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名(苗)字ってなあに?〜名(苗)字あれこれ〜

 男女別姓が盛んに論ぜられています。結婚しても、同一姓になるのは嫌だと、主として女性の側からの異議申し立てのようです。近日中にこの異議申し立てが通り、やがて男女別姓が実現する社会になることでしょう。
 
 そうなりますと人間は、男女共に生涯一つの姓(名字)を背負い続けることになります。一体、名(苗)字とはなんでしょう?
 名(苗)字について考えてみたくこの稿を起こしました。

 過日の朝日俳壇の句を紹介します。

  死の見えて本名明かす寒昴(かんすばる)  
                      椿 泰文
 
  本名で逝きたる最期冴返(さえかえ)る
                      縣 展子
                     

 上記の句、誰のことを詠んでいる句かお分かりでしょうか。先日死亡した桐島聡を詠んだ句です。
 俳句の世界でも、このような世間の注目を集めた題材を拾って、季語(寒昴、冴返る)を付けて一句に仕立て上げるのです。

 桐島聡(偽名「内田洋」)は、連続企業爆破事件の容疑者です。彼は49年間も逃亡し続けた後に末期ガンで入院し、死の時期が見えた時になって「死ぬときくらいは本名で死にたい。」と、病院で自身の本名を明かした後、本年1月29日に死亡しました。
 人間には本名を捨て逃亡生活を続けていても、最後は本名に戻りたい心境に至るのでしょう。
 悲しいかな、人間の性(さが)とでも言っていいのでしょうか。

 ところで、月暦を眺めていると、至るところ「〇〇の日」「〇〇記念日」という記載が満載です。
 先月、2月の欄では「天使の囁きの日」(17日)、「嫌煙運動の日」(18日)があり、お堅いのでは「血液銀行開業記念日」(26日)ともあるから、吹き出してしまいます。
 この勢いでいくと、暦の365日はみんな「〇〇の日」「〇〇記念日」で埋まってしまう勢いです。

 そこで「名(苗)字の日」はないかと検索したところ、ありました、ありました。2月13日が「名字の日」と定められているのです。
 1875年(明治8年)2月13日に明治政府によって、国民が「苗字(名字)」を名乗ることを義務化するために、「平民苗字必称義務令」を定めたことから、この日を「名字の日」と定めたようです。

 この義務令が制定され、国民が皆「名(苗)字」を持つこととされた時、明治の人々は大変困ったのではないでしょうか。そこで、自分では名字を決められず、地域の有識者(僧侶・神主や有力者)に頼んで名字を選んでもらったようです。
 
 ところで、義務令が制定され、日本全国の民が名字を名乗ることとなると、名字が足りなくなり、名付け親である有識者らは、名字を求めてきた農民に、ある農村では「大根さん」「人参さん」を名乗らせ、漁村では「鯛さん」「海老さん」と名乗らせたと伝えられており、この野菜や魚の名字は、今も脈々と生き続けているとのことです。

 また、どんな経緯で生まれたのかは知らないのですが、難読な名字もあります。例えば「四月一日」さん、「栗花落」さん、があります。
 それぞれ「四月一日(わたぬき)」さん、「栗花落(つゆり)」さんと読むそうです。

 旧暦の四月一日は衣替えの日で、今まで着ていた綿入れを脱ぎ袷(あわせ)に着替えたので、「四月一日」が「わたぬき」さんになったそうです。
 また、毎年梅雨の季節になると、栗の花が散るので、「栗花落」が「つゆいり」さんになり、これが詰まって「つゆり」さんになったそうです。
 このように明治の人は名字にずいぶん工夫していたことも窺われます。

 私の名字は「国吉」です。私は沖縄生まれ、沖縄育ちなので、この名字はてっきり沖縄独特の名字だと思い込んでおりました。
 しかしながら、日本全国は広いもので、千葉県を走るいすみ鉄道には、なんと「国吉」駅があるのです。また、国吉駅から少し離れたところには「國吉神社」もあって、とても驚きました。

 今年の年初の旅行では、念願の「国吉駅」と「國吉神社」の双方を訪ねることができ、感無量でした。
 この二つを訪ねたことで、自身のルーツやアイデンティティーにたどり着いた思いをしてきたところです。

國吉神社初詣

 最後に、外国人の名(苗)字にも触れてみたいと思います。
 外国人の名字も日本語にすれば、滑稽です。「スミス(Smith)」さんは「鍛冶屋」さんですし、「ミラー(Miller)」さんは「粉屋」さん、「カーペンター(Carpenter)」さんは「大工」さんということになります。
 外国人の名字は職業と密接に結びついて生まれたようです。

 また、職業と結びついてはいませんが、アインシュタインは「一石」、シェイクスピアは「槍持ち」の意味になるようです。

 耳あたりの良い外国人の名字も、こうして突き詰めて見れば日本人の名字とさして変わりがないことに気づきます。

 日本人は、稲作民族であり、田を切り開いて稲を育ててきたので、田との結びつきが強かったのでしょうか。田の名字が滅法多いです。

 電話帳を開いてみますと「田〇」「〇田」の名字が犇(ひしめ)いております。

 歴代の総理の名字を拾ってみますと、「吉田」「池田」「田中」「福田」に現総理の「岸田」と続きます。

 最後に、小生の短詩を紹介して終わりにします。

 神の名があまり長くて困るよと
         神主の彼今日もぼやきぬ(短歌)

  この国の名字「田」の字が腐るほど(川柳)

 

【参考文献】
椿泰文『朝日俳壇令和6年2月25日付入選作品』
縣展子『朝日俳壇令和6年2月25日付入選作品』
金田一春彦『ことばの歳時記』新潮文庫
丹羽基二・楠原佑介『学研まんが事典シリーズ 人名・地名おもしろ事典』

 

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