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HR豆知識⑫Job型・メンバーシップ型

諸外国の働き方

(出典:諸外国の働き方に関する実態調査 2014、厚生労働省)

昨今様々な記事で見られるようになった言葉の「Job型・メンバーシップ型」という雇用のあり方について、皆さんにその考え方を共有していきたいと思います。Job型というと欧米型の人事管理の考え方という事は想像たやすいと思います。しかし、言葉が表現しているものと記事で述べられているものには解釈の違いがあるようです。ですので、きちんとした理解を読み手の方が出来るように纏めます。

まずは雇用ジャーナリストである海老原さんの著書「人事の成り立ち(後述)」から。

Job型とメンバーシップ型の違い①(情緒面)

Job型と言えば、「仕事内容を明確にする、そして仕事・職種に応じた賃金を設定し極端な賃金差別化を図る」というのが一般的な解釈ではないでしょうか。

まず「人事の成り立ち」の著者である海老原さんは情緒的な違いがある、と述べます。

Job型とは「会社と個人は、仕事のみの契約関係であり、後は拘束も従属もない」という解釈。メンバーシップ型とは、「個人に忠誠心を誓わせ、家父長的な組織に社員を従属させる」という解釈。(人事の成り立ち(著)海老原嗣生・荻野進介)

これは、別の表現で言えば「就社」というものがメンバーシップ型で、「就職」というものがJob型と表現される背景です。

Job型とメンバーシップ型の違い②(労働契約)

日本の労働契約は兼ねてから「無期雇用」や「終身雇用」と呼ばれることがありました。これは解雇に対する考え方が大いに違う事から生まれるものです。

アメリカの一例を出すと、アメリカは「At Will(意思のもと)」という前提があり、当事者間の合意がない場合、カリフォルニア州のすべての従業員は「意思のもと」とみなされます。これは、従業員または雇用主の双方が、理由の有無にかかわらず、通知の有無にかかわらず、いつでも雇用関係を終了できることを意味するということを労働法にて定めています。

そして契約にも①明示的契約(期間や解雇理由などをあらかじめ定め合意する)、②暗示的契約(明示的な合意がない場合、裁判所は時には当事者の行為に基づいて契約条件の存在を示唆します。これらの暗示された用語は、「意志のもと」という仮定を覆すことができる。暗示的契約は、企業の慣行、方針、声明の形で行うことができます。)、③統合契約(「黙示契約」とは反対に、雇用者は、統合協定が雇用時における当事者間の唯一の合意である(合意は意味していない)という統合契約を使用することができ(この契約は当事者間の事前の合意に優先する事前の陳述書または契約書は保持されません)、将来の改訂は書面で行わなければなりません。)があり、日本のように無期雇用が前提ではない、ということはわかります。

日本においても①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇の三種類があります解雇権の濫用については判例で相当に厳しい枠がはまっているのが現状です。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

Job型とメンバーシップ型の違い③(人事権)

しかし、本質的な違いは人事権にある、と海老原さんは述べています。これは即ち、会社都合で異動が決定されるかどうか、ということです。つまり、欧米では企業が勝手に人事を決められません。一方で、日本が企業が強力な人事権を持ち、自由自在に組織編制ができる。すなわち、

ジョブ型は「ポスト固定型契約」で、メンバーシップ型とは「ポスト可変型契約」といえる(人事の成り立ち(著)海老原嗣生・荻野進介)

ということなのです。海老原さん曰く、日本型雇用は、「ポスト可変型契約であり、誰しもが階段を登れる構造になっている」という特徴があるそうです。その結果、未経験者を育てることが出来たるポジティブな側面(新卒採用がいまだ主流の採用)やワークライフバランスが整わず女性の活用推進が欧米諸国と比較して遅れているネガティブな側面が発生している、との事でした。

ケース:経営陣の1人が辞めたら?

とあるケースを想定するとその影響がわかります。例えば、会社にとって重要なポストの1人が抜けたことを想定してみるとその違いが判ります。

欧米の場合:あくまでも縦の異動(≒昇格)で埋める
 (玉突きで空席の連鎖が起きる。時間がかかり、採用したほうが良い)

日本の場合:縦横含めた柔軟な昇格・異動が可能
 (抜擢人事含め、組織全体の人員で空席を埋めていく事が出来る)

これはこちらのPPTを見て頂くのが最もわかりやすいのでご興味がある方はこちらの資料を見てください。

日本の大手企業が今取り組んでいる事

図3

これまでの日本型雇用では、ある程度の制約がありながらも、間のボールを拾い、互いが連動しながら目標を達成することが求めらるサッカー型な環境になっていました。しかし、コロナなどによって察する事が難しい環境になったために役割の線引きをきちんとするアメリカンフットボール型の組織体制づくりにシフトしています。

① 仕事を明確にする(組織内のブラックボックスをなくす)

専門用語では「キャリアラダー」と呼ばれるものですが、これまでの日本企業の仕事の捉え方は以下のようなイメージに近いです。

(これまで)

図1

(これから)

図2

上記のような形で今まで概括的だったポストがさらに細分化されていきます。

日立は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指している。背景にあるのが、ビジネスモデルの転換だ。
引用:https://news.yahoo.co.jp/articles/158a3a67a85c5cf0a73a3fac51b1a7cad14db3a6

ただ、JDが本当にきめ細かく書かれるか?という点においては、そもそも欧米のJDも概括的な表現が多い(例:採用業務全般を管理する、など)ということと、仕事内容は当然変わっていくので作り過ぎても意味がありません。従って、全社員の職務経歴書を作ることに意味はなく、全ポストの役割や目標、業務遂行に必要なスキル・知識経験・能力(KSA)を概括的に整備する事が必要です。

② 給料を仕事(職種)によって差別化する

上記のようなボックスの明確化によって、夫々の価値を新たに定める流れが出てきます。例えば、25歳のデータサイエンティストが40歳の総務担当と同じ賃金になる、という事も生まれるのです。

メリットとしては、需要の高い職種に対して「内的公平性ではなく外的公平性を重視した賃金報酬が提供できる」ことであり、採用競争力やリテンション施策が抜本的に行えるようになります。

デメリットとしては、内的不公平から組織内のハレーションが生まれる可能性があり、より一層のエンゲージメントマネジメントが求められ、管理職の負荷は高まります。

報酬制度に関しては、以下を参考にしてください。

キャリアマネジメントの考え方は大きく変わっていく

ポストが明確になれば、個人のキャリアプランも変わっていくでしょう。明らかに年収格差が出るからです。アメリカでData ScienceやAI(ML)の専門家となると大学院を卒業した初年度で1700万円~2,000万円の賃金が支払われており、マジョリティは高賃金の仕事を目指すようになるかもしれません。

すると企業もその人材管理の手法も変えていかざるを得ず、これまでのような集合型研修などもなくなっていくでしょう。教育もIndividualizeされていくのです。

従って、労働者である私たちも、社内で通用するスキル以上に、社外でも通用する専門性が求められていく世の中になっていくことが予測されます。


最後まで読んで頂き有り難うございました。如何でしたでしょうか。
少しでも何かの参考になっていると幸いです。

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<参考文献>





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