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パン屋日記 #12 後輩のこうめちゃん

高卒で入った、後輩社員の女の子がいます。
名前は「こうめちゃん」といいます。

こうめちゃんは、いちいち自虐的です。
しかしその自虐かげんが、絶妙にソフトで、
じわじわくるのです。

こうめちゃんは、
誰かのうしろを通り抜けるときに必ず

「はい、大きいのが通りま~す」

と言って通り抜けます。

自宅でのお母さんの口ぐせを
真似して使っているのだそうです。

昼休憩の時間に
わたしがちょっとコンビニへ行って帰ってくると、

「えっ、早い! 自転車で行かれたんですか?」
と聞いてきます。

「いや、歩きだよ。
 わたし、歩くのちょっと速いんだ」
と答えると、

「なるほど、これが脚の長さの違いですね……!」
と言って一人でうなずいています。


ある日こうめちゃんが
茶こしが見つからない、と言って
わたしのところへやってきました。

「なんだ、あるじゃん。
 いつもの引き出しの、手前のところに」

わたしがめんどくさそうに答えると、

「あの、すみません。ちょっと目が……」

こうめちゃんは言いました。

「ふし穴だったみたいで」

そこまで言って
ないのです。


お正月に、お腹をこわしてしまったという
こうめちゃん。

「初詣には行けた?」と尋ねると、

「いえ、行けなかったんですけど、あの」
こうめちゃんは言いました。

「昨日ソレイユ(ショッピングモール)で
 獅子舞に噛んでもらったので、
 大丈夫だと思います」

ソレイユでばくっと頭を噛んでもらった時、

獅子舞の口の中から知らないお兄さんに

『今年も良い年になりますように』

と言っていただいたのだそうです。

やさしそうな人でした、と
こうめちゃんが申しておりました。


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