パン屋日記 #27 青のチェック

「ちょっと、パンツ買うてきてくれ」

お留守番も中盤に差しかかってきた頃

クマ崎さんが、
とんでもないことを言い出しました。

クマ崎さんは、洗濯の仕方がわかりません。

奥さまにあらかじめ、

パンツ10枚、靴下10枚、ランニング10枚を
準備してもらっていました。

ところがここへきて、
パンツが１枚足りないことに気づいたのです。

「最近は、コンビニで売っとるらしいじゃないか」

（知ってるなら自分で行きゃあいいのに）

とも思いましたが、

気軽にコンビニを利用できる69歳なら

コーヒー不足で体調が悪くなることも
ないのでしょう。

「柄は、なんでもええけん」

あきらめて、買いに行くことにしました。

迷うこともなかろうと思って行った、
コンビニエンスストア。

ここで思いがけず、
難しい決断を迫られます。

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紳士 ボクサーブリーフ Ｍ
紳士 トランクス　Ｍ
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（69歳って、どっちを履くんだ……？)

店員さんに聞くわけにもいかず
「60代 トランクス」で検索。

ボクサーブリーフというのは、
30代より若い世代の男性に人気の下着で

高い年齢層の人には、
トランクスを履く人が多いようです。

(何やってるんだろう、わたし)

この一年で一番の

「何やってるんだろう感」でした。

パン屋も、なかなか大変です。

翌々日。

「icca。昨日はおらんかったやないか」と、

いつも通り７時45分に来た
クマ崎さんに言われました。

『昨日は遅番だったんです』

「ほうか。見せちゃろうと思ったのに、パンツ」

『クマ崎さん。』

わたしは、ひと言ひと言、
重みをのせて言いました。

『わたし、見せてもらわなくても、
　知ってるので大丈夫です。
　青のチェック。』

「ほうか。ハッハッハ」

クマ崎さんは、お留守番が始まって以来
久しぶりに大きな声で笑い、

元気よくお仕事へと向かわれたのでした。