見出し画像

探究のはじまり

もう悠に30年以上前の話ですが、こんな私にも学生だった時代があります。ベルリンの大学の社会学部で初めて授業を受けた時、担当の先生が最初に言いました。
「君たちが飲むたった一杯のコーヒーにどれほどの人が関わっているか、そういうことを常に考えて生活しなさい、それが社会学の入り口です」
コーヒー豆をはるか遠くの国で生産している人たちにはどういう生活があるのか、どのようにして売買され、運ばれてくるのか、それを客に売っているカフェの経営はどうなっているのか、ウェイターの給料はいくらなのか・・・たった一杯のコーヒーから様々な思いを巡らせることが出来るということです。
今でもその最初の授業を自分が覚えているのはそれだけ印象深かったということでしょう。

私は昔から周りの人に「余計なことを良く考えるタイプだね」というようなことをいつも言われてきました。黙ってうなづいていればいいものを、批判的なことを口にすることは、時に自分自身の人生をより困難にする場合があります。
今の自分の人生はその成れの果てでしょうか。苦笑

からあげクンの話

そんな私は最近、コンビニ大手、ローソンの人気商品「からあげクン」についてある疑問を持ちました。この話を周りにしたら、誰もが「え?そこですか?」と笑われましたが、要は、あれは、
鶏の胸肉をそのまま使って揚げたものか、それともミンチ状のものを糊でくっつけた形成肉と言われるものか、その正体がしりたかったのです。
というのも、たまたまテレビ番組で、プロの料理家がコンビニの商品をやれ合格だ不合格だと札を上げて評価するのをみていた時に、からあげクンが出てきて、その時、鶏の胸肉が大きく映されて「これを使っています」というような説明がされていたのをみたからです。
詳しい文言は覚えていませんが、明らかにあたかもその胸肉をそのままカットして使っているというような見せ方をしていました。

普通に料理をする人なら、鶏肉をあのような均等な形にカットすれば必ず切れ端が出るのは当然だと思うし、そもそも食感が普通の鶏肉とは違います。
ということで、興味にとりつかれた私は、早速Chat GPTや、Googleを使って調べてみましたが、はっきりとした答えが見つからないのです。

かくなる上は、カスタマーサポートセンターに聞くしかないと思い、電話をしました。(うちの先生たちには普通の人はそんなことはしないと笑われました)
オペレーターの女性は丁寧にこちらの質問を繰り返して、後日担当者から連絡をすると言われました。そして翌日、約束通り電話がかかってきました。

からあげクンの正体は?

私の予想はもちろん形成肉、恐らくそういう回答であろうと思っていたのですが、担当者は何と言ったと思いますか?

「申し訳ございませんが、お問い合わせの件に関しましては、企業秘密となっており、お答えすることが出来ません」

正直そういう回答を期待していなかったので面食らいましたが、鶏の胸肉を普通に使っていればそういうでしょうから、そう回答出来ないということはやはり普通のお肉そのものではないということなので、そこは「わかりました、ありがとうございます」と言って電話を切りました。

次の日、たまたまローソンに立ち寄ったのでレジ横のケースに並んでいるからあげクンコーナーを今一度良くみてみました。
すると原材料のところに「鶏肉、大豆、豚肉、小麦」などと書いてあるではないですか。
そしてパッケージをみるとそこにはニワトリのイラストが・・・なるほどと思いました、からあげクンという商品名で、ニワトリのイラストを大きく使っているからといって、誰も「とりの唐揚げ」だとは言っていないのです。
我々が、消費者が勝手にそれを「とりの唐揚げ」だと思い込んでいるだけで、実は中身は別物なのです。

現に世の中にはこういったことは多くあります。悪く言えば消費者をだますようなことをしているわけですが、ビジネスというものは、経済というものは・・・そういう側面はどこの国にもある話です。お金を払う人が知ってか知らずか自分で納得して買っているのであれば他人がとやかくいうことでもないでしょう。

クリティカルシンキングは探究のはじまり

クリティカルシンキング、批判的思考という言葉を最近良く聞くと思います。批判的というとあまりいい印象がありませんが、ひとつの説明として「多面的に物事をみる力」とも言えると思います。
IB教育においても、生徒たちに「批判的思考力」を身につけさせることを重視しています。
これはつまり、あれこれ批判ばかりする嫌な人間になれと言っているのではありません。
ちなみに私は最近の小学生で流行っている「はい、論破!」という、人を見下したような態度をとる人間が大嫌いです。

私が今回、ふと「からあげクン」にこだわって電話をかけたりしたのは、まさに批判的思考をもったからです。
そしてそれが「探究のはじまり」です。
私は、からあげクンの正体をある程度知ることにより、自分がそれを買いたいのかどうか、考えて、自分の行動を決めることができます。

うちの卒業生のY君は、環境問題のエッセイで文部科学省から表彰を受けましたが、その中で彼は、家畜の牛のゲップから大量のメタンガスが排出され、それが温暖化の原因になっていることを知り、「牛肉を食べるのは好きだけど、これからは週1回にする」ことを決めました。

無関心の罪

戦争、環境破壊、健康問題・・・世の中は社会課題にあふれています。それを解決し、より良い世界を作っていくには、色々なことに無関心にならず、興味をもち、立ち止まって考えることが必要です、それが探究の入り口になります。

うちの職員にも私はいつも言っています。「色々なことに無関心でいること、それが大人として教師として罪深いことだ」と。
うちの生徒には、そういう疑問だらけ、探究心だらけな子ども達がたくさんいますので、また別の機会に紹介していきたいと思います。

※毎週月曜日に新しい記事を投稿する予定です。良ければフォローして最新記事や過去記事をご覧ください

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?