開けると、サンタクロースのユニフォームと、ラッピングペーパーで包装されてリボンのついたクリスマスプレゼントらしきものが出てきた。

試しにユニフォームを着てみると、ちょどよいサイズ。ポケットに手書きのメッセージの書かれた一枚の紙が入っている。サンタさんからの手紙だった。

内容は以下の通りだ。

「メリークリスマス!! はじめまして。サンタクロースです🎅。お願いだから、わしの話を聞いてくれ。どうしてもお主に頼みたいことがあるのじゃ。わしの代理になって、ユニフォームと一緒に箱にあるプレゼントを、クリスマスの晩に以下に書かれた住所まで届けてくれないだろうか。うっかりまだ開けとらんだろうな🎅?家には玄関ドアから入れるようになっているから、寝室の枕元にそっとプレゼントを置いて欲しい。入ってすぐの左側の扉が寝室じゃ。どうか頼む、ゴホンゴホン。わしはもう長くはないのじゃ。。。わしのサンタ稼業も今年でもう終わりにするが、この子にだけはどうしてもプレゼントを届けたいのじゃ。どうかわしの頼みを聞いてはくれないだろうか、げほげほげほげほ。些少じゃが、ポケットにある10万円は自由に使ってくれ。いかん、と吐血しておる・・・・・・

〇〇県〇〇市〇〇町123‐456 〇〇マンション〇〇号室」

手紙には、血の飛沫が付いていた。サンタさんは重い病気なのだろう。血を吐く思いで、この手紙をしたためたに違いない。

ユニフォームの深いポケットをさぐると封筒が出てきた。開けると11万円入っていた。手紙にあるより一枚多いではないか。

同じ町内なので、住所はかなり近くにあることがわかる。

それにしてもサンタさんからこのおれに頼みごとをするなんて、よっぽどのことだ。北極からうちに荷物を届けるだけでも大変な手間だろう。こういうめったにない刺激的なこととなると、いてもたってもいられなくなるおれは、サンタさんの頼みを受諾することにした。北極に向かって敬礼する。


第二話「メリークリスマス」


クリスマス・イブからクリスマスに日が変わる深夜。サンタのユニフォームに身を包み、プレゼントの包みを抱えて家を出たおれは、手紙にある住所に向かった。下見して近所のマンションの四階にあることだけはわかっている。

「ガチャガチャ」部屋の前に立ち、玄関のドアに手をかけると鍵がかかっていた。あれ?おかしいな。

よく見ると、ドアノブの近くが丸くくり抜かれており、穴に手を突っ込めば外から鍵を開けられるようになっていた。まるで強盗の手口じゃないか。おれは鍵を開けると、寝ている子を起こさないように忍び足で家に入った。

ガチャ。暗い目にもすぐに寝室は見つかった。顔までふとんをかぶった子の寝息がくーくーと聞こえる。おれはしーっとわざとらしく人差し指を口元に持っていくと枕元にプレゼントを置き、再び忍び足で部屋を後にした。

その時!パッと部屋の照明が付き、ドタドタとすごい足音を立てて何者かが廊下を駆け抜けていった。

寝ている子がガバッと跳ね起きた。

「キャーーーーーーー!!」「うわーーーーーーー!!」

それは子供ではなく、独り暮らしの若い娘だった。おれも娘も心臓が止まるほどびっくりして動けなくなった。固まっているおれに、ついに娘が口を開いた。

「うちで何をやっているの!?警察を呼びます!」彼女はケータイで110番にかけようとしている。おれは慌てた。

「怪しい者ではありません。見ての通り私はサンタクロースです。ホッホー遠い国からやって来ました。ほら、こうしてあなたにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ。あなたにもメリークリスマス!!」おれは枕元のプレゼントを手に取り彼女に手渡した。

「そうなの?」彼女は少し落ち着きを取り戻した。警戒の気色をすこし和らげ、プレゼントの包みを解いた。

出てきたのは正真正銘の「大人のオモチャ」だった。


「アンタこんなもん使って私を犯そうという気!?」
「待ってくれ!!違うんだ。これはそんなもんじゃない」

オモチャを取り上げたおれは、付属の乾電池を入れてスイッチを入れてみた。ラバーでできたふざけた顔をしたこけしの首が、左右にウィーンウィーンと振れる。やっぱりどう見ても電動こけし以外の何物でもなかった。

「面白えじゃんこれ!よく見るととぼけた顔をしてるしよお。ほら、机に置いたままでも首を動かしてるんだぜ。これはいくら見てても見飽きないなあ。いやあ、おれも欲しい。おれも真似して首を動かさずにはいられないよ」

「今、通報したところ。もう遅いよ。」

間もなくパトカーがやって来た。ドヤドヤと警官が殺到した。駆け付けた警官のいちばん後ろに、ニコニコ笑顔の真っ赤な服のサンタがいる。

「おいサンタ!!どういうことだよこれ!!」おれが二人の警官に取り押さえられているうちに、サンタは玄関から出て行った。誰もサンタがいたことには気が付かなかった。


第三話「カツ丼」


クリスマスの深夜に取り調べ室で事情聴取を受けるおれ。尖らせた鉛筆の芯を舐める刑事の、カラフルな鉛筆についた消しゴムがデフォルメしたサンタの顔なのが恨めしい。クリスマスなので、カツ丼ではなくショートケーキを出された。

「うまいケーキですね。」
「そうだろう。私もクリスマスにはこのケーキを毎年、家族に買って帰るのだが」ドン!!!刑事が机を激しく叩いた。「お前の下らん事件のせいで私のクリスマスはなくなった!これがそのケーキだ。心して食え」

「サンタに命じられてやったことです。全部、サンタに仕組まれていたんだ!サンタからの手紙を筆跡鑑定すればわかる。手紙の血痕を調べればおれの無実が証明される!」
「その手紙の文字だがな、お前の筆跡で間違いないそうだ。手紙についていた血も絵の具だったぞ」
「そんなヴァカな!!」

その時、おれの目の前の刑事の背後から、手を振る笑顔のサンタが現れた。「サンタ!!!」おれが立ち上がるとサンタはしゃがみ、どこにもいなかった。

第四話「模範囚」


サンタをぶち殺す。外では雪がしんしんと降る中、独房で寒さに震えるおれは心にそう誓った。ベッドの上で体育座りをしているおれの耳にシャンシャンと鈴の音が聞こえてきた。

立ち上がって鉄格子ごしに窓から外を見ると、トナカイのひくソリに乗ってサンタが飛んでいるではないか。

サンタはこっちに近寄ってくると「ホッホー」といたずらっぽくウインクして、そのまま真っすぐ上に行って見えなくなった。

おれには悔しさに歯を食いしばって、鉄格子をゆさぶることしかできなかった。

ベッドに戻ると、サンタからのプレゼントの箱がある。包装紙を破って箱を開けるとなんとそれは、鉄格子を壁ごと吹き飛ばす高性能の「プラスチック爆弾のキット」だった。おそるべきことに箱の奥からは数本のダイナマイトとライター、弾の入った拳銃まででてきた。


「007 消されたライセンス」に出てくる「練り歯磨きのプラスチック爆弾」

こんなのが看守に見つかったら大変なことだ。壁を爆破して拳銃を持って脱獄するも、必ず捕まり、一生刑務所から出られなくなるに決まっている。そうなったらそれこそサンタの思う壺である。

おれは部屋に爆弾と拳銃の隠せそうな場所を探した。漆喰の壁がひび割れている。もろい壁を殴り続けると、壁が崩れて爆弾を箱ごと隠せそうな穴が開いた。

おれは箱にしまった雷管や起爆タイマー、ダイナマイトと拳銃を穴に隠した。歯磨きチューブに偽装したたっぷりのプラスチック爆弾のパテを手ですくうと、空っぽになったチューブも穴に入れ、崩れた壁を粘土質のプラスチック爆弾で、修復した。壁の色と同色の白だから、まったく見分けがつかない。しかし爆弾をまるまるチューブ一本使ったから、この壁に電気を流せば、外への巨大な脱出口ができあがることは間違いなかった。

おれは模範囚で通したから、間もなく釈放された。

第五話「一年後」

一年後のクリスマス。刑期を終えて、もはや誰からも犯罪者扱いされる理由のないおれは、新聞の一面に目が釘付けになった。

それはおれが服役していた刑務所での大規模な囚人の脱走事件だった。新しい囚人が壁の穴を見つけて、壁のプラスチック爆弾を作動させた。本人は爆発で死んだが、仲間たちがダイナマイトと拳銃をもって刑務所から逃げ出した。特に凶悪なやつらで、首都圏は恐怖のどん底にある。サンタがまたどこかで悪い手を差し伸べたのか、おれの知らない携行型多連装ロケットランチャーや、マシンガン、逃走車のランボルギーニまで持っているらしい。

その記事を読むや、おれは力なく「ホッホー」と笑ってしまった。

北極のサンタクロースも日本のニュースに笑い転げていた。

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