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現時点(22年12月)での「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」の解釈

木下龍也さん、岡野大嗣さんによる共著「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」の解釈の話。

ネタバレしまくってますので未読の方は先に「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」を読んでください。よろしくお願いします。


前回の解釈は、

夏の七日間に何が起こったのか? ―「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」感想、考察―

こちらをご覧ください。当時思ってたことは書き切ったのですが、それからいろんな方の解釈を読んだりして自分でもまたいろいろ考えてみたのでそのことを書きたいと思います。


今回はさっくり結論から言う。
私は「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」は死ぬことが決まっている男子高校生Kが死にたいと思っている男子高校生Oを道連れにする話だと思っている。

そう思った理由を自作資料を見ながら書いていきたいと思う。
まずこちら。

KとOの恋愛の短歌

KとOの一見してそうと分かる恋愛の短歌一覧です。Kが17首あるのに対してOは0首です。Kは恋愛をしている。相手はOとして考えていきます。KはOを愛している。じゃあOは?というとよく分からないんですよね。

次の資料です。

Oと母親、Oと父親

Oは家庭環境の歌が多いです。一人っ子のOに二段ベッドをあてがって下で寝る母さんは異様ですよね。Oを監視し、支配しようとしている感じがあります。父親へは嫌悪感の歌が多いですね。
Oは家庭環境が最悪なわけです。恋愛する余裕がないんじゃないかな。ただKとOは一緒に海に行ったり花火を見たり、交わったりもしているので付き合ってはいる。しかしKはOを強く愛しているけれどOはKをそこまで愛していない気はします。想いの強さに差があるような。

次の資料です。

Kは何がこわいのか

Kは7月7日が来ることをおそれている様子があります。Kは(病気か何かで)7月7日に死ぬことが決まっている。しかし7月7日にはKはむしろ飄々としていて何かをおそれている様子がないんです。死ぬことがこわいのなら7月7日が一番こわいはずなのに。そこで考えたのはKが本当にこわいのは死ぬことではなく別のことではないか?ということです。たとえば自分が死ぬことによってOを置いていくこととかOを道連れにすることとか。

次の資料です。

KとOの他者への攻撃性、死にたさ

まず他者への攻撃性ですが、Kは高いのに対してOは大して高くないです。これは何の資料かというと7月7日にKは誰か、おそらくOに刺されているんですね。じゃあOは人を刺したりするような人物かということの検証で、そんな感じはしないなという印象です。じゃあなんで刺したの?ってことになってきます。
死にたさはOのほうが強く感じています。遺書を校正して文字化けがないようにPDFで保存しています。本気で死ぬつもりです。

では結びつけていきます。

まず事実として、
・KとOは付き合っている
・7月7日にKはOに刺される
というのがあります。

そして、
・KはOを強く愛しているがOはそこまでKを愛していない
・Kは自分が死ぬことではなく、自分が死ぬことに伴う何かをおそれている
・Oに攻撃性はあまりない
・Oは死にたいと強く感じている
のが見て取れます。

ここで当然の疑問として、
・なぜOはKを刺したのか
というのがあって、その答えが「Kがそうするように仕向けたから」という解釈です。
Kはどうせ死ぬのなら愛するOの手で死にたかった。Oに自分を刺すように言った。OはKを刺すほどの愛情は持っていなかった。戸惑ったかもしれない。けれどKは上手く誘導した。「死にたいんだろ?一緒に死のう。ぼくを刺したらOも死ぬしかなくなるよ。覚悟決められるよ。あの世でもぼくと一緒だからこわくないだろ?」という感じ。プラスして「Oがぼくを刺したらOの家族も学校もみんな大変なことになる。復讐だよ」とか。妄想でしかないですが。
そしてKの望み通りOはKを刺す。そのあとにきっとOはKの後を追う。それしかもう道がない。Kがそのようにしたから。
Kにも迷いはあったと思う。Kがおそれていた何かは「本当にOを道連れにしていいのか。それが許されるのか」というもの。最終的にはそうしたいという自分の気持ちを優先させた。

Kは自分の望み通りにことが進んで幸せだったと思う(死んでるのに幸せも何もないというツッコミはなしで……)。けれどOはこの結末で幸せだったかというと……。この「本当にそれで良かったのか?」という苦さもまた青春、なのかなぁ……。

……ああ、そうか。だから一番最後がこの歌なのか。

倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使

P136

これは7月7日が終わったあとの歌じゃないかな。Oは追想している。こんな場面がOとKの間にあってOはKのことを天使だと思った。幸せな記憶。7月7日の全てが終わった後にもOはKのことを天使だと思っている。死に導く悪魔ではなく。と考えるとこの結末はOにとっても幸せだったのかな……。

以上、今思ってる解釈でした。


余談ですが最近読んだ木下龍也さんの「きみを嫌いな奴はクズだよ」の物語調のあとがきが私がこのnoteで書いたような内容に近い話でびっくりしました。私の玄関~の解釈と木下さんの玄関~前の物語が謎につながっている……。玄関~はこの「きみを嫌いな奴はクズだよ」から始まったのでは……?とか考えてみましたけど分かりませんね。なんにしても「きみを嫌いな奴はクズだよ」もすごくいい歌集で玄関~好きな人は好きだと思いますのでぜひ読んでみてください!

玄関~のことはこれからも考えていきたいと思います。みなさんもぜひ考えてみて解釈を聞かせてください~!


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