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コンクリートから砂利道に(前編)

恋人との初温泉旅行。

サプライズ旅行で前々日に準備をするように言われ、
どこに行くのかも知らされず、
ウキウキルンルンでした。

そう、あの時までは――

向かった先は箱根。

恋人はレンタカーを借りて、
富士山を見ながらドライブしつつ、
ホテルに向かうという計画を立ててくれていました。

しかし、その日は生憎の曇り空。

恋人は天気があまり良くないことを知り、
別案も考えてくれていて、
梅酒の有名な酒蔵に向かうことになりました。

部屋に露天風呂が付いている部屋を
予約してくれていたので
露天風呂に入りながら飲むという
素敵なプランを考えてくれいてたのです。

酒蔵に車を止め、販売所を探します。

「ねぇ、あっちじゃない?」

と右を向いたときでした。

視界が一瞬にしてぐるりと変わり、
身体全体に激痛が走りました。

(痛い……。地面近い……)

そう思ったときにはすでに私は
コンクリートから砂利道にスライディングを
かましていたのです。

あまりの痛さにすぐに起き上がることは出来ず、
どうにか上体を起こしたものの、
それ以上は動けませんでした。

さすがに驚いたのでしょう。

「……大丈夫?」

と恋人は言葉少なです。

恋人は立ち上がれない私の脇に腕を入れ、
持ち上げてくれました。
嘘みたいに脚に力が入らず、
フラフラとする私を支えてくれます。

どうにか自力で立てるようになり、
左膝に目をやると血まみれです。
右手で顔面をかばったので、こちらも血まみれです。

何かに躓いた気がして振り返ると、
スロープのスタート部分に
1センチくらいの段差がありました。
そこに私は靴のつま先を引っかけてしまったのです。

どんくさ……、と思いつつ、
血まみれの私は「痛いよぉ……」と半泣きで
砂を落とせる場所を借りるために販売所を探しました。
もはや、販売所を探す理由が変わっています。

恋人と販売所にたどり着くと、酒蔵の方に

「着いて早々申し訳ないのですが、
転んでしまったので洗える場所を
貸していただけないでしょうか?」

とお願いしました。

そのときの酒造の方の驚いた顔は忘れられません。
わかります。
お酒を買いに来た客が膝と手から
だらだら血を流していたら、私だって驚きます。

酒蔵の方はとても優しくて、
外にある洗面所を貸してくださり、
絆創膏までくださいました。
あまりのケガのひどさに
「枚数足りないよね!?」と何枚もくれました。

恋人は私と一緒にお酒を選ぼうと
思っていてくれてたらしいのですが、
私が全く戻ってこないので、
すでにお酒を選んで購入してくれていました。

ちなみになぜそんなに
私が戻ってこなかったかというと、
コンクリートと砂利道に
スライディングをかましたため、
小さな石や砂が傷口に
めちゃくちゃ入ってしまっており、
傷口をごしごし洗う必要があったのです。

小学生のときもよく転んでいたので

(あー、昔取った杵柄だわー……)

と思いながら、ガシガシ洗ったのでした。

後編につづく


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