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私の価値観や哲学

今回は少しパーソナルな軌跡について書きます。当社の採用面接は、今でも自ら最終面接を担当しているのですが、応募者の多くがWEB上の私のインタビュー等をご覧いただいているようです。
やはり当社の業態では、定量情報以上にどういう人が働いているのか?とりわけ会社の顔といえるトップがどういう人となりをしているのかは大事な情報なのでしょう。
といっても、私の経歴書は一般に国際協力を志望される方からかけ離れているので、ほとんど参考にならないと思います。もし何かお伝えできるとすれば、経歴書に現れない部分、仕事をする上での価値観とか哲学のようなものだと思いますので、主にその辺をお話しします。

百田顕児
株式会社 学研ホールディングス 取締役
アイ・シー・ネット株式会社 代表取締役
早稲田大学法学部卒業後、研究機関・シンクタンクである株式会社三菱総合研究所にてODA事業に従事。2004年4月にアイ・シー・ネット株式会社へ入社。2014年に同社コンサルティング事業本部ODA事業部部長、2018年に副社長へ就任。2019年から現職。
2020年12月より学研ホールディングス 取締役を兼務。

正社員までの遠い道のり

一般に国際協力を志望する人は、海外大学の開発学修士号、英語+その他言語堪能、数年の実務経験(国連JPOとか華々しい人もしばしば)、在学中も各種インターン等で国際開発に触れ、さかのぼると幼少時代から強い思いをもって途上国支援に夢を持ってきたような人が多いです。

対して私は特に国際協力に興味があったわけでもなく、学歴は大卒(だらだらと留年)で修士号なし、まともに授業にも出ず、大学時代に打ち込んだものは麻雀くらいでした。そんな体たらくの上、卒業した年はいわゆる就職氷河期のピーク、手書きの経歴書を書いて100社以上に応募するも結局就職できず、数年フリーターや派遣で食いつなぐ時期が続き、何とか曲がりなりにも社会保険に加入できたのは28歳の時でした。

まあ自己責任と言われればその通りですが、この非正規雇用時代は今思い返してもつらいもので、人として扱われない、露骨にさげすまれるという扱いをさんざん味わいましたし、毎日契約をいつ切られるかおびえ、いかにして上司に認められて契約延長できるか考え、人を蹴落としてでも仕事にしがみつき、ありとあらゆる泥仕事もすべて引き受けて必死に働きました。

何とか色んな運や縁に恵まれて海外事業に携わる機会を得て、その経験を活かして当社の若手専門職として採用されました。
いわゆる正社員になれたのは当社に入って2年目、31歳の時でしたが、本当の意味で社会に必要な存在だと認められたようで、契約書を手にして泣いたことを今でも覚えています。
 

非正規雇用時代に培われたマインドが経営を支える力に

とはいえこの業界で生きていくには専門性も弱く、以降もどうすればこの業界で生きていけるかを常に考え、現場マネジメントなど、その時々で一番求められる役割に徹することで信を得てきました。振り返って考えると、あまり自分の軸がないまま、その時々の上司が何を考えているかを徹底して観察することで、気が付かないうちに経営の目線から考える習慣が身についたのかもしれません。

まあそんな来歴なので、私が代表にふさわしい品格や知見、能力を持ち合わせているとは今でも全く思っていません。国際協力の遠大なビジョンをもってキャリアを積んできたわけでもないし、気が付いたらこうなっていた、というのが実感です。
ただその分、いわゆる国際協力の人とマインド面で違うかなと思うのは、実体験から来る危機感が根っこにあり、目の前の仕事に必死でいられること、どうすれば組織に求められる人材になるのかを必死に考える中で、自分軸ではなく組織軸の俯瞰思考が多少なり身についたこと、それともう一つは、人の業みたいなものを多少理解できるようになったことでしょうか。

会社でも非正規雇用や組織の中で弱い立場にある人がいかに些細なことで不安定になるのか、そのことにおびえているのかを実感情で理解できます。当時は自分の契約を守るために非正規雇用同士で貶めあうようなことも多々ありましたので、人の倫理観や克己心のようなものが、いかに脆いかを自ら体験してきました。
その分、人に対して過剰な倫理感や期待感を持たずにフラットに見ることができますし、この感覚は会社を経営するうえで大いに役に立っています。何より、今でも当社で一番ハングリーだという自負があります。

こういうマインドは非認知スキル?とでもいうようなもので、とかく経歴書が重視されるこの業界では顧みられることが少ないですが、こういうマインドを持つ人がいる会社や組織は強いと思います。

目の前の仕事に全力を尽くすことの重要性

翻って国際協力の現場やそこを志す人を見ると、実体験に根差していないもろさ、過剰な倫理感から来る狭量さというか、地に足がついていない印象をもつことがあります。高邁な目標を掲げる割に目の前の仕事を軽んじる人、国連職員になることが手段ではなく目的化している人、平和構築が専門なのに同じプロジェクトのメンバーとは平和に仕事ができないとか、これだけ優れた来歴の人が集まっているのに、まとまりがないなと思うことがよくあります。
自分のキャリアを常に逆算で考える人は、総じて今の仕事を過程としかとらえず、力を尽くしきれない傾向があると感じますし、なんとももったいないなと思います。

私たちの仕事は、今目の前にある現場の思いやニーズを大事にすべきだと思いますし、それこそが自分が体験した経験や痛み、思いといった濃厚な核になっていきます。
経営者や専門家たるもの、長期的な展望をもってものを考えることも必要なのですが、同時に目の前のニーズに何ができるかを真剣に考え、力を尽くすことを忘れては意味がありません。

“小さなことを重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道”という名言がありますが、本当にその通りだと思いますし、国際協力というとても高い理想を掲げる道を志される方こそ、このことをよく刻んでいただきたいなと思います。