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パン屋日記 #49 コーヒーフレッシュ


レストランのじゅうたんに、
コーヒーフレッシュをぶちまけました。

幸いにも、近くにおられたお客さまの
お洋服は無事…

…のように見えたのですが

そのお客さまのお母さまの方が

すっかりご気分を害され、

現金で3000円
お包みすることになってしまいました。



失敗してしまったことへの落ち込み。

3000円分の、納得できない気持ち。



唯一の救いは、

あさってが清掃業者さんの
月に一回のじゅうたんクリーニングの日だったこと。

油脂の汚れは、落ちにくいのです。



なかなか気持ちを切り替えられず

しょんぼりと小さくなったまま
昼休憩から戻ってくると、

レストランのじゅうたんのシミが、
跡形もなく消え去っていました。

落ち込むわたしを見たみんなが、
トントントントン

わたしがいない間に、
トントントントン

じゅうたんを叩いて
掃除してくれたようなのです。


『iccaさん、じゅうたんのシミ、落ちましたよ。
だから気にせず、もうおしまいにしましょ』


「ご、ごめんね。きれいにするの
 大変だったでしょう」

とわたしが恐縮すると

あんなんすぐよ、と言って
めいちゃんがニカッと笑うのでした。



失敗は続くもので

こんどは週明け早々、
マグカップを粉々にかち割りました。

休憩室から店舗に戻ろうとした時、
うっかり手をすべらせ

通り道の駐車場で
地面に落としてしまったのです。

わたしはめそめそとしゃがみこみ、
大きなかけらを手で拾いました。

休憩時間が終わったので
いったん店内に戻り

「今、駐車場でマグカップ割っちゃった……」

と言うと

『えっ、大丈夫ですか。怪我はないですか』

と、めいちゃんが言いました。

「坂下先生すみません、
 こちらを割ってしまいました……」

と報告すると

『ありゃりゃ。お怪我はなさいませんでしたか』

と、坂下先生は言いました。

「すみません、これ、
 不燃ゴミでワレモノです……」

と言って
マグカップの亡骸が入った袋を渡すと、

『あらっ。足とか大丈夫でした?』

と、パートのフジ子さんが言いました。

割った場所に水を流さなきゃ、と
バケツいっぱいに水を汲み

よろよろと現場に戻ると

細かい破片も、
アスファルトについたコーヒーのシミも

きれいさっぱり、洗い流されていました。


「ん。もう流したよ」

と言って


ジャムおじさんが じゃあねー、と
帰っていきました。


家族でもなければ、

友達でもないのですが

この人たちは、

人生の中でも
なかなか忘れられない人々になりそうだなあと

下げた頭が、上がらないのでした。



【ジャムおじさんのお話】

■「おしごとでたいへんなことはなんですか」
https://note.com/icca333/n/n68790e203a27

【めいちゃんのお話】

■ママのめいちゃん
https://note.com/icca333/n/nde213f6bf2af

■おばあちゃんの金言
https://note.com/icca333/n/nda67a839def4

■遠足、ばっくれようぜ。
https://note.com/icca333/n/ndb8a783d8ea6


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