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Diversity&Inclusion for Japan ⑩〜人事評価からジェンダー平等を考えよう


なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には細心の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。https://every-co.com/

はじめに

アメリカには、能力や過去の実績に関わらず、女性がキャリアの一定の時点でそれ以上の高い地位に上がることが難しいことを表現する、「 glass ceiling(ガラスの天井)」という比喩があります。 

Mellon Universityビジネススクールの准教授であるBearら(2017)は、女性がリーダーシップを取る壁となる要因の一つとして「女性が受け取るパフォーマンスフィードバック」を挙げました。今回のブログでは、職場でのフィードバックがどのように女性がリーダーシップを取ることを妨げているのか、またフィードバックという観点でどのように女性の活躍をサポートできるのかを考えるきっかけを作れたらと思います。

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Julia Bear Associate Professor, Management

Education: PhD, Carnegie Mellon University 

1. 評価者・被評価者の上下関係がジェンダーバイアスを強める

フィードバックは多くの場合、地位のある人が地位の下の人に与えるものであるため、そこに上下関係( inherent power gap)が備わっていると言われます。その上下関係がゆえに、フィードバックはジェンダー間のリーダーシップ格差を広げるきっかけになりうるとBearらは主張しています。

「フィードバックがジェンダー間のリーダーシップ格差を広げる」というメカニズムを、フィードバックを与える側と受け取る側の二つの観点から説明していきます。

2. 「評価者」がジェンダーギャップを広げる2つの理由

フィードバックを与える側からジェンダー間のリーダーシップ格差を広げるメカニズムには以下の二つがあるとBearら(2017) はまとめています。

① 男女間で異なる評価基準を持っている
②  善意的な「甘やかす」ようなフィードバック

①男女間で異なる評価基準を持っている

人間関係におけるスキルと、タスクパフォーマンスの両方において、男女間では異なる評価基準があると言われています。中でも、女性は相対的に、仕事そのものの成果よりも人間関係におけるスキルに関するフィードバックを受けることが多いと言われています。

これは私たちの日常からきています。例えば、男性にとって、周囲の人の仕事を手伝うかどうかは個人次第で、手伝っても、手伝わなくてもどちらでもいいとされてますが、女性の場合はそうではありません。

だからこそ職場でも同様に、女性はjob descriptionsで定められている範囲を超えて同僚の助けをすることが求められます。周囲の人の仕事の手助けをしない女性は、周囲の手助けをしない男性に比べ、パフォーマンス評価で低い評価を受けることになります。

実際に女性は男性の前にしたとき、昇進には関係ない作業(送別会の企画、ミーティングの書記など)、進んでをしなければならない、というプレッシャーを感じているといいます。この評価基準には以前紹介したジェンダーステレオタイプが深く関わってきます。

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「あの女性はあれだけ成果が出て当たり前。他の女性と同じように会社行事の幹事をしていないんだから」

という様な解釈です。従って、そもそもの仕事の成果基準に加えて、性別としての評価基準が加わっています。それがバイアスが生まれやすいメカニズムである事を、私たちは知っておく必要があるのです。

また、以前の記事でも紹介したように、Stereotype Content Modelによれば男性に求められやすいAgenticな性質(競争的、自信がある)と女性に求められやすいcommunalな性質(暖かい、友好的)は相容れない性質として認識されます。

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その結果、人当たりが良く、暖かな雰囲気の女性は能力が低いとみなされる一方、自信があり、競争心の高い女性は人間関係におけるスキルが低いとみなされる現象が生まれやすいのです。

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つまり、女性が高い評価を受け、昇進していくためには、競争力を示しつつも、それを協調的な行動で補わないといけないため、女性がリーダーシップポジションに就くには男性より多くの努力が求めらる可能性があります。

② 善意的な「甘やかす」ようなフィードバック

2つ目の特徴として、女性は男性に比べ、あまり挑戦的ではなく、パフォーマンスには関わりのないフィードバックを受けることが多いとされています。

King et al. (2012)(as cited in Bear et al., 2017)によるマネージャーに対するアンケートによれば、キャリアを通じて得た評価の中で、男性に比べ、女性はあまり挑戦的なフィードバックや将来の成長に繋がるような課題をもらっていないことが分かっています。

「あなたは女性なので、この部分は頑張らなくていいですよ」

という善意的なフィードバックも、もしかするとジェンダーギャップを生んでしまっているのかもしれないということを管理職/マネージャーは意識する必要があるのです。


3. 被評価者がジェンダーギャップを広げる2つの理由

では、評価をされる立場に原因はないのでしょうか?

フィードバックがジェンダー間のリーダーシップ格差を広げるメカニズムには、「女性がどのようにフィードバックを受け取るか」も大きく関わっています。Bearら(2017)は受け手のメカニズムを二つ挙げています。

①女性がフィードバックを過小解釈する傾向
②女性が曖昧なフィードバックを否定的に解釈する傾向

①女性は「実際よりも評価され過ぎている」と感じやすい

自信という観点から、ジェンダー間のフィードバックの解釈に違いが出る可能性が指摘されています。

Schwalbe and Staples (1991)(as cited in Bear et al., 2017)によれば、女性は、男性に比べ、自己肯定感を保つ上で、他者の自分に対する反応が重要であると考えているといいます。そのため、男性と女性が自分の能力に関して同じレベルの自信を持っていたとしても、他者からの評価に関して男女間で異なった理解をしている可能性があります。例えば、Sturm, Taylor, Atwater, and Braddy (2014) (as cited in Bear et al., 2017)によれば、女性と男性で上司から同じような評価を得ているにも関わらず、女性は上司からの評価がより低いと考える傾向にあることが分かっているのです。


「いやいや私なんて」と考える傾向が男性以上に女性は強い、という事です。


また、Bearら(2017)は男性と女性のリーダーでは、異なったかたちで自己認識(self-awareness)がずれやすい可能性を指摘しています。男性は自信過剰に、女性はその逆です。

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その結果、能力が同じである場合でも、男性は女性に比べ、昇進への打診、リーダーシップ機会への挑戦をすることが多くなる可能性があります。

②女性は曖昧なフィードバックを否定的に解釈する

女性がリーダーとしてのパフォーマンスに関して、曖昧で、にわかに否定的なフィードバックを受けたとき(例 「よく頑張ったね」など)、男性に比べ、より否定的な評価を受けたと解釈する傾向があることが分かっています。女性はこのようなフィードバックを受けたとき、自分のリーダーとしての価値が否定されたと感じ、その結果、将来リーダーシップをとることを選ばなくなる傾向があります。

フィードバックがジェンダー間のリーダーシップ格差を広げるというメカニズムを踏まえた上で、組織全体として、また個人としては何ができるのでしょうか。

4. 組織は何ができるのか

フィードバックがジェンダー間で平等に行われるために組織全体としては何ができるのでしょうか。

①曖昧な評価基準を改め、客観的で画一的な評価基準を定める
②理想の社員、リーダー像を変える

①曖昧な評価基準を改め、客観的で画一的な評価基準を定める (Mishra,2021)

パフォーマンス評価を行う前にマネージャーは部下に求める結果や行動の基準をはっきりさせる必要があります。また、フィードバックがポジティブなものであれ、改善を求めるものであれ、それをビジネスゴールにつなげる必要があります。

また、部下にフィードバックを伝える前に同じレベルの部下の間で評価の基準が同じであることを確認する必要があります。

例えば、ある部下はコミュニケーションスキルで評価されている一方、別な部下は業務スキルで評価されるということは避けなければなりません。

②理想の社員、リーダー像を多様にする

二つ目に、組織文化そのものを改革することです。多くの組織では「どんな責任にも物怖じしない強い男性」が理想の社員であるという考え方が強く支持されています。「強い男性が理想のリーダー」という考え方から、様々な経験とバックグラウンド持つ人がリーダーになる可能性があるという考えに変えていくことが必要です。

従って、会社内で行われる表彰の機会を活用して多様な評価理由で社員やリーダーを表彰する仕組みが最適と言えます。

人々が無意識のうちに持つ「理想のリーダー像」を変えることで、多くの人はステレオタイプの制約に縛られることなく評価を受け、リーダーになることができます。

「男らしさ」を理想化する組織文化とそれに対するアプローチについて以前の記事で詳しく書いています。

5. あなたは何ができるのか


①評価を受ける立場である方のチェックリスト

まず初めに、「自己評価」が曖昧にならないように注意しましょう。出来る限り、「概ねできた」、「あまりうまくいかなかった」などの表記を避けるようにすることは非常に重要です。

その上で、曖昧で否定的なフィードバックを受けたときは以下のチェックリストを参考にしてください。

・上司に評価に関するミーティングの機会を求め、具体的な内容について聞く
・上司があなたの具体的な行動の何が良くなかったかを聞いてみる。またそれがどのようにビジネスゴールに繋がるのかについて明確に聞く。
・相手の指摘する点について自分がどう改善するべきなのかについて具体的な質問をする(もし納得がいかない場合は、第三者に相談する。この場合は上長の上長が相談相手となる。)

②評価をする立場である方のチェックリスト

相手に建設的なフィードバックをする際のチェックリスト

期待を伝える(はじめに、「私はあなたに対して高い基準を持っている」と伝え、あなたが部下の能力を信じていることを伝える。)
・改善点を言及する意図を伝える(相手がより高いパフォーマンスができると信じているため、部下の改善すべき点について言及しないままで終わることを防ぐ。)
・次に改善のための具体的なステップについて話す。フィードバックは相手を批判するためのものではなく、改善できる部分を明確にするために指摘するのものである。

具体的なメカニズムと科学的アプローチで、実践的なジェンダー平等施策を考える


「この会社はジェンダー平等を目指しています」ということは簡単です。しかし今回紹介した通り、ジェンダー間のリーダーシップ格差には、ジェンダーステレオタイプ、ジェンダー間でのフィードバックの解釈の違いなど、複雑なメカニズムが関わっています。


なんとなく、「ジェンダー平等を目指す」のではなく、具体的なメカニズムを理解しながら科学的にアプローチすることで平等で、優秀な人材が活躍する組織に近づけるのだと私たちは信じています。

最後まで読んで頂き有り難うございました。

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どうぞ宜しくお願いします。


参考文献

Bear, J.B., et al., Performance feedback, power retention, and the gender gap in leadership, The Leadership Quarterly (2017), http://dx.doi.org/10.1016/j.leaqua.2017.02.003

Mishra, S (2021). The difference in men and women’s performance evaluations. Sonya Mishra. https://berkeley.qualtrics.com/jfe/form/SV_6m3MFdJYaChkZIF

著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した3カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

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https://www.linkedin.com/in/masamitsu-matsuzawa-funwithhr/

著者紹介:池田 梨帆

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株式会社EVERY インターン

2021年5月、世界トップクラスの心理学部、University of California, Berkeley(以下UCバークレー)心理学部を卒業。在学中、UCバークレーのビジネススクール、Haas School of Businessのダイバーシティー・ジェンダー研究室で研究助手を務める。心理学を使うことで、人の思考や、グループ内のダイナミズムなど目に見えない要因を可視化し、効果的な問題解決をすることができると考え、特に心理学を使ってビジネスの効率性を上げることに興味がある。2021年8月より、George Mason University大学院で、Industrial Organizational Psychology(産業組織心理学)を学ぶ。
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